恋物語

□君の鎖に囚われる
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それは、うららかな春の日差し。夏の木陰に吹くそよ風。僕の存在意義。希望。全て。たった一人の君が・・・。
もう君は憶えていないだろう。でも僕は憶えている。今、この瞬間のことのように。
それは、秋の静かな夕暮れ。冬の淡々と降る雪。
君に出会った瞬間に僕の世界は動き出した。音のない世界が溢れるほどのメロディで飾られ、色を失くした空間が再び色彩を取り戻した。君との出会いは、僕に忘れていたことを思い出させてくれた。「生きる」ということを。
それから君と過ごした日々は、幸せな夢のようだった。君が僕を見ていなくても、僕は君を見ていた。それだけで十分だった。山のような宝石よりも、何百という人々の作り笑いよりも、君の冷たい表情の方がずっといい、そう思った。
君の鎖に囚われる。それは、今、僕を捕らえている氷のような鉄の鎖とは違う。君の鎖はすぐに壊れてしまいそうでいて、絶対に外すことができない。自由になんていつでもなれるのに、本当の自由には辿りつけない。
けどね、僕はそれで幸せだったんだよ?
もうすぐ終わる「生きた」時の中で、君と過ごした奇跡。叶わないと思っていた「生きること」ができた幸せ。全部、君がくれたんだよ?
ねぇ、今、この光り輝く空を見ていますか?これが僕の見る最後の空です。あの時と同じ青空じゃないことだけが残念です。
君は・・・どこにいますか?僕は地下牢の中で一人きりです。
もし・・・もしも、どこかの世界・・・未来で君に会えたら伝えたいことがあります。でも今は、君の幸せを・・・願います。
END

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