デュランタ
□1,よく効く薬
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唱え、刀の柄と鞘とを打ち合わせる。
(形が変わった!? 槍か!)
「驚いてるヒマねぇぞ一護! 行くぜ! 見誤んなよ!」
一角の踏み込みが、鋭さを増す。
「誰が見誤るかよ!」
"ヒュオッ、ガキィンッ、ガガガッ"
「へっ、槍の間合いが長いことぐらい分かってるぜ! 誰が見誤るかよ!」
「違うぜ」
「…何?」
"ヒュォッ、ガッ"
「裂けろ! 鬼灯丸!」
"カッ、カッ、ザシュッ"
コの字型に曲がった鬼灯丸が、一護の右腕を斬り裂く。
「見誤るなってのはこーいうことだ」
一角は鬼灯丸を自分の肩に掛けた。
「鬼灯丸は"槍"じゃねぇ。"三節棍"だ」
「……」
一護の右腕は、派手に出血し、真っ赤に染まっている。
「痛てぇか? その手じゃ、もうロクに剣も握れねぇだろ。俺は心優しい男だ。普段ならここで生かして捕えるところだが、悪いな。テメェは殺さねぇと手柄になら「よし!」
「あ?」
一護は一角の話をロクに聞かず、斬魄刀から伸びている晒しを、右腕に巻き付けていた。
そして…
"ダッ―――"
「!」
"ヒュッ、ドゴォッ"
迷いなく一角に斬りかかる。
紙一重でそれをよけると、背後の建物が崩れ去った。
「もう終わったみたいな口きくなよ。俺の剣をまだ見せてねぇ。こっからだぜ、一角。今度は、アンタが剣握れなくなる番だ」
「…上等な口きくじゃねぇか、餓鬼が」
「!」
「遅せぇ!」
"ゴッ"
三節棍の柄に突かれる。
「……っ、ぉらあっ!」
振りかぶられた一護の斬魄刀を、一角は鬼灯丸の鎖部分で受け止め、続けざまに刃を突き出した。
「へへっ」
"ガガッ、バキッ、ドガッ"
「おらおらどうした、威勢がいいのは口だけか? 鬼灯丸の攻撃は変幻自在だ。素人のテメェにゃ、ついてこれねぇだろ」
「…そうでもないぜ?」
「あ?」
一度間合いを取った一護は、手を開く。
はらはらと、赤い糸飾りが落ちた。
「!」
一角は鬼灯丸の柄を見て、目を見開く。
「こっちはアンタの攻撃に、ようやく目が慣れてきたところだ」
"ダッ…"
「!」
「もう一度言うぜ、一角」
(何だっ、迅えぇ…っ)
「次に剣を握れなくなるのは、アンタだ」
"ヒュッ――――――ザシュッ"
振り下ろされた太刀。
身に走る痛み。
目の前に弧を描く、鮮血。
「っ……はっ、はぁっ………くそ…っ」
鬼灯丸は、真っ二つに斬られていた。
「…へっ、どうした……もう終わりかよ………残念だったなァ…っ……俺は、まだ…っ、剣を握れるぜえ!?」
"ジャラァッ"
「…剣を引けよ」
「断る!」
「引けっつってんだ! 勝負はついてる! もう判んだろ! アンタの負けだ!」
「はン…何の寝言だ? こいつは、戦いだぜ? ……はぁっ…勝負を、決めるのは……生き死にだけだ。更木隊三席・斑目一角、ここで退いて永らえるほど、腑抜けに生まれた憶えは無え!!」
一角は斬られた鬼灯丸を持ち直し、力の限り踏み込む。
…突っ込んでくる一角に、一護は浦原の姿を重ねた。
そして奥歯を噛み締めた。
「…せぇよ……遅せえ!」
"ヒュォッ――――――ザクッ"
気付いたとき、鬼灯丸は砕け散っていた。
身体に、新たな痛みが生まれる。
一角は、フっと笑った。
「…くそが………強ぇなァ…テメェ……」
目の前が暗くなっていく。
「…チッ……ツイてねぇや……」
"―――ドサッ"
目の前で倒れた一角に、一護は肩で荒く息をつきながら、呟いた。
「…ツイてねぇのはお互い様だチクショウ」