シザンサス
□番外:ファンタジップ
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スリラーバークを出港してから、2日。
サニー号は無事に、魔の三角領域を抜けた。
"ザパァッ!"
「うお〜〜っ! でっけぇ! 何だコレ!」
「貝みたいだなぁ!」
「うぉおいっ、噛みついてくるぞこの貝っ」
「なぁサンジ〜! この貝食えんのか〜?」
「ギャアアッ噛まれたぁっ、助げでぇ!」
昼も近い晴れ空の下。
ルフィ、ウソップ、チョッパーは、相変わらず楽しい釣りの真っ最中。
"……ガッシャン、ガッシャン"
3人の騒がしい声を聞きながら、ゾロは、マスト頂上のトレーニングルームで、日課のトレーニングを行っていた。
"ガッシャン、ガッシャン…"
かれこれ2時間近く、巨大なバーベルを片手で上げ下げしている。
「……」
思い出される、バーソロミュー・くまと対峙した瞬間。
受けた傷痕が、疼く。
―――もっと、強くならなければ。
「…また、やってる」
「?」
小さな声が聞こえて、ゾロはそちらを見やった。
床に開いた出入り口から、小さな頭がぴょこっと覗いている。
半目の青い瞳は、呆れ顔を作って、こちらを見ていた。
「……」
ティオは部屋に上がると、スタスタとゾロに近寄って、すぐ傍でピタッと止まる。
"……ガッシャン、ガッシャン"
「……」
「……」
「…何だよ」
「…ねむい」
「…お前、さっき起きたばっかだろ」
「…ねむい」
「…寝りゃいいじゃねぇか」
「…いっしょ、ねるの」
「…ぁあ?」
「いっしょ、ねるの」
「手前ぇで寝てろよ」
「いっしょ、ね・る・の」
限界まで見開かれた青い瞳が、ずいっと顔を覗き込んできた。
…何となくホラーだ。
「……」
何故、だだをこねているのか。
理由は分かっている。
「……ったく」
"ガコン…"
ゾロは巨大なバーベルをその場に降ろした。
ベンチに歩み寄り、ドカっと座ると、傍に置いておいたタオルを肩に掛ける。
狙いすましたように、ティオがベンチに寝転がり、ゾロの膝に頭を乗せた。
…こうなっては、もう動けない。
「……フン」
ゾロはふてくされて、窓から海を眺めた。
「……」
気配で、ティオが狸寝入りをしているのが分かる。
スリラーバークを出てからというもの、ゾロがトレーニングをしていると、ティオは決まって、一緒に昼寝することを求めてきた。
バーソロミュー・くまとの戦いで負った傷のことを、気に掛けているのだ。
…3時間後。
「おっ? 何だアレ」
「何か、タテに細長い建物みたいな…」
「島…じゃねぇか?」
「もしかしてっ、あれが魚人島なんじゃねぇのか!?」
釣りを続けていたルフィ、ウソップ、チョッパーが、サニー号の前方に、島らしき影を見つけた。
「島だァ! 島が見えたぞ〜!」
ルフィが声を張ると、船のあちこちからクルーが出てくる。
もちろんゾロとティオも、甲板に降りた。
フランキーがサングラスを上げて、目を細める。
「もう魚人島に着いたってのか?」
ウソップがゴーグルの望遠機能で、島を観察した。
「…ん? いや、島じゃねぇな。ありゃ船だ。つーか、でっけ〜! 小っさい島くらいの大きさはありそうだぞ! 豪華客船か何かじゃねぇのか!?」
ティオが首を振って教える。
「あれは、ふぁんたじっぷ」
ナミが眉をひそめた。
「ファンタジップ?」
「(コクン) …23ねんまえ、ふごう、ばーるべる・ぷっち、つくらせた、ふね」
「バールベル・プッチ…?」
「(コクン) …としおいた、ぷっち、は、さいごに、ぜんざいさん、たのしいこと、つかおう、おもった。それで、つくった。このあたり、の、かいいき、くるくる、まわってる。ろぐぽーす、ささない、から、であえたら、うんが、いい」
次第に近づいてきた『ファンタジップ』。
縦に細長く見えたのは、8階建てになっていたからのようだ。
「ふぁんたじっぷ、1ねんじゅう、おまつりさわぎ。うみに、うかぶ、そうごう、ゆうぎしせつ」
そう言われれば、黙っていないのが船長。
「よーし行こう! あの船!」
「ちょっと待ちなさいルフィ!」
ナミは一番気がかりなことを、ティオに訊いた。
「海賊も大丈夫なの?」
ティオはナミを見上げて頷く。
「さわぎ、おこさな、ければ、だいじょぶ。ふぁんたじっぷ、も、かいぞく、のが、おかね、おとすこと、しってる、から。かいぞくも、れっきとした、おきゃくさん」
「も、もし、騒ぎを起こしたら…?」
「かいぐんほんぶ、から、ぐんかん、くる」
「えっ、海軍本部?」
驚くナミに、ティオの方が首を傾げた。
…そして、あぁ、と思い至る。
「ふろりあん、とらいあんぐる、すぎると、もう、れっどらいん、すぐそば、だよ?」
「「「 ! 」」」
一味の中に、ざわっと緊張感が走った。
ロビンやブルック、フランキーなど、知っている者は知っていたようだが、大半はその事実を知らなかったようだ。
ウソップが、現実味の湧かない顔で呟く。
「赤い土の大陸……マジで?」
「(コクン) …だから、かいぐんほんぶ、すぐそば。ふぁんたじっぷ、かいぞく、も、うけいれる、の、それが、りゆう」
「なるほど…海軍本部がすぐ傍にあれば、何か起きてもすぐに対処してもらえるから、ってわけね」
「(コクン) …かいぞく、たちも、それ、しってる、から、そうそう、あばれない」
「でも待って? もう赤い土の大陸の近くってことは、魚人島は新世界にあるの?」
ティオは首を横に振る。
「ぎょじんとう、れっどらいん、の、ましたに、ある」
「赤い土の大陸の真下…」
「んな〜ぁナミ〜ぃ! 魚人島の前にあそこ寄ってこうぜぇ〜?」
ナミはジト目で、くるっと、ルフィの方へ顔を向けた。
一度行くと言い出したら聞かないのが、この船長だ。
「いーいルフィ、騒ぎを起こしたら、海軍本部からとんでもないのが来るから。営業妨害しない程度に遊ぶのよ?」
「おう! 分かった!」
「……ホントに分かってんのかしら」
「とにかく行くぞお前ら! 祭りだ〜!」
「「お〜!!」」