短編集
□海の香りと君
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『‥ん?』
ふわっと香った海の香り。
でも海は近くにない。
おかしいな、とキョロキョロと周りを見渡してみても香りを発しているような物は見当たらない。
「どうかした?」
『いえ‥』
あまりにも不自然にキョロキョロとする私を心配したのか、先輩が声をかけてくれた。
『少し海の香りがしたので‥』
と言うと先輩は驚いたような顔をして私を見た。
「マジか‥
それ俺のワックスの匂いだわ。
よく気づいたね」
『ええっと‥あははは』
言えない、言えない‥
私の嗅覚は家に帰ってその日の晩御飯を当てられるほどいいんですって。
そういえば‥
この前一緒に街へ出た時、先輩のお兄さんが海の香りのワックスを買ってきたと聞いた。
いつも先輩は青りんごの香りのワックスを使っている。その時は意外といろんな香りがあるんだなぁと思った程度だったが‥
こんな香りまであるとは‥
『珍しい香りですね』
「あぁ。
悪いな、匂いがきつかったかな?」
少し心配そうに先輩は声をかけてくれた。
確かに少し不思議な香りではあるけれど‥
『いいえ。
私、小さい頃海の近くに住んでいたのでこの香り好きですよ』
それに‥
『どんな香りを纏っていても私は健太郎先輩が大好きです』
いつもの青りんごの香りも好きだけど、この香りをつけた先輩も好き。
「ホント‥読めない奴だよ、霧姫は」
何だか呆れたような笑顔で私を見つめる先輩。
何かおかしいことでも言ったかな‥?と不安になりかけた時、ぽんっと頭に置かれた手。
なんだなんだ‥?と驚きつつも先輩の顔を見ると"馬鹿、見んじゃねぇ"とグッと頭を下に向かされた。
少しの間があった後、
「…夏に一緒に海でも行く?」
といつもの先輩の声より若干小さい声で誘われた。
‥馬鹿は先輩もですよ。
私が断る理由がないのを知っているくせに‥
だから下を向いていた顔を上げ笑う。
『行きますっ!!』
そうしたら嬉しそうに微笑む彼の顔が見えて‥
まだ夏は遠いけれど今から心が踊った。
END
最近、可愛くなってきた瀬戸くん。
皆さんも好きになってくれたらな、と思ってますっ!!
2015/03/11 霧姫