ブラキカム

□17,偽りの希望
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「き……きゅ……きゅうじゅぅ……きゅうっ……ひゃ……ひゃっ……ひゃ〜〜〜……くぅ!」

黒崎一護が、銀城空悟と出会ってから数日。

「無理! もー無理! もうやんねーぞ!」

一護は、銀城率いる『XCUTION』に通い、雪緒・ハンス・フォラルルベルナが作る異空間に滞在して、完現術(フルブリング)の技を磨いていた。

……と言っても、ここ数日は(もっぱ)ら筋トレばかりだが。

「何だ一護、もうバテたのか?」

シレっと見下ろしてくる銀城を、汗だくで床に転がった一護が睨みつける。

「もうって何だよ! 腕立て100回を何セットやらせりゃ気が済むんだよ!」

「今ちょうど14セット終えたとこだが?」

「"だが?" じゃねぇよ馬鹿! 俺をレスラーにでもする気か!?」

「14セットくれぇでギャーギャー言うな。せっかくだから名前にちなんでもう1セットやっとけ」

「出たよ! 俺そういうゴロ合わせみたいなのキライだから!」

「ウソつけ、『15』って書いてあるTシャツとかよく着てるくせに」

「何でンなこと知ってんだよ! お前のそのストーカーみたいな情報網キモすぎだろ!」

「いーから、ウダウダ言ってねぇで15セット目やれよ」

「はぁ!? お前 話聞いてたか!?」

「そんだけ はしゃげんなら体力まだあんだろ? 強くなりてぇなら自分の限界を超えなきゃならねぇ。それはお前が一番よく知ってるはずだ」

「……」

一護はスッと視線を伏せ、黙って腕立て伏せを再開した。

……そして、15セット目を終える頃には、さすがに喋る元気もなくなる。

その姿を見下ろして、銀城はフッと口角を上げた。

「さすがに、もう体力もついた頃だな」

「……あ? 体力?」

「そうだ。完現術(フルブリング)は生身で扱うモンだからな。使いこなすにはバカみてぇな体力が必要なんだよ」

「……そうか、だからこんなバカみてぇにトレーニングを」

一護は早くも体力が回復してきたのか、身を起こした。

「回復が早くなってきたってことは……一護、お前、数日前の完現術(フルブリング)の完成の瞬間、何か見ただろ」

「!」

「やっぱりな。あん(とき)ゃわざと眼を潰したが、それでも俺の姿が霊圧に照らされて見えたはずだ。それは、お前が死神の力を取り戻し始めた証拠でもある」

一護は息を呑んで銀城を見つめる。

「霊圧が消失した後、鎖結(さけつ)魄睡(はくすい)が閉じて、欠片ほど残ったお前の霊圧は、長い時間をかけてお前の中で一か所に集まり眠りについた。だから俺たちは、完現術(フルブリング)により代行証から流れ込んだ霊圧で、お前の中のその霊圧を刺激し覚醒させたんだ。あとは体力をつけ、完現術(フルブリング)を使いこなせば、自然とお前の死神の力は完現術(フルブリング)と融合し、お前は、死神を超える力を手に入れる」

ニッと笑みを浮かべ、銀城は一護に代行証を放った。

「それを使ってやってみろ。お前の完現術(フルブリング)が本当に完成してるはずだ」

「……」

一護は、受け取った代行証に力を込め、解放する。

代行証からは黒と白の光の帯が幾つも立ち上がり、一護を包んで、破面(アランカル)にも似た白い骨の装束を生み出した。

その装束に流れる力を感じながら、一護がさらに代行証に力を込めれば、卍解した斬月より少し短い刀が現れる。

「ほう、大したもんだな。見違えたぜ」

「銀城……」

「名前が必要だな。お前の完現術(フルブリング)にも」

「……」





それからすぐに、一護は雪緒の空間から現実へと戻ってきた。

一緒に異空間へ入っていた茶渡と織姫も一緒だ。

「おかえり」

雪緒がゲームの端末から目を離さず、棒読みで声を掛けてくる。

「どうにか完成したね。モタモタしてるから、いい加減コッチのバッテリーがイカレるんじゃないかってハラハラしたよ」

「あぁ。手間かけたな」

そう答える一護が、この数日で一気に大人びた気がして、雪緒はチラリと視線を上げた。

「……別に。ともかく、今日は早く帰ってあげなよ。連絡も無しにこんな時間まで出歩いてたら、妹さんたち心配するだろうしさ」

「こんな時間……って、うわあっ!?」

一護はキョロキョロと、時計を探して視線を振り回す。

「やっべぇ! そういや家にも学校にも全然連絡してねぇ! 俺あん(なか)に何日いたんだ!?」

「90分」

「そうだよな! 90分も……。……なんて?」

「90分だよ。君があの空間に居る間、僕が中の時間を早送りしておいたんだ。感謝してよね」

「そ、そうか、ありがとな……」

「それでも日付超えてるんだから、さっさと帰ってあげなよ」

「お、おう……。またな、雪緒」

一護は口角を上げてみせ、出入口の方へと踵を返した。

その背中を、茶渡と織姫が追いかける。

織姫は、一護が死神であった頃と同じ顔に戻ったことに、緩む頬を止められなかった。

 
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