シザンサス

□映画:STRONG WORLD
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時は少し遡り、ナミが攫われた日。

シキはナミを島船に乗せると、そのまま1つの島を目指した。

そこが本拠地らしい。

シキを追っていたティオは、何とかバレずに本拠地である島の上空に辿り着く。

「……」

眼下に広がるのは、適度な緑の中心に建てられた、巨大な王宮。

ティオはしばらく旋回し、鼠の姿で入り込めそうな入り口を探した。

…やがて、王宮の最上階に、開けられた窓を見つけると、徐々に降下し始めた。


…しかし。


「……ぅ"!?」


突然、鼻の奥がビリビリするような嫌な臭いが漂ってきた。

(こ、れっ、だふとぐりーんっ)

ティオは思わず空へ引き返した。

「ぅ…ぇっ」

鼻が利くのは便利だが、こういうときは弱いものだ…

よく見れば、王宮の周りをダフトグリーンが囲んでいる。

「……さい、あく…」

けれど、行くしかない。

ティオは意を決して、深く息を吸い込んだ。

そのまま息を止め、直滑降で王宮の最上階を目指す。

ダフトグリーンは、内側に入ってしまえば、少し臭いが収まる。


"ヒュォ……ポンッ"


開け放たれた窓に降り立ったティオは、鳥から鼠へと姿を変えた。

…ダフトの臭いは少しするが、致し方ない。

覇気で人の気配を探りながら、王宮の内部へ潜入していった。







数日間、王宮内を駆け巡り、島中を駆け巡り、ときには空を飛び回り。

ティオは頭の中で、王宮や島の見取り図を描いていった。

そして、時間ごとの人の動きや、監視の隙、ナミを助け出すために様々な情報を手に入れていく。

…どうやら、シキはナミを航海士として仲間に引き入れたいようだ。

確かに、微妙な風の変化でサイクロンの発生を見極める才能の持ち主は、世界広しと言えどそうそういない。

フワフワの能力を有するシキですら、サイクロンの暴風雨の前では成す術がないようだ。

「……」

脱出のプランは、8パターンほど練った。

あとは隙を見てナミと合流し、王宮を抜け出すだけ。

ティオは鼠の姿のまま、物陰で目を閉じ、覇気を広げた。

(なみちゃん…ぷーる、いる)

王宮の一角に作られた、1年中遊泳が楽しめる屋内温水プール。

(ぷらん4、つかえる)

これは脱出のチャンスだ。

ティオは王宮の(はり)を伝って、ナミのいるプールへと向かった。






「ジハハハハハハッ! 決心はついたかい? ベィビーちゃぁん」

「早くここから出して」

プールサイドで髪を拭くナミ。

その傍には、シキとその直属の部下2人がいた。

(……たいみんぐ、わるい)

シキたちは行動に一貫性が無いため、いつどこに現れるか分からないのだ。

ティオはプール内の植物に隠れ、様子を伺った。

「ジハハハハッ! 敵陣だってのに気の強ぇ娘だァ。そういう女は嫌いじゃねぇ」

シキとナミが話していると、突然、科学者らしき部下がひらめいたような顔をした。


"ボヨン、ボヨン、ボヨン、ボヨン"


科学者が歩くたび、妙な音がする。

シキはこめかみに青筋を浮かべた。

「テメェの足音はどうにかなんねぇのか! Dr.インディゴ!」

「! 〜〜〜〜っ! 〜〜っ、〜〜っ!」

インディゴは、身振り手振りで何かを伝えようとしている。

しかし、まったく要領を得ない。

「ぁん? 何が言いてぇんだ?」

「そういえばお見せしたいものが」

「喋るんかい!」

「ウホッ、ホッホッ」

もう1人の部下である、ゴリラが手を叩いて笑う。

シキはそのゴリラを見るなり、眉を潜めた。

「えっ、お母さん!?」

"ベシッ"

「ゴリラだろどー見ても!」



「「「ハイ!」」」


3人は、漫才の終わりのごとくポーズを決めた。

ティオは草の陰から、それをジト目で見つめる。

ナミはこれでもかと3人を睨み、吐き捨てるように言った。

「こっち見ないで」

しかし、効果はゼロ。

「氷のようだぜベィビーちゃぁん!」

シキを喜ばせるだけに終わった。


"ボヨン、ボヨン、ボヨン、ボヨン"


いつの間にかどこかへ行っていたインディゴが、2mほどの大きさの鳥かごを持って戻ってきた。

中には黄色い鳥が入っている。

「シキ様〜、これが先ほど申し上げた、お見せしたかったものです」

「えっ、ギター!?」

"ベシッ"

「鳥だろどー見ても!」



「「「ハイ!」」」


"キィィィ…"


鳥かごの戸が開いた。

「クァ〜!」

飛び出した黄色い鳥は、嬉しそうに3人に飛びつく。

そして…


"ビリリ…バリバリバリッ!"


電撃を放った。


「「「のぉぉぁあっ!」」」


シキは鳥の首根っこを掴み、投げる。

「こんチキショーッ!」

「グェェ!?」

"ドサッ"

明らかな動物虐待。

ナミは慌てて鳥に駆け寄った。

「ちょっと何してんのよ!」

「クァ〜…」

鳥はナミの後ろにすごすごと隠れる。

シキは隣で焦げているインディゴに尋ねた。

「進化ってのは今のか?」

「は、はい…。どうやら、電撃技に特化したタイプのようでして…」

ナミが眉をひそめた。

「進化って何よ…」

「ぅん? ジハハハッ、そうだな、仲間になってくれと頼んでるんだからな。教えてやる。この島には元々、見たこともねぇ進化を遂げた動物たちがウヨウヨ住みついてたんだ。その原因は、I.Qという植物。コイツは、動物たちの脳に作用し、状況に応じた進化を促す。…それを知った俺は、島中のI.Qを全て牛耳(ぎゅうじ)った!」

「この島に住みついてから、かれこれ20年。ついに我々は、I.Qから新たな薬を開発したのだ! その名もS.I.Q! これを動物たちに打ち込むと、戦闘的な進化を遂げる。連続投与すればさらに凶暴性を増すことも出来る! この島には、そうして凶暴化した動物たちがウジャウジャいるのだ!」

「…酷いことを……何のためにそんなっ」

「ジハハ、俺の目的はいずれ分かるさ。仲間になればなァ」

「だから! そんなこと絶対「なる!」

シキの断言に、ナミはひるんだ。

「オメェはどうしたって、自分から俺の仲間になりてぇと懇願するようになるんだよ。もう少し落ち着いたら、俺の目的を話してやるさ。仲間なら聞いてやれる頼みってものもあるだろう? ジッハッハッハッハッハッ!」


…やがて、3人はプールを後にした。

電撃が得意な鳥は、使えないと判断されたのか、そのままプールに置き去りにされる。

「……」

ナミはシキが何を言おうとしていたのか考えながら、窓際に歩み寄った。

城の門が見える。

空は厚く曇り、雪を降らせていた。

 
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