デュランタ

□1,よく効く薬
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"ゴリ、ゴリ……"


平日の昼間。

今日も紫月は、第一薬倉庫で日課の薬づくりをしていた。

基本的に毎日四六時中、薬倉庫内で薬を作っており、あまり外には出ない。

"コンコン"

「失礼しまーす。蓮見十二席、第七棟の薬品補充に来ました」

平隊員と思しき女性死神が、慣れた様子で入ってくる。

手には木箱を持っており、中には様々な小壺や小瓶。

紫月は手を止めることなく言った。

「……薬品番号と残存分量を」

「あ、はい」

隊員は、懐からメモ用紙を取り出す。

「ハ-26が残り4分の1、イ-03も同じく4分の1、ホ-147とニ-37が3分の1、ト-09が半分です」

隊員は木箱を作業台の端に乗せた。

「……」

紫月は手を止め、棚の間を歩き回って、薬の壺や瓶を複数取ってくる。

それを作業台に乗せると、それぞれの小壺や小瓶に必要量を補充していった。

そして、新しい小瓶を3つ、木箱に入れる。

「?」

平隊員は小瓶のラベルを見て眉をひそめた。

「この3つはまだ十分に残っていますが…」

紫月は再び棚の間を歩き回り、壺や瓶を元あった場所に戻していく。

「…期限切れ」

「えっ、そうだったんですか?」

小壺や小瓶には、使用期限などは書かれていない。

全ては紫月の頭の中だ。

「…古い方は捨てて、瓶は洗って、次の薬品補充の時、ついでに持ってくるように」

「あ、はい、分かりました…。失礼します」

隊員は、木箱を持って薬倉庫を出ていった。

「……」

紫月は特に見送ることもなく、黙って作業台に戻る。

"ゴリ、ゴリ…"

そしてまた、薬を作り始めた。







―――数日後の、朝方。


"カンカンカンカン!"


瀞霊廷内に、警鐘が鳴り響いた。


『瀞霊廷内に侵入者あり! 各隊、守護配置についてください! 繰り返す! 瀞霊廷内に―――』


"ガタ…"

「………ん、んん?」

紫月は、薬倉庫で目を覚ました。

(………寝てた、か……)

警鐘を聞いても、紫月は動じることなく眠い目をこする。


というのも、実は昨日の昼過ぎに一度、旅禍の侵入を告げる警鐘が鳴っていたからだ。

しかし結局、旅禍は瀞霊廷に侵入してくることはなかった。

…だが、再び旅禍が侵入を試みないとも限らない。

そこで、怪我人が発生することを予想した卯ノ花から、薬品の増産を頼まれ、紫月は夜遅くまで薬を作っていたのだ。

いつの間にか寝てしまったようだが…

そして今、卯ノ花の予想通り、二度目の警鐘が鳴っている。


"タタタッ"


「蓮見さぁん!」


"ガラッ"


誰かが走ってきて、薬倉庫の戸を開けた。

「はっ、はぁっ、はぁっ、きゅ、救護隊、全班、集合だっ、て……はぁっ、はぁっ」

たった数メートル走っただけで息を切らせている、気の弱そうなタレ目の死神。

…これでも彼は、紫月の上官だ。

「…山田班長」

四番隊・第七席、及び、第十四上級救護班の班長、山田花太郎。

「はぁっ、はぁっ……20分前に招集掛かってましたよ? いったい何してたんですか」

「…徹夜で薬作るつもりが、寝てました」

紫月はあくびをしながら、作業台の傍に立て掛けていた斬魄刀を、腰に差す。

そして、四番隊員全員に支給される、出張用の医療道具鞄を斜め掛けした。

「あまり無理しないで下さいよ?」

「…班長は、少しくらい無理して、もっと、頼れる班長に、なって下さい」

「う………はい」






「全体、遅れるな!」

「「「はっ!」」」

集められた救護隊全班は、いくつかのグループに分けられ、戦闘が起こっている各場所へ出発した。

花太郎の率いる十四班は、伊江村三席の率いるグループに配属されている。


"ドゴッ、ドゴォッ……"


瀞霊廷の至る所から、爆音が聞こえた。

「うわあ…すごい音…。何が起きてるんだろ」

と、呟いた花太郎に…

「そこ! 私語は慎め! これは演習じゃないんだぞ!」

伊江村三席の怒号が飛ぶ。

「は、はいっ、すみません!」

花太郎は慌てて口をつぐんだ。

その様子に、隣を走っていた紫月は、小さくため息をついていた。





やがて、伊江村三席率いる救護グループは、目的地に到着した。

十一番隊の平隊員が、山のように転がっている。

「全体、救護措置開始!」

「「「はっ!」」」

伊江村三席の命令で、各班は班長に従い、動き始めた。

紫月は、十一番隊舎の中央方面を見やる。

「……」

あの戦闘大好きおバカは無事だろうか…

きっとまた、血止め薬を補充しなければならないんだろうな…

そんなことを思った。

「あ、あの〜、蓮見副班長」

「……?」

班員に呼ばれ、紫月はゆったり振り返った。

「……何か?」

半目で尋ねると、班員は気まずそうに言う。

「班長が、いません…」

「……」

紫月は黙って辺りを見渡し、あの気弱な猫背姿を探した。

「……」

確かに、いない。

「…………はぁ」

…またか。

紫月は班員の方へ振り返った。

「…二人一組、又は三人一組で、治療開始。重傷者には、浄気結界を張り、第六段階まで治療を施したのち、搬送。分からないことあったら、すぐ訊いて。以上、行動開始」

「「「はっ!」」」

班員が動き始めたのを見届け、紫月も治療を開始する。

演習でも班長はよくはぐれるため、こうして副班長の紫月が指示を出すことが多い。

せっかく七席に入れるほど実力があるのだから、もっとしっかりして欲しいと、紫月を始め、班員たちは常々思うのであった……

 
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