シザンサス

□36,本当の顔
3ページ/8ページ



さらに翌日。

ティオが目を覚ました日から、3日目。

昼頃に目を覚まし、部屋にあった食事を食べたティオは、トイレのために1階に降りてきた。

「……」

階段の途中で、共用のラウンジスペースを見れば、そこにはクマドリの姿が。

今日のティオの監視 兼 アジトの警備は、彼のようだ。

ティオの気配を感じたのか、クマドリは振り返る。

「よよい! や〜っと起きたか〜ァ」

「……」

ティオはどう答えるべきか分からず、とりあえず小さく頷いた。

クマドリは、歌舞伎役者のようにポーズを決める。

「カクから〜ァ、伝言だ〜ァ。昨日みてェな無茶はァ、ぁ絶対にィ、するなってよ〜ォ」

「……。……わかった」

言われなくとも、昨日の疲労をまだ回復しきれていない。

「よよい! ぁ暇なら〜ァ、遊んでやろ〜ォか〜ァ?」

「……?」

遊んでやる、と言ったのか?

ティオは半目でまばたきを繰り返す。

昨日のフクロウといい、何故こんなに遊びを勧めてくるのだろうか……

……だが、毎日1階で過ごすようにすれば、1階に居ることを疑問に思われないようにでき、逃げる隙も作りやすくなる。

「(コクン)」

とりあえず、1階で過ごす口実のために、ティオはクマドリの誘いに乗ることにした。

本来の目的であったトイレから戻ると、ラウンジに簡易的な舞台が作られている。

「それでは〜ァ聞いてくだ〜せ〜ェ、『瞼のおっかさん』」

どうやら、寸劇を見せてくれるようだ。

ティオはソファに座り、大人しく観劇する。

「泣くんじゃねェ〜、ぁ泣くんじゃねェよ〜ォ」

こぶしを利かせた言い回し。

大袈裟な振り付け。

クマドリの一人寸劇を、どこか遠いもののように眺めて、ティオは、不思議な気分に浸っていた。

……こんなふうに、敵である自分と遊んでくれるなんて。

昨日のフクロウもそうだが、クマドリからも、想像していたような冷酷さを感じない。

CP9でなくなったことで、途端に殺し屋のスイッチがオフになったのだろうか。

……それとも、これが素なのか。

考えているうちに、寸劇が終わった。

ティオはパチパチと拍手を送る。

その、人形のような無表情に、クマドリは頬を掻いた。

「……面白かったか〜ァ?」

ティオは、何故そんなことを訊くのだろう、と首を傾げてから、コクンと頷く。

ティオとしては、十分に楽しませてもらっていた。

しかし、クマドリから見れば、まったく表情が変わっていなかったため、つまらなかったのではと思ったのだ。

「お前さん〜、何がァ好きだァ〜?」

クマドリは、今度はティオが好きなことで遊んでやろうと思い、訊く。

ティオは首を傾げ、視線をあちこちに飛ばした。

……好きなことなんて、考えたことがない。

海兵だった頃は、ひたすら伝承者の任務と休息の繰り返しで、あとはクザンに鍛えてもらったり、一緒に昼寝をしたくらい。

麦わら一味に入ってからも、航海中の配置についたり、冒険中の手助けをしたりするほかは、ゾロと一緒に昼寝ばかりしていた。

暇とか何とかは、感じる前に、じっとしていられない船長が何かを起こすから、あまり感じたことがない。

「すきな、こと、わからない……」

ぽつりと答えたティオに、クマドリはまばたきを繰り返す。

そして、その場に錫杖をカンッと立てた。

「ならば〜ァ、こんなのァ〜、どうだ〜?」

うねうねと、クマドリの髪が動き出す。

「生命帰還〜」

髪は、何本もの腕のように動き、ティオの体を持ち上げた。

そのまま、ぽよんぽよんとボールのように跳ね上げる。

まるでトランポリンのような動きに、ティオは最初こそ驚いたが、ちょっと楽しく思った。

口元が、波打つように少し緩む。

それを見て、クマドリも口角を上げ、さらにティオを跳ね上げた。


……やがて、トランポリン遊びは、ティオと髪の鬼ごっこに変わっていく。

「お前さん〜、ぁなかなか〜、素早いじゃァねェか〜ァ?」

「むぅ……っ」

怪我がなければ、もっと速く動けるのに。

少し悔しく思いながら、追いかけてくる無数の髪を、ティオは避け続けた。

……カクから、無茶をするなとあれほど言われたのに。

勝敗のある遊びになってしまうと、どうしても負けず嫌いが出てしまう。

結局、今日もティオは、くたくたになるまで動いてしまうのであった……

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