短編集

□4.待てと言われて待つと思うな
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4.待てと言われて待つと思うな


「何かさぁ‥お前って一緒にいて会話が弾まないってか面白くないってか‥」

私が前の彼氏に分かれを告げられた時に言われた言葉。
ずっと心に突き刺さっている。

何がいけなかったのだろう‥
何が足りなかったのだろうって悩んでた。


「それは霧姫が悪いんじゃねぇよ。ソイツの会話能力が低いだけだ」

と元親は言ってくれる。
元親と話すときはリラックスして自分のことを言いやすい。
何が違うんだろう‥

その疑問を抱えたまま私は学校生活を過ごしていた。

そんなある日。

私は前の彼氏に呼び出されていた。
今更話すことなんてない‥…と思いながらケリをつけるなら今、と話を聞くことにした。


「なっ?俺が悪かった。
謝るからやり直そうぜ」

元親とこんな関係になるまでは喜んで飛びついたと思う。
だけど今は‥


『‥私にはもう好きな人がいるの』

少なくともこの人じゃない。
自分勝手で相手を弄ぶような、こんな男じゃない。

『だから‥ごめんなさい』

「‥なに勝手なこと言ってるんだ。俺はお前がいいんだ」

"お前がいい"

同じ言葉を元親に言われた。
だからわかる。
その言葉の重さの違いが。

『私ね‥同じことをある人に言われたの。
その時は単純に嬉しかった。だけどね、今言われて何も嬉しくない』

彼の目を睨みながら言い切る。

『私はもう貴方に興味ない』

今では何故こんな男と付き合ったのかが分からないほど。
だけどこの男はニヤリと笑い私に近づいてくる。

「‥お前さぁ、まだ誰とも付き合ったことがなかったんだろ?」

‥…この男まさか‥

「それを狙ってたんだよ、霧姫」

最初っからそれを狙って‥?!!

教室のドアを目指して走ろうとするが目の前の男が邪魔で行けない。

「あの時振っちまったのが心残りだったんだよ。他の奴に取られるなんて思ってもみなかったからなぁ。いい女が手に入るまでのキープにでもしようと思ってたんだが‥」

近寄ってくる男が怖い。
逃げなきゃと思うのに足は動かない。
ズリズリと後ろに身を引いていく。
だけどすぐに追い詰められてしまう。

"助けて"

そう叫びたいのに声は出ない。
涙の交じる視界に浮かんだのは元親の笑顔。

素直に好き勝手されてたまるものか。
手足をばたつかせ必死に暴れる。

『やだ!やだ!!元親じゃないと嫌なの!!
‥…もとちかぁ!!!』

元親は絶対に気づいてくれる。
変な信用だけどこれは当たる。
だってほら‥

「霧姫!!!」

いつも気にかけてくれてるから

「てめぇ何してやがる!!」

男を引き剥がすと私を助け起こしてくれる。

「俺は言ったはずだぜ‥?
コイツはもうてめぇのじゃねぇ。俺のだ。
人の女に手ぇ出してんじゃねぇよ!!」

『‥…もとちかぁ!』

「‥霧姫の気持ちは受け取ったぜ。もう待ってなんかやらねぇ。
今からは待てと言われて待つと思うなよ‥?」

いつもの余裕の笑みを私に向けてくれる元親。
それがとても安心できた。

すると男はゆらりと立ち上がると元親に怒鳴った。

「お前だって人のこと言えんのかよ!!散々女どもと遊んでやがったじゃねぇか!!
それとも全部、手をきったとでも言うのか?」

すると元親は自分の携帯を取り出し

「今からここで全てを初期化する。
霧姫、後でアドレス教えてくれよ?」

『‥待って!そこまでしなくても‥…!!』

「いいから」

そこで元親は携帯に入っていた全てのデータを初期化した。

それから元親は一発だけ男を殴り、私と共に帰ってくれた。


それから日にちも経ち、いつも通りに送ってもらった帰り道。
私の家に着いて寄っていくのかな、と思っていると

「霧姫」

優しい声で呼ばれたと思ったら頬に唇が触れた。

「今日はここまで、だ。
まだアイツのことがあってから日にちも経ってないからな」

キスされたって事は私は‥…
やっと恋人になれたんだ。

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