シザンサス

□36,本当の顔
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翌日。

ティオが目を覚ますと、部屋は日の光でだいぶ明るくなっていた。

窓の外に見える、太陽の位置から察するに、もう昼だ。

「……」

昨日、この部屋で目を覚ましたのは、夕日の迫る午後だった。

カクから事情を聞いた後、ブルーノがお粥を持ってきてくれたのを覚えている。

それを完食したあと、食べ過ぎで苦しんでいる間に、いつの間にか眠っていたらしい。

20時間ほど眠っていたのだろうか。

「……」

部屋を見渡すと、机の上の物の配置が、昨日と少し変わっていた。

きっと、眠っている間にカクが来て、仕事の準備をしていったのだろう。

そして、サイドテーブルを見れば、こんもりと山のように食事が置かれている。

『2食分』と小さなメモも添えられていた。

覇気を広げてみると、同じ階からは、寝ていると思しきブルーノの小さな"声"、下の階からは、フクロウの"声"を感じる。

ブルーノは昨日、夕日の迫る時間に、これから仕事に行くと言っていた。

夜勤の仕事をして、昼は寝ているのかもしれない。

「……」

ティオは、『2食分』として置かれた大量の食事を、引き気味な目で見つめる。

これまで麦わら一味で食べていた1日分より、明らかに多い。

昨日、無理に食べて痛い目を見たので、今日は無理しないでおこうと、とりあえず空腹が満たされる分だけ食べた。

そして、しばらく食休みをしながら、考え事をする。

腕や脚を見下ろすと、新しい包帯が丁寧に巻かれていた。

(1かげつ、なんて、まてない……)

カクは完治するまで逃がさないと言っていたが、そこまで待っている間に、ルフィの心が折れてしまっては元も子もない。

1週間を目安に、何とか体力を戻して、ルフィの元へ向かおう。

そう考えたティオは、ふと、ベッドから降りた。

片足で、ひょこひょこと部屋の窓に近づく。

脚は折れていても、鳥になってしまえば、窓から逃げられるかもしれない。

鳥の姿の間は、気配も人から鳥に変わるし、毎日見ていない限り、他の鳥と見分けることも難しいから、追うことも難しいだろう。

ティオは希望を胸に、窓枠に手をかけた。


"カタタ…"


「……」


希望は、あっさりと打ち砕かれた。

窓は嵌め殺しで、窓ガラスを割らない限り外に出られない。

そんなことをすれば一発で見つかって、たとえ鳥の姿であっても、月歩と剃の併用で追いつかれてしまうだろう。

残る望みは、1階の窓か玄関扉……

……とりあえず、体力を戻すため、海兵だった頃に毎日行っていた、基礎トレーニングをやることにした。

まさかこんなところで使うことになるとは、夢にも思わなかったけれど。

「……ふ……ふ……」

右脚は動かせないので、左脚だけでスクワットをしてみたり、逆立ちで部屋の中を歩き回ったりしてみる。

随分と体力が落ちているようで、少し動くだけでドッと疲れた。

何度も休憩を挟みながら、基礎トレを繰り返していく。

最後に、指銃(シガン)(ソル)もやってみることにした。

しがん(指銃)


"シュシュシュッ"


空気を穿つ、ティオの指。

少し威力は落ちているが、数日中に元に戻りそうだ。

続いて、(ソル)を片足だけで試してみる。

そる()……ぅ!?」


"ドタッ"


やはり、片足だけでは難しく、ティオは盛大にコケて、床に額を打ちつけた。

元々、両脚で素早く何度も地面を蹴って移動する(ソル)は、片足でやるべき技ではない。


"カチャ…"


扉が開く音がして、ティオはビクっと肩を揺らした。

顔を上げてみれば、大きな顔とチャックの口が、扉の隙間から覗いている。

「チャパ……何してるんだ? お前」

常人なら青ざめるであろう幽霊的な登場の仕方だが、覇気で感情を読むティオには、あまり関係ない。

フクロウからは、野良猫に興味を持つ子供のような感情が伝わってきた。

ティオは打ちつけた額をこすりながら、答える。

「なまった、からだ、うごかしてた」

「ふ〜ん。…………チャパ?」

突然、フクロウの視線がティオから逸れた。

ティオがその視線を辿れば、サイドテーブルに乗った、食べかけの食事に行きつく。

再び、ティオがフクロウの方へ振り返れば、チャックの口からダラリと涎が垂れていた。

「……。……たべる?」

訊くと、フクロウの頬が紅潮する。

「いいのか!?」

「(コクン) …たべきれ、ないから」

「チャパパ〜!」

フクロウは扉を開けて部屋に入ってくると、食事が乗ったお盆を手にし、目をキラキラさせながら(きびす)を返した。

途中、思いついたように一度止まる。

「あ、そうだ。お前、体動かしたいなら、俺が相手してやる。昼メシくれたお礼にな。ついてこい」

そう言って、廊下に出ていった。

ティオは、ぱちくりと瞬きをしてから、片足で立ち上がる。

そのまま、ピョンピョンと部屋を出て、フクロウの後をついていった。

建物内から出なければいいと言われたし、何より監視のフクロウが誘っているのだから、問題はないはずだ。

 
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