デュランタ

□4,現世滞在
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一角の治療を終えた翌日、紫月は早朝から、浦原商店を訪れていた。

店の前に、山田花太郎と壺府リンの霊圧を感じたからだ。

「あ、蓮見さん! どこ行ってたんですか! 連絡しても全然出ないし…」

眉根を下げてあたふたする花太郎に、紫月は無表情で軽く頭を下げる。

「…すみません。…調査は、終わったんですか?」

リンは頬を掻いた。

「はい、今しがた…。あとは、浦原元十二番隊長にお話を聞いたら、尸魂界へ戻ろうと思いまして…」

「…そうですか」

一角には、もうしばらく現世(こっち)に居ると言ってきたが、意外と早く帰ることになってしまいそうだ…


"ガラガラ…"


「すみませーん…」

声を掛けつつ、駄菓子屋の出入り口らしき引き戸を開けると、店の奥で物音がした。

"ガタ、ガタン…"

「はーい」

"ギシィ…"

古い床板のきしむ音がして、男が一人出てきた。

元十二番隊隊長・浦原喜助だ。

リンが申し訳なさそうに言う。

「あ、すみません、技術開発局の者ですが」

「おや、珍しいっスね」

破面(アランカル)に関して最近得られたデータなどがあれば、共有させて頂けないかと思いまして…」

「あ〜ナルホド。阿近サンの指示っスか?」

「え、あ、はい…」

「ですよね〜。涅サンなら、絶対にボクと関わろうとしないスから。どうぞ上がって下さいっス。ボクらの持ってる情報は全てお渡ししますから」

「ありがとうございます!」


…三人は浦原に続いて、店の中に入っていった。

何やら機械が立ち並んだ薄暗い部屋に案内され、リンが浦原から話を聞く。

「これが観測データっス」

「あぁ、どうも。……やっぱり、尸魂界からと現世からでは、数値が少し違いますね」

手持無沙汰な花太郎と紫月は、戸口に立って待っていた。


"ズズン……ズズゥ…ン……"


どこからか聞こえてくる、地響き。

花太郎は不安そうに天井を見上げ、キョロキョロと辺りを見渡した。

「なんだか、凄い音がしますね…」

「…地下から、でしょうか。…霊圧、隠されているので、よく、分かりませんが」

「そうなんですか? 僕、そういうの全く感じ取れないので…」

「…そこは、頑張って下さい」

「…すいません」

そこに、話を終えたのか、浦原とリンが歩み寄ってきた。

リンは分厚い書類の束を抱えている。

花太郎が首を傾げた。

「もういいんですか?」

「あ、はい。データは頂けましたので。解析は戻ってからします」

「そうですk "ドドン…ッ"


少し大きな地響きがした。

四人はきしんだ天井を見上げる。

浦原は何か考えるように、扇子をパタパタと揺らした。

「ん〜……そちらのお二人、四番隊でしたよね?」

「え? えぇ、はい…」

「どちらか、残って頂くことは可能スか?」

「「?」」

花太郎と紫月は目を見合わせた。

紫月は少し考えるように、視線を上方へ巡らせてから、頷く。

「…まだ現世(こちら)に、患者が居るので。…私で、宜しければ」

「いや〜助かるっス!」

「…しかし、何故、ですか?」

浦原は、再びミシミシときしむ天井を見上げた。

「今、地下で茶渡サンが、阿散井サンに特訓してもらってましてねぇ」

「…サド、さん?」

「黒崎サンのご友人っス」

「…友人。……その人と、阿散井副隊長が、先程から、この地響きを?」

「ハイ〜。二人には本気でぶつかるよう言ってありますんで、怪我も霊力の消耗も絶えなくて。今まではウチの鉄裁サンに任せていたんですけど、これから他に仕事が増える予定なんで」

