シザンサス
□41,麦わら一味再集結
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そうして、チョッパーが災難に遭っている頃。
13番グローブにある、シャッキーの『ぼったくりBAR』にて。
"ガチャ……キィィ"
扉を開ける音がして、店主のシャッキーは、グラスを拭きながら振り向いた。
「いらっしゃ……あら、無事に着いたのね」
扉をくぐってきたのは、大人向けのバーには似つかわしくない、幼い姿の少女。
シャッキーの反応を見て、店のカウンターで酒を仰いでいた男・レイリーも、扉の方へと振り向いた。
「やぁ、久し振りだな。君ならもっと早く来るかと思ったが……先に島の偵察でもしてきたのか?」
「まぁ、ね。みんな、ぶじで、なにより」
「確認できている限り、君で9人目だったが、その口振りからすると、10人全員揃ったようだな」
「(コクン)」
「2年を経ても、こうして全員無事に揃うとは、さすがの一言に尽きる」
少女は微かに口角を上げ、誇らしげな青い瞳を向ける。
「とうぜん。むぎわら、いちみ、だから」
「ははっ、そうだな」
レイリーは少女を見つめ、遠い時間を懐かしむような顔をした。
『誰かが生まれる。そして、俺たちを超えていく。俺たちは早すぎたんだ』
『ひとつなぎの大秘宝は、誰が見つけるんだろうな』
かつて、世界一周を成し遂げて、最後の晩に相棒と交わした言葉の一つ。
(残念ながら、見つけるのはお前の息子じゃなかったな、ロジャー。……だが、意思は継がれゆく。今ここに……)
「君たちは、私たちを超えていくか?」
穏やかな期待に包まれたその言葉を、正面から受けて。
少女は、しっかりと頷いた。
「もちろん」
2年間、雛鳥たちは己の成長に心血を注いだ。
そして今日、成鳥となった彼らは、新たな時代を創るために飛び立つのだ。
「みとどけて。しんじだい、の、まくあけ」
さて、その頃。
新時代の要を担い、新たな旅立ちを迎える彼らのキャプテンは、巨大なリュックを背負って、シャッキーの『ぼったくりBAR』を目指して歩いていた。
「まさか島着いて10分で絡まれるとはな〜……やっぱハンコックに言われた通り、ヒゲつけとかなきゃダメか」
独り言を呟き、リュックを探って、つけヒゲを取り出す。
「んー……よし! これでもうバレねぇぞ! ……にしても、」
リュックを背負い直して、辺りを見渡した。
「ここ、どこだ?」
同じ頃、諸島の端、港町では……
「おい、おっさん」
緑髪で、刀を三本 腰に差した男が、魚屋の老父に尋ねていた。
「釣りがしてぇんだが、舟出しちゃくれねぇか?」
「んぁ? 兄ちゃん、釣り人って感じじゃねぇけど?」
「あぁ、まぁな。実はこの島で仲間と待ち合わせてるんだが、どうやら俺が1番乗りしちまったみてぇでヒマなんだ。んで、1番乗りしちまった俺としては、釣りでもしながら時間を潰そうと考えてるんだが」
「ほ〜、そうかい。んじゃ、あそこの漁船をこれから出すから、先に乗っててくれ」
「あぁ、分かった」
男は言われた通り、舟の方へ歩いていった。
その数分後。
老父が釣りの用意を整えて、船着き場へ出てくる。
すると……
「おーい、漁師のおっさん、魚安く譲ってくれねぇか〜?」
金髪にくわえタバコの男が、すれ違うように店へとやって来た。
「ん? 留守か?」
「んなぁにいいいっ!?」
「あ?」
男がタバコを吹かしつつ振り返れば、釣り道具を背負った老父が。
「お、アンタか? この店の主人は」
「えっ!? あ、あぁ、そうだけどよ……」
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「い、行っちまったんだ!」
「何が?」
「緑の髪の兄ちゃんだよ!」
「緑の髪ィ?」
「実は今な? その緑の髪の兄ちゃんが来て、仲間を待ってるんだがヒマなもんで、釣りをしてぇから舟を出してくれって言ってきたんだ。だから俺は、すぐそこの漁船に先に乗ってるよう言ったんだ。……けども」
船着き場には、小さな漁船が一隻。
「あの兄ちゃん、間違って隣の海賊船に乗っちまって! 行き先はたぶん、魚人島だ……」
「へぇ、仲間を待つ暇潰しに釣りをねぇ……。そいつ、髪が緑で刀が三本、腹には腹巻きしてたか?」
「そう! それだ! 知り合いかい?」
「んー、まぁ、知った顔だ」
「はぁ……俺は何てことしちまったんだ……」
「チッ、あのバカ……集合場所に1番乗りなんて似合わねぇ真似したと思ったら、結局いつものコレか。海の中じゃさすがにティオちゃんも追えねぇっつの……」
「悠長にタバコ吹かしてる場合かい! アンタ知り合いなんだろ!? あの兄ちゃんが乗っちまったのは海賊船だぞ!」
金髪の男は、老父の肩に手を置いた。
「あぁ いいんだ いいんだ、気にすんな。全くアンタのせいじゃねぇし、ありゃ死にゃしねぇから。行き先が分かっただけラッキーだ。それより、魚はあるか?」
「魚って、兄ちゃん……」
「おいっ、あれを見ろ!」
「何か出てくんぞ!」
「「?」」
何やら、船着き場が騒がしくなってきた。
漁師と思しき人々が集まって、しきりに海を指さしている。
老父と金髪の男も岸辺に近寄って、海を覗いた。
すると……
"ドパアッ!"
海の中から、巨大な帆船が出てきた。
「見ろ! ガレオン船だ! 旗を見る限り海賊船だな……」
「コーティング失敗で水圧にやられちまったのか!?」
「いや、見ろ! 船体が、まるで刃物で斬ったみてぇに綺麗に切れてる!」
「馬鹿言え! 誰が斬るんだよ! こんなバカでけぇ船を!」
海賊船の船長と思しき男が叫ぶ。
「テメェっ……俺たちの新世界への夢を、よくも!」
船の縁で、緑髪の男が刀を振った。
「合縁奇縁。疫病神と船に乗り合わせた、お前たちの運命を恨め」
「勝手なことをぉぉ!」
それを見て、金髪の男・サンジは、ため息混じりに呟いた。
「なぁんだ戻って来やがったのか。どっちでも良かったんだが……」
船を斬り戻ってきた男・ゾロは、口に入った水を吐き出し、刀を仕舞う。
「船を間違えた」
2年経っても、度を越した方向音痴は健在のようだ。