シザンサス
□41,麦わら一味再集結
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『麦わら一味 完全崩壊』
そんな見出しが新聞の一面を飾った日から、2年。
あの日以来、"麦わら一味"の名が新聞に載ることはなくなった。
世間は、続々と新世界に進出し、毎日のように新聞を騒がせる超新星たちに、目を奪われていく。
そして、"麦わら一味"の名は、少しずつ人々の記憶から薄れていった。
鮮やかな緑を背景に、ぷくぷくと空へ昇っていくシャボン玉。
2年経った今も、その幻想的な景色は全く変わっていない。
(……みんな、もう、きてる)
濃紺の翼で風を切り、小さな鳥が、諸島を1周するように巡る。
1つ、また1つと、懐かしい気配が覇気に引っ掛かった。
数えていけば、綺麗に9つ揃っている。
胸に湧く、熱い想い。
風を切る翼に、思わず力が籠った―――。
シャボンディ諸島内部。
とある酒場の、カウンター席にて。
「ねぇ、シャボンディってこんなに治安悪かったっけ?」
長いオレンジの髪の女が、目の前の店主に尋ねた。
「何だ、知らねぇのか?」
店主はグラスを拭きながら答える。
「海軍本部が場所を移したからだよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。レッドラインを挟んで対になってたG1と、場所を入れ替えたのさ。それがセンゴクに代わる新元帥の覚悟だよ。……何たって四皇の統べる海に、堂々と本部を構えたんだからな」
「ふ〜ん。……それで脅威が薄れて、街が荒れてるってわけね」
酒のグラスを傾けながら、周囲の声を盗み聞く。
「おいっ、これ見たか!」
「あぁ、麦わら一味が再び現れるってヤツだろ?」
「2年前の事件を境に、いつの間にか死亡説が出てたってのに、ここへ来てまさかの仲間募集とはな〜」
「今このシャボンディには、グランドイン前半で名を上げた海賊たちが続々と集まっていやがる」
「こりゃ、規模を拡大して、一気に新世界に乗り込む気だな」
「ゾクゾクするなぁ! 俺も仲間に入れて貰えねぇかな〜」
「バーカ。今この島には、億越えだってチラホラいるんだぞ? オメェなんか相手にされねぇよ、ハッハッハッハッ!」
「な、なんだよ〜……」
"バンッ!"
突然、店の戸が勢いよく開き、新たに4人の客が入ってきた。
「おいオヤジ! 酒だ酒! それと食い物! ありったけな!」
「あ、あぁ……」
他の客たちは、4人の姿に委縮する。
「……おいっ、もしかしてアレ、麦わら一味なんじゃねぇか?」
「しっ、聞こえるぞ!」
オレンジの髪の女は、横目にその4人を見据えた。
すると……
「なぁ、アンタが麦わらのルフィだろぉ?」
男が1人、4人に歩み寄るのが見えた。
「ぁあ?」
「仲間募集してんだろ? 俺の海賊団を仲間に入れてくれよ。損はさせねぇぜ?」
「懸賞金は」
「ん? あぁ、俺か? 5500万ベリーだ」
"パァンッ!"
