シザンサス

□36,本当の顔
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1階に降りてくると、フクロウは適当なソファに座り、目の前のテーブルにお盆を置いて、ティオの食べかけの食事にがっつき始めた。

「モグモグ……今日の昼メシをどうしようか考えてたから……ゴクン……ちょうど良かった〜、チャパパ〜」

ティオはフクロウの隣に座り、密かに窓の構造を観察しながら、フクロウが食べ終わるのを待つことにする。

……どうやら、1階の窓なら開けることが出来そうだ。

「朝と夜は……モグモグ……ブルーノが作ってくれるが……ゴクン……昼は作ってくれないから、仕事がない日は面倒なんだ〜」

訊いてもいないことを、自分からペラペラと喋ってくれるフクロウ。

ティオは、この建物の監視体制のことも聞き出せるかもと、遠回しに色々と訊き始めた。

「しごと、なに、してるの?」

「モグモグ……ゴクン。色々やるが、最近は食べ物屋の手伝いだ〜。俺は声がデカイし目立つから、試食を食ってウマイって言えば、自然に店が繁盛するのさ〜、チャパパ〜。メシも食えて一石二鳥だしな〜」

「きょうは、やすみ、なんだ」

「そうだ〜。週に1度は必ず休みを取る〜。他のみんなもそうだ〜。どこに政府の諜報員が潜んでるか分からん以上、このアジトは空けられんからな〜」

要するに、7人が交代で休みを取りながら留守番をしているのだ。

時間帯によってはブルーノもいるから、2人になっているときの方が多いが、ブルーノが仕事に出てから他のメンバーが帰ってくるまでは、監視が1人になる時間帯がある。

脱走するなら、その時間を狙うのが定石だろう。

そして、骨折が治るのを待つ時間がない今、使える逃走手段は、鳥の姿で飛んで逃げるの1択のみ。

7人の(ソル)月歩(ゲッポウ)の速さに、あまり差はないが、最も筋力が低いカリファ相手なら、チャンスはある。

(……さくせん、きまった)

カリファが休みの日に、ブルーノが仕事に出た後で、隙をついて1階の窓から鳥の姿で飛び出す。

それが、今打てる最善手だ。

「チャパ〜、ウマかった〜」

早くも、フクロウが食べ終わったらしい。

大きな顔で、ズイっとティオの顔を覗き込んでくる。

「で? お前、何して遊びたい? 鬼ごっこか? かくれんぼか?」

ノリノリで訊いてくるフクロウの感情は、子供より子供っぽい。

確か、情報では今年で29歳のはずだが、とてもそんな感情ではない。

(なま)った体を動かすのに、遊びを第一に提案してくる辺り、フクロウも遊びたいのかもしれない。

「じゃあ、さかだち、おにごっこ」

足が折れた状態で、元CP9と普通に鬼ごっこをするのはハードルが高すぎる。

フクロウは目を輝かせた。

「逆立ち鬼ごっこか! 面白そうだ〜!」







―――数時間後。

空が赤くなり始めた頃、カクは仕事を終え、アジトに戻ってきた。

ラウンジの明かりが点いているのが外から見え、何やら人の気配が動いているのが感じられる。

またジャブラとフクロウ辺りが遊んでいるのかと、ため息をついた。


"ガチャ"


「戻ったぞー。遊んどるなら晩メシの支度でも手伝ってや…………ん?」

玄関扉を開けると、ラウンジスペースに、フクロウとティオが倒れていた。

疲弊しきった様子で、2人とも荒い呼吸を繰り返している。

カクは状況が呑み込めず、固まった。

「何してるんじゃ……?」

そこに、夕飯の支度を終えたブルーノが、エプロンを外しつつキッチンから出てくる。

「逆立ち鬼ごっこをしていたらしい」

「さ、逆立ち鬼ごっこ? 何じゃそれは…」

「名前の通りだ。ろくに休憩もせず、何時間も続けていたからな。さすがに体力の限界が来たんだろう」

カクはため息混じりに、ティオの傍へ歩み寄った。

「まったく何をしとるんだか……1週間は安静じゃと言うたのに」

床に這いつくばったティオを起こしてやると、ゲッソリした顔をしている。

「たいりょく、つける、つもり、で……」

「その体力を根こそぎ使ってしもうてどうするんじゃ……。フクロウも、少しは考えて遊んでやらんか」

「チャパ〜……はぁ……はぁ……意外と負けず嫌いな子だった〜……疲れた〜……」

仕方なく、カクは子供を抱っこするように、ティオを抱き上げた。

「晩メシは食えるのか?」

ティオはカクの肩に顎を乗せ、青ざめた顔で首を横に振る。

ブルーノが、2時間ほど前にティオから聞いたことを、カクに伝えた。

「元々、1日1食か、多くとも2食しか食べないそうだ。今朝置いておいた分も、ほとんどはフクロウの昼メシになったらしい」

「ほう? 虚弱体質サマサマじゃな」

「俺はそろそろ仕事に出る。後は任せていいな?」

「あぁ、大丈夫じゃ」

ブルーノは、エプロンをラウンジの壁の杭にひっかけると、ソファに置いてあった小さい荷物を肩に引っ掛け、仕事に出かけていった。

カクはティオを抱いたまま、床に寝そべっているフクロウを足先でつつく。

「おーい、いつまで寝そべっとるんじゃ。もうすぐ全員帰ってくる。皿でも並べてろ」

「チャパパ〜」

返事なのかそうではないのか。

よく分からない返答を聞き流し、カクは2階へと上がっていった。

静かな廊下を歩いていると、穏やかな寝息が聴こえてくる。

「…………すぅ………すぅ……」

抱かれている間に、ティオは眠ってしまったらしい。

(……何だかんだ言うても、まだまだ子供なんじゃな)

カクは無意識に、フッと口角を上げていた。

 
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