フリチラリア
□6,決戦
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「……そうか。……おう、分かった。ありがとォな、喜助」
短い通話を終えて、真子は携帯を切った。
一護が虚圏へ向かってから、1日。
仮面の軍勢のアジトでは、千晶が相変わらず、虚の仮面を砕く実験をしていた。
仮面を部分的に砕き、気絶しては、誰かに霊圧を流してもらって、目を覚ます。
既に6回も霊圧を流してくれている白が、首を傾げた。
「ん〜、仮面の右上が全部砕けると、ダメみたいだね」
千晶は身を起こし、割れた仮面を見下ろす。
「でも、この前、目と口の部分を割ったときは、半分近く割れてたはずなのに問題なかったんだよね……割れる範囲の多少じゃないのかもしれない」
ブツブツ呟きながら、次はどんな割り方を試そうかと、思案し始めた。
そこに、真子が歩み寄ってくる。
「どうや、気絶のからくり、分かったか?」
「ううん、ダメ。謎が深まる一方」
「そか。……そんなときに限って、悪い知らせや」
「?」
千晶が振り向くと、周囲の仲間たちも真子の方へ視線を向けた。
「藍染たちが、動き出したで」
空気がピンと張り詰める。
拳西が眉間にしわを寄せた。
「早すぎねぇか。崩玉の覚醒は冬のはずだろ?」
「今、電話で喜助から聞いた話やと、昨日の破面共の出現の直後、尸魂界から現世へ移動してくるはずやった織姫チャンが行方不明になってしもたんやと。……十中八九、織姫チャンは向こうに攫われて、その能力で、崩玉の覚醒が早まったんやろなァ」
「じゃあ、昨日の破面共の襲撃は、あの小娘を攫うための揺動か」
羅武が苦笑する。
「ったく、どこまでもこっちのペースを乱しやがって。イイ性格してるぜ」
一人、また一人と、仮面の軍勢たちは、斬魄刀を手に取った。
真子も斬魄刀を手に取り、踵を返す。
「行くで」
「「「おう」」」
仮面の軍勢はアジトを出て、空座町の中心部へ向かった。
……しかし。
「どこやねん……」
街なかで、深いため息をつくことになった。
何故か、どれだけ歩いても、戦いの場に辿り着けないのだ。
ひよ里がイライラを募らせて言う。
「おいコラ、ハゲ真子、ちゃぁんと浦原に場所聞いたんやろなァ」
「当たり前やろ、ボケ。……誰が作ったんか知らんが、この結界、大したモンや。完璧に隠されとる。こら入口見つけるん骨折れんで」
と、そこに。
「失礼致します。元・五番隊隊長、平子真子殿とお見受け致しますが」
瞬歩で、死神が一人現れた。
「あん? ……あぁ、アンタか」
眉を顰める真子の隣で、千晶がぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです。雀部副隊長」
雀部は丁寧に会釈を返した。
真子が鼻を鳴らして言う。
「なんやごっつい結界作ったなァ。これ、アンタの仕業か?」
「いいえ。理論の構築は浦原殿が、実際の運用は、九番隊の月雲三席が行っております」
拳西がピクっと眉を動かした。
千晶はまばたきを繰り返して感心する。
「へぇ、あの遊楽が仕事するなんて」
雀部は身を翻した。
「皆様のご用件は察しがついております。ご案内致しますので、どうぞこちらへ」
そう言って、瞬歩で消える。
真子は、雀部の背中をじっと見据えた。
「俺らを快く迎えるっちゅーことは……」
―――戦況は、芳しくないということだ。
仮面の軍勢は全員、雀部のあとをついていった。
その頃。
藍染率いる破面たちと、護廷十三隊の戦いの場では。
"バキンッ!"
突然、空が割れ、黒腔が開いていた。
浮竹が警戒心のこもった眼差しを向ける。
「新手か……?」
京楽はユルい顔でため息をついた。
「十刃の頭三人に加勢できるようなのが、まだ居るって? 考えたくないねぇ」
交戦中の敵に注意しながらも、黒腔を見つめていると、人影が一つ、散歩するように出てきた。
「ア〜〜……」
ボケっとした顔で、のろのろと歩いてくる、少年のような姿の破面。
浮竹と京楽は、探るような視線を向けた。
「……何だ? アイツは」
「得体の知れないのが出てきたねぇ、どうも……」
二人と交戦中の第1十刃、スタークが呟く。
「……ワンダーワイス」
浮竹が、眉を顰めた。
「ん、ちょっと待てっ、後ろに何かいるぞ」
ワンダーワイスなる破面の後ろに見える、白くて巨大な何か。
「あれは一体―――"ザシュッ"
「な……」
いつの間にか、ワンダーワイスが浮竹の背後に現れ、左腕で浮竹の胴を貫いていた。
「ア"〜〜〜〜〜」
不気味な笑みを浮かべるワンダーワイスに、京楽が反射的に斬りかかる。
しかし……
"トン……"
「!」
刃が届く前に、背中に銃口が当てられた。
スタークが隙を突いてきたのだ。
"ドオッ!"
飛び出す、高密度の虚閃。
「悪いな、隊長さん方。ワンダーワイスが出てきたってことは、藍染サマが、もう待てなくなっちまったってことなんだ」
街へと落ちていく、京楽と浮竹。
それを見ることなく、ワンダーワイスは大きく息を吸う。
「おああああっ!」
突然発せられた大声。
その声で……
"バリンッ"
日番谷が、第3十刃のハリベルを閉じ込めていた氷が、砕けた。
さらに……
"フシュウウゥゥ……"
ワンダーワイスと共に出てきた、巨大な白い何かが、藍染たちを囲っている、元柳斎の炎を吹き飛ばす。
「かァ〜、厭な匂いやなァ、相変わらず」
「同感だ」
「"死の匂い"いうんは、こういうのを指すんやろね」
「結構なことじゃないか。死の匂いこそ、この光景にふさわしい」
炎が掻き消えて、渦巻く煙の中から、藍染惣右介、市丸ギン、東仙要が出てきた。
地上で、負傷者の治療にあたっていた吉良が青ざめる。
「…あ…ぁ……終わりだっ……本当に……」
そこに……
「待てや」
九つの人影が差した。