「…私は、構いません」

「いや〜すいませんねぇ。付きっきりで居る必要はないので、空座町内にさえ居てくれれば、どこに居て下さっても結構っス。連絡した時に来て貰えれば」

「…分かりました」





話は決まり、花太郎とリンは、尸魂界へ帰ることとなった。

「それじゃ、蓮見さん。お気をつけて」

「…別に、私は、危なくないです」

「あ、いえ、でも、突然敵の襲撃を受けることも、無いとは言い切れませんから…」

「…班長は、自分の心配、して下さい」

「は、はい…」


紫月と浦原に見送られ、二人は穿界門をくぐっていった。

やがて、穿界門は閉じ、空間から消える。

「さて、行きましょうカ」

「…はい」

浦原は紫月を連れ、地下の勉強部屋へと降りていった。





その頃、浅野啓吾の家では。

「あはははははっ! あの女ホントっ、信じられないセンス!」

みづ穂に渡されたTシャツを着た一角を、弓親が終始嘲笑っていた。

「あはははっ、いーひひひっ、どーしたらその柄がいいと思え"ゴスッ"

一角が、弓親の額に頭突きをかます。

「うるせぇぞ。いつまでもギャーギャー騒ぎやがって」

「ぼ、僕の美しい顔が…」

と、そこに…

「あはははははっ」

「「!?」」

突然、乱菊が現れた。

「ままま松本ォ!? テメェどっから入って来やがった!」

「どこって玄関から。鍵開いてたわよ? 随分と不用心なとこに間借りしてんのね、アンタたち。……っていうか一角、アンタ現世(こっち)来て趣味変わった?」

「っ、家主からの貰いモンだ!」

「え、何、家主が用意する服、素直に着てんの!? アンタ」

「なっ、あたりめーだろうが! 寝床もメシもタダで世話してもらっといて、この上着物にまで文句付けられるかっての!」

「そう? あたしガンガン文句付けてるわよ? メシにも服にも」

「…おい、誰だ? アイツ泊めてる可哀想な奴は…」

「ホラ、あの娘だよ、織姫ちゃん。他人事(ひとごと)とはいえ、流石(さすが)にちょっと気の毒だね…」

「ていうか一角、紫月は? 現世(こっち)に来てるんでしょ?」

「ぁあ? アイツなら朝からどっか行ったぜ。元々技術開発局の護衛で来てたからな。どっかで合流してんだろ」

「あら〜、行き違いになっちゃったのね」

「つーかお前、何の用で来たんだよ」

「尸魂界からの連絡よ」

と、そこへ…

"ガチャッ"

「どーも〜、ただいま帰りやしたぁ」

学校から帰ったらしい浅野啓吾が、顔を出した。

「一角さん弓親さん、ご機嫌いかがっす…」

パッと、啓吾の目が見開かれる。

「ィヤハ〜イ! 夢か現か! 乳の女神再臨! 着衣の上からでも丸わかりのそのけしからなさ〜!」

いきなり飛びついてきた啓吾に、乱菊は呼吸でもするように回し蹴りを繰り出した。


"ドッ、ズザザザザッ"


「フッ、俺もナメられたモンだぜ…」

「!」

意外にも、啓吾は乱菊の蹴りを受け止めた。

「この浅野啓吾! 一度くらった技を二度とはくら "ドスッ" ぱへっ」

乱菊は啓吾にもう一発蹴りを繰り出した。

それを顔面に受けた啓吾は、今度こそ床に伸びる。

一角は半目で乱菊を見る。

「…おいおい、飛びついてきただけでそこまでするこたねぇだろ…」

「あ、ゴメン。なんかノリで」


"ガチャッ"


再び、部屋の扉が開いた。

「たっだいま! ダーリ〜ン! いい子にしてた〜?」

入ってきたのは、啓吾の姉・みづ穂。

こちらも学校帰りのようだ。

みづ穂は乱菊を見るなり、固まる。

「あ、すいませーん、部屋間違えましたー……ってぅオイ! 2回目だぞこの展開! 今度は誰だコルァ! また医者かっ? 医者なのかっ!? そうだと言えコラ!」

乱菊は半目でため息をついた。

「こんなんばっかなの? この家」

一角も面倒くさそうにため息をつく。

「ややこしくなるから、お前用件済ましてさっさと帰れよ」

「ハイハイ。後で紫月にもちゃんと伝えときなさいよ?」

「あぁ」


……それから。

乱菊は、尸魂界が突き止めた、藍染の真の目的や、これからの尸魂界の動きなどを伝え、帰っていった。

 
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