シザンサス

□31,人魚のケイミー
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麦わら一味がスリラーバークを出港する頃。

聖地・マリージョアでは…

「何だと!? バーソロミュー・くまっ、貴様の能力をもってして逃げられた!?」

帰還したくまを相手に、センゴクが怒鳴り散らしていた。

「もっとマシな言い訳をしろ! 上に報告するのは私だぞ!」

ガープが笑う。

「ぶわっはっはっ! さすがはワシの孫!」

「黙っとれガープ!」

センゴクは頭の痛くなる思いで、深いため息をついた。

「…麦わら一味全員抹殺の特命を受けておきながら、麦わらのルフィの首一つ持ち帰らんとは、あるまじき醜態」

「的を()ている」

「何をォ!?」

「安心せい、センゴク。ルフィはモリアを倒したくらいのことを、触れ回るような小せェ男じゃないわい」

「そこはどうでもいい! …いや、よくはないが…。問題は、くま、貴様ともあろう者が、奴らを(のが)したことだ。…まさか、負傷した海賊共に同情したわけではあるまいな。お前が見逃そうとも、あの一味への追撃は()まんぞ」

くまは無表情のまま、一言。

「だろうな」

ガープが、ニヤリと笑みを浮かべて言った。

「よう言うわい。センゴク、お前内心ホッとしとるじゃろ。ティオが無事と分かって」

センゴクはフンと鼻を鳴らした。

「孫に甘いお前と一緒にするな。一度海賊に身を堕とせば、もはや裁くべき敵。私は同情など一切せん」

「ほ〜? …そういやぁ、ティオの後任の、名前は何といったかのう、アイツはどうした。伝承者の引き継ぎは終わったのか?」

「あぁ。滞りなく済んだと報告が来た」

「んじゃあ、ティオはアイツに会ったのか? ウォーターセブンじゃあ、ティオの様子はいつもと変わらんかったぞ?」

「さぁな。エニエス・ロビーで、奴とティオの間に何があったかは知らん。…ティオと違い、奴は海軍とあまり接点がないからな。情報は降りてこない」

「アイツは本っっ当に可愛げがない。この間すれ違ったときなぞ、すまし顔で"ご苦労様です"の一言だったぞ? それに引き換えティオは、ウォーターセブンでわしに飛びついてきてなァ。あれが本当の孫じゃったら…」

「比べる相手が違うだろう。奴は今年で18。ティオは14になるとはいえ、中身は4歳児だぞ」

センゴクはため息をついた。

「…しかし、まさかティオが堕ちるとはな。歴代の伝承者の中で、出奔した者はティオが初めてだ。…政府も、事が起こった今になって、対応を協議している」

「焦っとるじゃろうなぁ」

「ティオの正体を知っているのは、海軍の中将以上と、世界政府上層部、そして、コイツら七武海の一部だけだ」

センゴクは視線でくまを指した。

「もし、この情報が海賊の間で広がってしまえば、世界の崩壊に繋がりかねん。特に、四皇・ビッグマム、カイドウに知られれば、世界をひっくり返すほどの戦争になるだろう」

「敵はそいつらだけとも限らんじゃろう」

ガープは、チラリと横目にくまを見た。

察したセンゴクは、再びため息をつく。

「…そうだな。七武海とて海賊。今まではクザンがついていたから手が出せなかっただけで、これからは分からん。…ドフラミンゴなんぞは喜んで飛びつきそうだ」

「じゃが、センゴク、そうと分かっていて、何故ティオをアラバスタへ行かせた?」

「……」

「クロコダイルも知っとったはずじゃろ。ティオが伝承者であったと」

「…あれは私の命令ではない。世界政府からの命令だった。七武海の偵察なぞ、ティオには早すぎる上に、機密保持の観点からも危険だと進言したんだがな」

「ほ〜ぉ? どーりでお前らしくない指示だと思うたわい」

「まったく、伝承者などという機密を抱えたまま、王下七武海の制度を作るとは。政府の気が知れん。どうせ、伝承者が七武海の手に奪われれば、我々に何とかしろと言ってくるくせに」

くまが無表情のまま言った。

「俺は、伝承者など興味ない」

「フン……どうだかな」

「しかし、あれじゃなぁ、政府もまさか、ティオの就任からたった2年で、奴を目覚めさせることになるとは思ってもみなんだろう。今はまた、4年前のように、候補者育てに躍起になっとると聞いたぞ?」

「あぁ。…何年もつか分からんからな」

「あ、そうじゃ! わし、新茶を持ってきたんじゃった! せんべい出せ、センゴク!」

「お前はそればっかりかガープ!」

…2人のやりとりを、くまはただ黙って聞いていた。

 
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