企画部屋
□お誕生日に何を買う?
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「アローン、おっはー!今日誕生日だろ、好きなもん買ってやるよ」
「えっ、いいよ」
絵を描くことに集中していた僕。決してテンマを適当にあしらった訳ではないが思いっきり頭を叩かれた。
「痛い!」
「痛い!じゃねぇよ、真面目に答えろよ」
と、言われても……と、絵を描いている筆を指から離す。今欲しいものと言えば、子どもたちが使っている小さい皿が痛んで欠けてきているので、丁度買って来ようとしていたところだ。
その他は、これといって欲しいものは、無い。「皆の皿が欲しいな」と言ったら、きっと「アローンが、欲しいものだよ」とか、「主婦か」って言われるだろうな。
……そうだ。サーシャが気に入って着ている服のボタンが取れてしまったんだ。太陽の明かりで透ける宝石みたいな石。どこで取れてしまったんだろう、僕の部屋には落ちていないし、サーシャも見つからないと言う。テンマの部屋が怪しいけれど、だいたい散らかっているから、きっとあったとしても発掘できない。発掘するよりお店で似た物を探した方が早いだろう。
「……皿と、サーシャの服の、ボタン」
「主婦か」
やっぱり言われた。
「それより、僕の誕生日覚えていてくれたんだね、嬉しいよ!」
テンマは喧嘩っ早くてはちゃめちゃな子だと大人は言うし、否定は出来ないけれど。すごく優しいんだよね。去年、僕の誕生日を一週間間違えて早く祝ったことを気にしていたようだ。これは後日談だが、「通りで皆が何も準備してない訳だ、ははは!」「誰も動かないから、俺だけでも祝ってやりたかった」「あいつは……アローンは、独りじゃない」と涙の供述。
そのことに関して僕は全く気にしていなくて、純粋に嬉しかったし、テンマの僕の誕生日に対する意気込みには感動してしまった。だって、「今日が誕生日ってさっき気付いたから有り合わせでごめん」とか言って、その日のおやつのケーキ、自分の分を僕にくれて。食いしん坊なのに。いつも僕とサーシャのおやつ狙ってるあのテンマが、ね。そう、あと、何か。
どんぐりいっぱいくれた。
「……僕はリスか!」
「急にどうしたアローン!?!?」
テンマと居るとお笑い芸人みたいになってしまう自分がいる。
「で、皿?皿とサーシャの服の……ボタン?で良いの?」
「えっ、良いのかい」
「逆にそんなんで良いのかよ」
僕の本当に欲しい物。考えても、急に答えられたりしない。
「今が幸せなんだよね」
きっと幸せは、本当に欲しいものはきっと、もう手にしてる。