短編集

□珈琲の香りと私
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『え‥…?』

「この前言ったと思ったんだけど‥
ほら駅前の珈琲屋。あそこ美味しいんだって」

私は今、とても焦ってます。
健太郎先輩とデートしたくないわけじゃないんです。
そんなわけじゃないんです‥…

場所がちょっといけないんです。
だって私‥…

珈琲が苦手なんです‥


言えない‥絶対に言えない。
だって健太郎先輩は珈琲が大好き。
彼の血は珈琲で作られているんじゃないかと不安になるぐらいに。

だけど、1日に何杯も飲む彼と違って私はミルクと砂糖がないと飲めない。

どうしよう‥
彼が好きなことを側で一緒にしたいと思ってる。‥望みだ。
だから断りたくない。だけど‥ 

だけど‥…!!!

ブラックなんて飲めない!
あんな苦いもの甘党の私には拷問だよ!!
珈琲の香りは好きなんだけど‥
いや‥そもそも珈琲屋さんはミルクとか砂糖を常備してるの?!
ブラック専門店じゃないの?!
ブラックを飲めないお客様はお客様じゃありません。とか言われそうだよ‥

一人で百面相でもしていたのか不思議そうに顔を覗きこまれてしまう。

『わっ!!』

驚いて声を上げるとしてやったり、とした顔をして笑う健太郎先輩。
その口から飛び出した言葉に私はもっと驚いた。

「‥大丈夫だよ。珈琲屋だけどちゃんと珈琲以外の他の飲み物もあるしケーキだって人気があるんだ。
‥…行ってみない?」

『なっ‥…!』

なんでこの人は私の珈琲苦手を知ってるの?!
一度も言ったことはないし表にも出したことはないはず。

「知ってるよ。俺の前で一度もブラック飲んだことないじゃない。
飲むとしたらカフェオレか砂糖を入れるでしょ?」

『うぅ‥…
何です、知ってたんですか‥』

なんて観察力っ!!!!

いやちょっと待って‥

『…まさか知ってて言ったんですか?!!』

「ごめんごめん。慌てふためく霧姫の姿が可愛くてさ」

目を細めて笑う彼を見てホッとしたけど本当に焦った。
彼が知っててくれて良かった‥


『オススメとかってありますか?』

「えーとね‥前に花宮達と来たときケーキセットがよく出てたよ。俺はまだエスプレッソしか飲んでないけどね」

だから霧姫と一緒に行くのが楽しみだったんだ。

と普段見せない子供のような笑い方をされながらそんな言葉言われたら‥

照れちゃうじゃないですかっ!

END

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