シザンサス

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賞金首を1人捕らえ、1億600万ベリーを手にした元CP9。

彼らは、その翌日には全員仕事を辞め、次の目的地として、美食の町・プッチへと向かうことにした。

セント・ポプラからプッチへ向かうには、海列車に乗らなければならないが、ルッチ、カク、カリファ、ブルーノは、ウォーターセブンの住民に顔を知られている。

顔バレを警戒して、海列車に乗り込む前に、全員、軽く変装することになった。

それは、ウォーターセブンの有名人となった、麦わら一味のティオも同じだ。

「あなたくらいなら、髪型を変えて眼鏡でも掛けておけば、そうそうバレないわね。あまり凝ったことをすると、逆に怪しまれるわ」

「(コクン)」

変装に関しては、変身してしまうティオよりも、元CP9の方が詳しい。

ティオは、カリファに全て任せ、今は髪をツインテールにしてもらっている。

「……」

「……」

2人の間に会話はなく、ティオは髪を結んでもらっている間、手持無沙汰で、折れていない左脚をぷらぷらと揺らしていた。

カリファは、黙ってもくもくと手を動かしていたが、ふと、手を止めて口を開く。

「……2つだけ、謝っておくわ」

「?」

ティオは今、頭を動かせないため、後ろを振り返れない。

小刻みに揺れるカリファの感情を感じながら、上目遣いに天井を見上げ、瞬きをした。

「……1つは、あなたの提案を頭ごなしに否定したこと。……結局、あなたの提案に乗ったおかげで、私たちの道は開けたわ。せっかく協力しようとしてくれたのに、嫌な態度を取ってごめんなさい……」

緊張と葛藤が伝わってくる。

プライドの高いカリファが、こうして素直に謝るなんて、よっぽどそのことを気にしていたのだろう。

「べつに、いい。うたがう、の、だいじ。だれか、ひとり、くらい、きびしいひと、いないと、だめ。うちの、こうかいし、も、いつも、くろう、してる」

「航海士……あぁ、あのオレンジの子……ふふっ、やっぱりどこの集団でも、男って馬鹿なのね」

「(コクン)」

「それから、もう1つ。あなたが脱走を図ったあの日、感情のままに怒鳴ってしまったことを、謝っておくわ。黙って去ろうとしたのを咎めたことは謝らないけど、怒鳴るよりももっといい伝え方があった」

「それも、いい。むしろ、ありがと」

「え?」

「てぃお、いつも、ひとのかんじょう、よんでる。それだけで、ぜんぶ、わかった、き、なる。ちゃんと、むきあって、はなす、の、わすれる。わるいくせ、て、いわれてた。けど、なおって、なかった。……だから、きづかせ、て、くれて、ありがと」

「……。……意外と可愛いとこあるのね

「?」

「何でもないわよ」

再び、カリファの手が動き始める。

ティオの長い金髪は、瞬く間に綺麗なツインテールにされた。






その後。

元CP9メンバーとティオは、海列車に乗り込んだ。


"シュポオオオォォォ……"


白い蒸気が景気よく吐き出され、海の上の線路を進み始める。

以前と変わらない乗り心地に、帽子を被らずサングラスを掛けたカクが、口角を上げた。

「さすがじゃのう。エニエス・ロビーの一件でボロボロになった海列車を、この短期間で完全に復興させるとは」

正面に座っていたカリファが、掛けていない眼鏡の代わりに、髪をいじる。

「ガレーラなら、この程度は造作もないでしょう。あなたが一番よく分かってるんじゃなくて?」

「ははっ、それもそうじゃなァ。……わしとルッチの代わりに、誰が職長になったのやら……ちと気になるわい」

少し、感傷に浸るような顔をして、カクは窓枠に頬杖をついた。

すると、その膝に、カクの隣に座っていたティオが、身を乗り出すように乗ってきた。

「ん、何じゃ何じゃ、どうした?」

「そと、うみ、みたい」

そう言って、窓枠に手をかけ、慣れないダテ眼鏡のフレーム越しに、外を眺める。

カクは、ティオが膝から転げ落ちないよう支えながら、フッと笑った。

「海を見られんかった期間なんぞ、ほんの1週間ほどじゃろう。それでも海が見たくなるとは、お前さん、生粋の船乗りじゃな」

「(コクン)」

地平線の向こうまで、眼下には深い青色が広がっている。

いつも、サニー号から眺めていたその光景を、再び見ることが出来て、少しだけ寂しさが埋まった。





セント・ポプラからプッチまでは、そう時間はかからなかった。

ほんの数十分程度でプッチの駅に到着し、元CP9メンバーは、思い思いに伸びをしたり首を回したりする。

「チャパ〜、いろんなところからウマそうな匂いがするぞ〜」

「ギャハハッ! そりゃ美食の町だからなぁ!」

「よよいっ、ぁ腹ごしらえでも〜、していくか〜ぁ?」

カクが呆れ顔で声を張った。

「メシなら出発前に食うたじゃろう。寄り道しておったら、1億なんぞあっという間になくなるぞ? 遊びたければ、さっさと賞金首を捕らえることじゃ」

「かァ〜っ、真面目キリンはこれだからよォ」

「何か言ったか、鈍間(ノロマ)オオカミ」

「ぁあ!?」

バチバチと、ジャブラとカクの間で火花が散る。

カクの傍らで、松葉杖を使って立っていたティオは、変装用の眼鏡越しに2人を見上げた。

そのレンズの向こうに、一瞬だけ、ゾロとサンジの姿が映る。

……今頃、あの2人はどこで何をしているのだろう。

ぼんやりとそんなことを思うが、頭上に人影が差して、思考は吹き飛ばされた。

"声"が聞こえているから驚くことはないが、ティオはおもむろに後ろを振り向き、人影の主を見上げる。

無表情で、冷たく重たいオーラを纏った、ルッチの顔を。

「……」

「……」

ルッチは、じろりとティオを見下ろしたが、その視線はすぐにカクの背中へと飛んだ。

もちろん、ここまで接近されて、カクがルッチに気づかないわけがない。

「何じゃルッチ、どうかしたか?」

「……コイツをしばらく貸せ」

「?」

ルッチは(あご)でティオを指す。

カクは真ん丸の目で何度か瞬きをしてから、ティオを見下ろした。

「だそうじゃが、どうする?」

ティオは、カクとルッチ、2人の顔を交互に見上げる。

……ルッチから感じられるのは、何かを求めているような感情。

今の状況でティオに求めるものなど、"情報"以外にあり得ない。

ティオはただ、カクに向かってコクンと頷いてみせた。

そして、松葉杖をカクに預けると、ボンッと音をさせて鳥の姿に変わり、羽搏いてルッチの肩に()まる。

右にハットリ、左にティオ、2羽の鳥を肩に乗せたルッチの姿に、カクは思わず笑いそうになった。

しかし、笑えば瞬殺されるため、懸命に堪える。

「くれぐれも、衝動で(くび)り殺したりするなよ?」

「……黙れ」

ルッチはため息混じりにそう言って、どこかへ歩き出した。

カクは肩をすくめ、ルッチの背中を見送る。

その左肩に乗ったティオを見つめ、まぁ大丈夫だろう、と口角を上げた。

ルッチも、現状の自分たちにとって、ティオがどれほど有用な存在かは分かっているはずだ。

 
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