短編集

□The person who can never meet.
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ガシャンッ!

派手な音を立てて割れた薄桜色の茶碗。

「申し訳ありません!!元親様!」

「あぁ。気にすんな。
怪我はしてねぇか?」

「はい‥…」

申し訳なさそうな顔をしたまま割れた破片を片付けだす侍女。
あの茶碗は今は敵国の偵察に行っている恋人霧姫のものだった。

(嫌な感じだな‥…
虫の知らせってやつじゃねぇといいが‥)

霧姫がいつもつけていた結紐を片腕の装具と共に巻きつけ虚空を睨んだ。



「なぁ?嘘だろ‥」

霧姫が帰ってきたのは数日後のことだった。
‥…彼女の忍刀と俺が送った簪が血に濡れていた。
そして滅多に着ない白い着物を纏って俺の前に来た。


「敵の忍の襲撃にあったようです。彼女と同じ場所に他の死体もあったので相討ちでしょう‥」

彼女の同僚が報告をしていたがほとんど聞こえてなかった。

つい先日まで

この閉じた瞳は明るい色と共に俺を写していた。

唇だって血行のよく温かかった。

だらんと垂れた腕はもう二度と俺を抱きしめることはない。

『元親様!』

嬉しそうに俺にかけられる声だってもうない。

「なぁ‥目を覚ませよ‥
お前らしくねぇ。この程度でくたばるわけねぇよな?」

いつもの体温とはまったく違う冷たい手。
それを掴んで引き寄せる。

「なぁ‥…」

まだ天下だって取ってねぇ。
コイツに借りも返してねぇし暁丸の完成体も見せてねぇ。

なんで‥…なんで‥…

「なんで‥…俺を残して逝っちまうんだよ‥!!!」




俺の想いをお前は受け止めてくれたよな。

だけどよ

これから募る想いは‥
いったい誰に渡せばいいんだよ‥…


The person who can never meet.
If I can meet...
I want to convey this thought.

(もう二度と会えぬ人よ。
もし会えるのならば‥
この想いを伝えたい。)


END
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