「……え……は……?」
"ドサッ"
男はその場に膝をつく。
麦わら帽子の男は、ピストルから上がる煙を吹き消した。
「5500万ベリーだぁ? よく貼り紙読んでこい。懸賞金7000万ベリー以下の船長の交渉は受け付けねぇ」
「ぅぐ……チクショーッ」
「ぁあ?」
「はっ、いやっ、今のは……」
"パァンッ"
「ぎゃあああああっ!!」
男は倒れた。
客たちは目を背ける。
「容赦ねぇなぁ……」
「あれが4億の……」
麦わら帽子の男はピストルを仕舞い、カウンターに目を向けた。
「おいオヤジ、酒追加だ!」
「へ、へい! ただいま!」
「……ん? おい、そこの女」
麦わら帽子の男は、カウンター席のオレンジ髪の女に声を掛ける。
「そんなとこで1人シンミリやってねぇで、こっち来いよ」
「……」
「おい女! 聞こえねぇのか!」
女は、わざとらしくため息をついた。
「結構です。あたし男待ってんの」
「「「!?」」」
女の反応に、店中が青ざめた。
店主が親切心で忠告する。
「おいおいアンタっ、言うこと聞いときな! 相手はあの麦わらのルフィだぞ!」
黄色い仮面のようなものを被った男が笑う。
「ハッハッハッハッ! どうせその待っている男とやらも、ウチの船長の名を聞いたら逃げ出すような腰抜けだろう? 早くこっちに来やがれ!」
女はもう一度ため息をついた。
「耳が悪いのかしら……。いい? もう一度だけ言うわよ? アンタじゃあたしに釣り合わないから飲まないって言ったの。お分かり? 麦わらの……誰だっけ?」
麦わら帽子の男は、再びピストルを抜く。
「俺が誰か、だと? いい度胸してんじゃねぇか」
「いいえ、船長。ここは私が」
明るい茶髪の女が、男の手からピストルを抜き取る。
そして、オレンジ髪の女に近寄っていった。
「あんた、面白い女だね」
肩に手を掛け、ピストルを顔に向ける。
「それじゃ2択にしてあげる。ルフィ船長の誘いを受ける? それとも、死ぬ?」
「……」
「ちなみに私も賞金首。泥棒猫ナミっていうの。ナメないでよね?」
酒場に緊張感が満ち、誰もが息を呑む。
そんな凍てついた空気の中……
「必殺緑星"デビル"!」
「へ?」
突然声が聞こえ、茶髪の女が振り返ると…
"ヒュルルルル……ボンッ"
爆発音が響き、巨大な植物が現れた。
「ひぎゃああああっ!?」
茶髪の女は草に絡め取られる。
「助けてえええっ!」
「うおっ、こっち来んな馬鹿!」
「うわあああっ!」
麦わら一味と思われる4人も、まとめて絡め取られた。
オレンジ髪の女は、目を見開いてそれを見上げる。
すると―――
「じゃあ お姉ちゃん、俺となら飲むか?」
「!」
背後から聞こえた、聞き覚えのある声。
まさか……
期待を胸に振り返ってみれば、
「へへ〜ん」
よく見知った長い鼻が目に留まった。
「あはっ! やぁだちょっとウソップじゃな〜い! 久しぶり! 何よ逞しくなっちゃって〜ぇ!」
オレンジ髪の女・ナミは、格好よく登場した男・ウソップを抱きしめる。
ウソップは、豊満な胸に顔を埋める形となった。
「ぶぐぉっ、お前の方こそ、また一段と実っちまって……」
ナミはウソップを離すと、未だにうねっている植物を指さした。
「あれ、アンタが?」
「おうよ! 新兵器ポップグリーン! 何もこの2年間、海を眺めてぼんやりしてたわけじゃねぇからな。悪ィが俺は、オメェとチョッパーとの弱小トリオは卒業だ。何が起きてももう動じねぇ。そんな戦士になったのさ!」
植物に絡まれた、黄色の仮面の男が叫ぶ。
「っの小僧! まさかコレお前の仕業じゃないだろうな!」
「んなにィ!? そげキング!?」
……戦士、早くも"動じ"た。
「ウソップ、無視無視あんなの。お店変えましょ? ちょっとお願いもあるし」
ナミはウソップの手を掴んで、店の出口へと歩き出した。
麦わら帽子の男が、額に血管を浮かび上がらせる。
「待ちやがれテメェら!」
「えっ、ルフィ!?」
「いいから!」
ナミはウソップを引っ張り、店を出た。
……その2秒後。
"ビリリッ、ズドドドォンッ!"
店の中が光り、雷鳴が轟いた。
「……でね? 新しい技術を手に入れたわけなんだけど」
「マジかよお前、空島にいたのか!」
2人は話しながら、どこかへ歩いていった。