短編集
□距離
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今日もまた私は彼に会う。
『こんにちは、久秀さん』
「君か‥また今日も来たのかね。
暇なものだな」
『そんなこと言って私が来ないと心配なくせに‥』
「いつ私がそんな事を言ったかね」
ニヤリと笑う彼の名は松永久秀。
年齢は不詳だが素敵なオジサマ。
いつも皮肉めいた事を言っているが不思議と包容力のある人で恨むに恨めない人だ。
テーブルに肘をついて彼を見る。
見つめすぎていたのか逆にジッと見られてしまった。
「私に何か付いているかね?」
『残念ながら何もついてない』
そうかね、と薄く笑う彼を見て少しドキッとしてしまう。
「それで今日は何があったのかね?」
『‥わかっちゃうのね』
会社で少し嫌なことがあった。
いつもの事で耐え切れないものではないが‥さすがに疲れる日だってある。
彼の観察力は恐ろしいほど敏感だ。
たとえ隠し通そうとしても気づかれてしまうだろう。
「君はいちいち小さな事で悩みすぎだ。もう少し広い視野を持ちたまえ」
『はいはい〜私はどうせそんな人間ですよ〜』
しかも、こんなふうに慰めてくれたりするのだ。
すぐにでも抱きしめてもらいたい。