デュランタ

□1,よく効く薬
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時は少し遡り、警鐘が鳴り始めた早朝。

「あ〜〜〜だりィ」

「そうだね〜。ん〜今日も美しい僕…」

警鐘が鳴る最中(さなか)

十一番隊の管轄区域の端で、一角は屋根の上で寝転び、あくびを繰り返していた。

その傍で、弓親はひたすら鏡を覗いている。

「ったく、な〜にが配置につけだ」

「ん〜、そうだね〜ぇ。…おや、枝毛が」

二人が居る屋根の下では、平隊員たちが路地を走り回っている。


"コオオォォォ……"


「「?」」

何やら、空から音が聞こえてきて、二人は顔を上げた。

今にも朝日が昇りそうな薄闇の中、光るものが遮魂膜(しゃこんまく)に向かって落ちてくる。

「何だ? ありゃ」

「さぁね」


"コオオォォ………ドッ"


光るものは膜にぶつかると、渦を巻いて弾け飛んだ。

四つに分かれて飛んだ光は、瀞霊廷内各所に落下していく。


"ヒュウウッ、ドゴォッ"


光のうちの一つは、すぐ傍に落下してきた。

「「……」」

一角と弓親が、揃って屋根の上から見下ろしてみれば、路地に、アリジゴクのような砂地ができている。

「「うっ、ぶはぁっ!」」

中から、男が二人、頭を飛び出させた。

「は〜〜……お前の妙な技のおかげで助かったぜ…」

「げほっ、げほげほっ」

「サンキューな、ガン「げぇほっ、げほっ、げほげほっ、おえっ」

「いつまで自分の技でムセてんだよ!」

"ゲシッ"

「おうっ!?
テメェ! 命の恩人にケリくれるたぁイイ度胸だなコラ!」

「今のはケリじゃなくてツッコミだ! 現代風の『ありがとう』なんだよ!」

「なにぃ!? そうなのか!?」

砂地の中で、言い争う二人。

一角は口元を歪めて、斬魄刀を手に取った。

「いよッホォ〜ウ、ツイてる〜ゥ!」

そう叫びながら屋根を飛び降りると、続けざまに弓親も飛び降りる。

「配置につくの面倒だったから隅っこでサボってたら、目の前にお手柄が落ちてきやがった! ツイてるツイてるっ、今日の俺はツイてるぜ〜!」

一角は斬魄刀をくるくる振り回し、鞘の先を旅禍二人に向ける。

「そしてテメェらは、ツイてねぇ」

旅禍二人は眉間にしわを寄せた。

「「あ?」」






「つついついついついっ、つつついっ、つつついっ、ついってるーん!」

一角は、ビシっと決めて旅禍の方を向いた。

「「………?」」

旅禍二人は、砂地の中で首を傾げる。

一角のこめかみにピキっと血管が浮き出た。

「何してんだテメェら! せっかく俺が『ツキツキの舞』を踊りながら、テメェらがそっから這い出してくんの待ってやってんのに! ナニ余裕こいて見とれてんだコラ! ヒトの厚意が分かんねぇ連中だなオイ!」

「……何だ、コイツ…」

「おい」

「あ? 何だよ」

「何だよじゃねぇよ! スキ見てとっとと逃げるぞ!」

「ぁあ!? 逃げるだァ!? この状況で何言ってんだテメェは!」

「バカ言え! 分かんねぇのか! コイツらの霊力! そこらのザコ死神のモンじゃねぇぞ!」


一角は砂地の縁にしゃがんだ。

「なァにゴチャゴチャやってんだ?」

「「!」」

「ま、好きなだけモタモタとモメるがいい。どれだけモタモタしても、テメェらがツイてねぇことに変わりはねぇ」

でも、と弓親が助言する。

「あまりモタモタしてると、他の連中に気づかれて、手柄横取りされるかもよ?」

「ぁん? そういやそうか。…よォし、そんじゃ制限時間を設けよう。俺がもうひと踊りする間に「とにかく俺は逃げるからな! 戦いたきゃテメェ一人でやれ!」

"シュダッ"

