ブラキカム
□17,偽りの希望
1ページ/5ページ
「き……きゅ……きゅうじゅぅ……きゅうっ……ひゃ……ひゃっ……ひゃ〜〜〜……くぅ!」
黒崎一護が、銀城空悟と出会ってから数日。
「無理! もー無理! もうやんねーぞ!」
一護は、銀城率いる『XCUTION』に通い、雪緒・ハンス・フォラルルベルナが作る異空間に滞在して、完現術の技を磨いていた。
……と言っても、ここ数日は専ら筋トレばかりだが。
「何だ一護、もうバテたのか?」
シレっと見下ろしてくる銀城を、汗だくで床に転がった一護が睨みつける。
「もうって何だよ! 腕立て100回を何セットやらせりゃ気が済むんだよ!」
「今ちょうど14セット終えたとこだが?」
「"だが?" じゃねぇよ馬鹿! 俺をレスラーにでもする気か!?」
「14セットくれぇでギャーギャー言うな。せっかくだから名前にちなんでもう1セットやっとけ」
「出たよ! 俺そういうゴロ合わせみたいなのキライだから!」
「ウソつけ、『15』って書いてあるTシャツとかよく着てるくせに」
「何でンなこと知ってんだよ! お前のそのストーカーみたいな情報網キモすぎだろ!」
「いーから、ウダウダ言ってねぇで15セット目やれよ」
「はぁ!? お前 話聞いてたか!?」
「そんだけ はしゃげんなら体力まだあんだろ? 強くなりてぇなら自分の限界を超えなきゃならねぇ。それはお前が一番よく知ってるはずだ」
「……」
一護はスッと視線を伏せ、黙って腕立て伏せを再開した。
……そして、15セット目を終える頃には、さすがに喋る元気もなくなる。
その姿を見下ろして、銀城はフッと口角を上げた。
「さすがに、もう体力もついた頃だな」
「……あ? 体力?」
「そうだ。完現術は生身で扱うモンだからな。使いこなすにはバカみてぇな体力が必要なんだよ」
「……そうか、だからこんなバカみてぇにトレーニングを」
一護は早くも体力が回復してきたのか、身を起こした。
「回復が早くなってきたってことは……一護、お前、数日前の完現術の完成の瞬間、何か見ただろ」
「!」
「やっぱりな。あん時ゃわざと眼を潰したが、それでも俺の姿が霊圧に照らされて見えたはずだ。それは、お前が死神の力を取り戻し始めた証拠でもある」
一護は息を呑んで銀城を見つめる。
「霊圧が消失した後、鎖結と魄睡が閉じて、欠片ほど残ったお前の霊圧は、長い時間をかけてお前の中で一か所に集まり眠りについた。だから俺たちは、完現術により代行証から流れ込んだ霊圧で、お前の中のその霊圧を刺激し覚醒させたんだ。あとは体力をつけ、完現術を使いこなせば、自然とお前の死神の力は完現術と融合し、お前は、死神を超える力を手に入れる」
ニッと笑みを浮かべ、銀城は一護に代行証を放った。
「それを使ってやってみろ。お前の完現術が本当に完成してるはずだ」
「……」
一護は、受け取った代行証に力を込め、解放する。
代行証からは黒と白の光の帯が幾つも立ち上がり、一護を包んで、破面にも似た白い骨の装束を生み出した。
その装束に流れる力を感じながら、一護がさらに代行証に力を込めれば、卍解した斬月より少し短い刀が現れる。
「ほう、大したもんだな。見違えたぜ」
「銀城……」
「名前が必要だな。お前の完現術にも」
「……」
それからすぐに、一護は雪緒の空間から現実へと戻ってきた。
一緒に異空間へ入っていた茶渡と織姫も一緒だ。
「おかえり」
雪緒がゲームの端末から目を離さず、棒読みで声を掛けてくる。
「どうにか完成したね。モタモタしてるから、いい加減コッチのバッテリーがイカレるんじゃないかってハラハラしたよ」
「あぁ。手間かけたな」
そう答える一護が、この数日で一気に大人びた気がして、雪緒はチラリと視線を上げた。
「……別に。ともかく、今日は早く帰ってあげなよ。連絡も無しにこんな時間まで出歩いてたら、妹さんたち心配するだろうしさ」
「こんな時間……って、うわあっ!?」
一護はキョロキョロと、時計を探して視線を振り回す。
「やっべぇ! そういや家にも学校にも全然連絡してねぇ! 俺あん中に何日いたんだ!?」
「90分」
「そうだよな! 90分も……。……なんて?」
「90分だよ。君があの空間に居る間、僕が中の時間を早送りしておいたんだ。感謝してよね」
「そ、そうか、ありがとな……」
「それでも日付超えてるんだから、さっさと帰ってあげなよ」
「お、おう……。またな、雪緒」
一護は口角を上げてみせ、出入口の方へと踵を返した。
その背中を、茶渡と織姫が追いかける。
織姫は、一護が死神であった頃と同じ顔に戻ったことに、緩む頬を止められなかった。