シザンサス

□映画:STRONG WORLD
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「ふう…抜けられたわね。フランキー、そろそろいいわ。パドル仕舞ってちょうだい」

「あいよ」

「みんな、帆を下ろして?」

「「おう」」

ロープが引かれ、メインマストもフォアマストも下ろされた。

麦わら帽子を被ったドクロが、風を受けて進み出す。


…すると。


「だれか、きた」


ティオが無表情のままポツンと言った。

「「「…え?」」」

唖然とティオを見つめる麦わら一味。

ティオが空を指さすと、全員の視線がそちらへ向いた。


"フワ…"


長い金髪に、値打ちのありそうな着物。

光の加減で黄金にも見えるそれらを携え、貫禄のある男がふわりふわりと降りてくる。

「「「んな…っ」」」

一味はあんぐりと口を開け、固まった。

その中で1人…

「……」

ティオだけは、瞳に警戒の色を宿していた。


"カシャンッ……カシャンッ"


男が甲板に降り立つと、脚についた剣が音を立てた。

「な、なんなんだおっさん…っ、今、どうやって降りてきたんだ!?」

ルフィが尋ねると、男は豪快に笑う。

「ジハハハハハッ! 突然すまない。俺は金獅子のシキ、海賊だ」

「シキぃ?」

「聞いたことねぇな」

「ところで、トーンダイヤルの声の主は?」

ナミが恐る恐る手を挙げる。

「あたし、だけど…」

シキは三日月のように口元を歪めた。

「ほう、ベィビーちゃんが…。礼を言う」

「あぁ、いえいえ…」

「なぁおっさん、何でアレ浮いてんだ?」

ルフィが指さす先には、島船。

「うん? あぁ、アレか。フワフワの実の能力だ。俺は、触れた物を重力に関係なく、自在にコントロール出来る」

シキは辺りを見渡し、ゾロのトレーニング用のダンベルを見つけ、軽く触れた。

「見てろ〜?」

みんな、興味津々にダンベルを見つめる。

"クィッ"

シキが人差し指を上に向けると、ダンベルはフワリと浮き上がった。

「「「うほ〜〜っ!」」」

ダンベルは空中をフワフワと彷徨ったかと思うと、グっと空高くまで打ち上げられた。

そして、突然重力を得たように真っ直ぐ落ちてくる。

落ちた先では、ゾロが無意識に手を伸ばしていた。


"ヒュォ……ガキンッ"


およそダンベルをキャッチしたとは思えない音が鳴り、船が地震を受けたように揺れた。

それほど重いダンベルなのだ。

ゾロはそのまま、流れるようにダンベルを操り、筋トレを始めた。

ルフィが目を輝かせてシキに向き直る。

「すっげぇ! おっさん! 俺もフワフワしてくれ!」

チョッパーがルフィの背中に跳びついた。

「俺も俺も!」

シキはジハハ、と笑う。

「残念。俺以外の人間や動物、生きてるモンは浮かせられねぇ」

「えぇ〜っ、何だよつまんねぇ!」

「「ブーブー!」」

「ところで、お前たちを俺のアジトでもてなしたい。ほんの礼の印だ。来てくれるな?」


…ギュッと、ゾロの服の端が握られた。

ゾロはもちろん、それが誰の手なのか分かっている。

ダンベルを操る手を止めず、横目にそちらを見下ろした。

「……」

言葉や視線を交わさずとも、ティオが警告を発していることは手に取るように分かる。

何かあればすぐに刀を抜けるよう、心身を緊張させた。

そして、船長の判断を待つ。

ルフィは帽子に手を掛け、ニッっと口角を上げた。

「せっかくだけど、悪りぃな、おっさん」

「ん?」

「俺たち、これから東の海(イーストブルー)に行かなきゃいけねんだ」

「えっ、ちょ、ルフィ!?」

「お、おまっ、冒険はどーすんだよ!」

「んぁ? そんなモンいくらでもやり直しゃぁいい!」

「ぅぇえっ!?」

「ウソップ、オメェは故郷の奴らがピンチだってのに、じっとしてられんのか?」

「ぇ、いや、それは…」

口ごもるウソップ。

それを見て、サンジは短いため息と共に新しいタバコに火をつけた。

「決まりだな」

隣でロビンが微笑む。

「ふふふっ、もう一度グランドラインに入り直すのも、面白そうね」

だろ? という顔をしてから、ルフィはシキの方を向いた。

「そういうわけだからよ、礼はいいよ!」

「ほう、そうか…」

ニヤリと歪められる口元。

「……っ」

この場で唯一、ティオだけが気づいていた。

シキから漏れ出てくる、強い敵意に。

しかし、シキはそれを億尾にも出さず、声を張り上げる。

「ますます気に入ったァ! …そうか、東の海(イーストブルー)はお前たちの故郷か。それはさぞかし心配だろう…。よし分かった。俺の能力で連れていってやる!」

「ホントか!? ありがとう! おっさんイイ奴だなァ!」

「当然だ」


……マズイ。

ティオはゾロの服を掴む手に、さらなる力を込めた。

そして、恐怖を圧し殺して訊く。

「…どうして、あったばかりの、てぃおたちに、そこまで、してくれるの…」

ジロリと、シキの満面の笑みがティオを見下ろした。

「そりゃあ、お前らのことが気に入ったからさァ。俺に出来ることなら、何でもしてやりたいほどになァ」

とてつもない敵意と、ウソを感じる。

何だ、何を狙っている…

ティオの焦りなど露知らず、ルフィは拳を突き上げた。

「よォしお前ら! 戦闘準備だ!」

「「おーっ!」」

「気が早いってのよアンタたち!」


どんちゃん騒ぎながら、男部屋に駆け込んでいくお馬鹿トリオ。

ティオは、焦りと疑念の混じった瞳で、シキをじっと見つめた。

"ポン…"

「?」

頭の上に、大きな手が乗った。

ゾロが、相変わらずダンベルを操りながら、もう片方の手を乗せている。

もう少し様子を見よう、と言っているようだった。

 
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