旅禍の一人が砂地から抜け出し、逃走した。

残ったオレンジ髪の旅禍に訊く。

「何だ? 仲間割れでもしたか?」

「ま、そんなもんだ。……くそ、袴ン中まで砂だらけじゃねぇか」

「チッ、手間掛けさせんなよ。……弓親」

「解ってる」

一角の意図を察し、弓親は逃げた旅禍を追いかけた。

それをある程度見送り、一角は残ったオレンジ髪の旅禍に向き直る。

「よォ」

「?」

「訊くが、オメーはどうして逃げなかった? あの野郎は、俺らの力が自分より上と見て逃げたんだろ? 俺は、あっちの方が正しい判断だったと思うが?」

「んー、アンタの力が俺より上なら、逃げることに意味は()ぇ。絶対に追いつかれるからな」

「……」

「けど、アンタが俺より下なら、倒して進みゃあそれで済む。そう思っただけだ」

「…成程。どうやら莫迦(ばか)じゃないらしい」



"――――――ダンッ"



「!」




ゆるりと立った状態から、一角は急に攻撃を仕掛けた。

が……

(かわ)した…?)

オレンジ髪の旅禍はしっかり反応し、装束の一辺すら切らせず、見事に躱して見せた。


"ヒュッ、ガッ"


もう一撃与えるが、再び躱される。

同時に、反撃に出てきた。

(ほう、()い体捌きだ)


"ガシッ"


一角は、降り下ろされた大刀を鞘で受けた。

すかさず、右の刀を振るう。


"ヒュオッ――――――パシュッ"


一角の斬魄刀と、旅禍の斬魄刀が、交差するように互いの額をかすめた。

「… 一応、名前を訊いとこうか」

「……黒崎一護」

「ほォ、一護か。いい名前じゃねぇか」

「そうか? 名前褒められたのは初めてだぜ」

「名前に"一"の付く奴ァ、才能溢れる男前と相場は決まってんだ。俺は、十一番隊・第三席・副官補佐、斑目一角だ。一の字同士、仲良くやろうぜ!」

「やだね」


旅禍・黒崎一護はムスっとして、額から流れてくる血を、左の親指で拭った。

一角は目を細める。

「…()せねぇな」

「あ?」

「これだけ間合いがあるとはいえ、対峙の最中に刀から片手を放すなんざ、素人のするこったぜ?」

「う、うるせぇな、血が目に入ってちゃ見えねぇだろ! だから拭いただけじゃねぇか!」

「額の傷は、浅くてもハデに血が出る」

「!」

どろりと傷口から溢れた血で、一護の視界は片方だけ赤く染まった。

一角は(つか)を外し、いっぱいに詰められた血止め薬を薬指ですくって、傷に塗り込む。

補充して間もないからか、薬は柔らかく、良く伸びた。

…相変わらずイイ仕事しやがる。

そう思った。

「血止めをしねぇなら、拭く意味はねぇぞ」

「あ! 血止めの薬かよ! 汚ったねぇ自分だけ!」

「き!? 汚くねぇよ! 知恵だろ知恵! そこは『さすが場数踏んでんなァ』って感心するとこだろうがよ!」

一角は(つか)を元通りはめ直した。

「へっ、つくづく妙なヤローだ。振る舞いはまるで素人。とてもじゃねぇが戦士にゃ見えねぇ。……だが、反応は上等、打ち込みは激烈。体捌きに至っては、この俺に近いと言ってやってもいい」

「……」

「そう怖い顔すんなよ。褒めてんだぜ? ただの戦い好きの素人の"本能"で片づけるには、出来過ぎだ、ってな」

「……」

「師は誰だ、一護」

「……。十日ほど教わっただけだから、師と呼べるかどうかは分かんねぇけど、戦いを教えてくれた人なら居る」

「誰だ」

「浦原喜助」

「!」

一瞬浮かんだ、隊首羽織の揺れる背中。

「……そうか、あの人が師か……そんじゃ、手ぇ抜いて殺すのは失礼ってもんだな」

「!」

一角の霊圧の高まりに、一護は警戒心を強めた。

「延びろ、鬼灯丸!」

 
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