ブラキカム

□11,枷
8ページ/9ページ



数十年前。

修兵がまだ、霊術院の六回生だった頃。

「まずは、簡単に自己紹介しとくぞ。俺は六回生の檜佐木だ。後ろの小さいのが蟹沢、デカいのが青鹿(あおが)。この三人で、今日のお前らの先導に当たる」

修兵は、同級生と共に一回生を連れ、現世に魂葬演習に出た。

役割は、一回生の統率と、魂葬の採点・指導だった。

「よし、まぁまぁだ。ただ、少し力み過ぎたな。柄を額に当てるとき、もう少し肩の力を抜いてないと……」

「いでででででっ!」

「見ろ。消え際に魂魄が痛がる」

「うおっ、こんなことが……」

「ほら、二体目だ。今度は気をつけろよ」

修兵は捕えていた魂魄を一回生に引き渡し、魂葬体験をさせた。

辺りを見渡し、帳簿を確認する。

(これで60体目、最後か……。30人に、1人2回ずつやらせろとの指示だったからな)

「……よし。全員集合! 以上で、本日の実習を終了とす「檜佐木く…ア"ッ」

「!」

突然、同級生・蟹沢の、尋常ではない声が聞こえた。

振り返れば、何か巨大な爪に引っ掛けられ、血塗れになった蟹沢が……

「「う、うわあああっ!」」

一回生たちが騒ぎ始めた。

「せっ、先輩が……」

「何なんだよアレぇ!」


……まさか、こんな場所に現れるなんて。


巨大虚(ヒュージホロウ)、だと……?」


虚は爪を振り、既に絶命している蟹沢を飛ばした。

青鹿が斬魄刀を抜く。

「貴様っ、よくも蟹沢をォ!」

()せ! 青鹿!」


"ズアッ!"


虚の爪は、青鹿の腕をかすめた。

「くそっ」

修兵は斬魄刀を抜き、後ろの一回生たちに叫ぶ。

「逃げろ一年坊共! 出来るだけ遠くへ!」

「「「うわああああああっ!!」」」

一回生たちが逃げ出したのを確認し、修兵は虚に向き直った。

(くそっ、何故だっ、ここまでデカい虚に気づかないわけがねぇ! 必ず霊圧を感じることが出来たはずだ!)

修兵は首元の通信機のスイッチを入れる。

「尸魂界へ救援要請! こちら六回生筆頭、檜佐木修兵! 現世定点1026番っ、北西2128地点にてっ、巨大虚の襲撃を―――


そのとき、視界の端に白が映った。


(もう一体……?)



"ザシュッ!"



気付いたときには、右目をやられていた。

目の前に迫る2体の虚を前に、修兵は舌打ちをする。

(コイツら、霊圧を消せるのか! 道理で気づかねぇわけだ、くそっ)

自分に向かって振り下ろされる、虚の爪。

修兵は斬魄刀を構えた。


"ヒュオッ―――ガキンッ!"


「!? なっ、お前ら!」

修兵の斬魄刀が、攻撃を受ける前に、三人の一回生が飛び出してきた。

(のち)に全員副隊長となる、阿散井恋次、吉良イヅル、雛森桃だ。

「申し訳ありません! 命令違反です!」

「助けに来てんだから、見逃してくれよな、先輩!」

「君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ! 焦熱と争乱っ、海隔て逆巻きっ、南へと歩を進めよ! 破道の三十一、赤火砲!」


"ヒュッ、ボゴォッ!"


雛森の放った鬼道が、見事命中した。

「よしっ、やったぞ!」

ホッとする三人だが、修兵は眉をひそめる。

「……いや、ダメだ」

巨大虚が、その程度でやられるわけがないのだ。

それに……

「うそ、だろ……」

「増えてる……」

巨大虚は、いつの間にか10体以上集まっていた。

「こんなの、どうしろってんだ……」

「嫌だっ、こんなところで死にたくないっ、うわああああああっ!!」



"シュッ―――"



いったい何が起きたのか、すぐには理解できなかった。

ただ、真っ直ぐに伸びた、とんでもなく長い刃が、一体の虚の喉元を貫通していた。

虚は消し飛ぶ。

「ひゃ〜、こら大層な数やなァ」

「待たせて すまない。救援に来たよ」

聞こえた、二つの声。

四人は振り返り、肩の力を抜いた。

「五番隊……藍染隊長! 市丸副隊長!」

これほど頼もしい救援はない。

「よく頑張ったね。怖かったろう。もう大丈夫だ」

藍染は穏やかな笑みを浮かべ、雛森の頭に手を乗せた。

「後は我々に任せ、休んでいなさい」

藍染とギンは、虚たちの方へ歩いていった。

と、そこに……

「あっれ、藍染隊長にギン、何で来てんの」

聞いたことのない女の声が響いた。

振り返れば、黒髪に紫の瞳の、まだ少女とも言える若い女性死神がいた。

きょとんと瞬きを繰り返している。

「え、あの……」

「んぁ、そうだ。救援に来たよん? 六回生の檜佐木君って誰かな?」

へらっとした笑顔で見下ろしてくるその人。

その後ろに、十数人の死神たちが現れた。

おそらく、当番の救援部隊だ。

修兵はハっとして答える。

「あ、自分が檜佐木です!」

「ほ〜、キミか。およよ、ざっくりいっちゃったねぇ」

女は修兵の傍に膝をつき、修兵の前髪をフワリと持ち上げ、傷を見た。

そして、回道で治療を開始する。

「状況、教えてくれる?」

「あ、はい! ……魂葬の演習中、突然現れた巨大虚1体に、自分と同じく六回生の蟹沢がやられ、飛び出した六回生・青鹿が負傷、自分は一回生たちに、出来る限り遠くへ逃げるよう指示を出しました」

「お〜そっかそっか。霊術院生にしちゃあ上出来上出来〜」

女は、後ろに控えた死神たちの方へ振り返った。

「各自、方々に逃げた一回生を回収。治療が必要な怪我人はあたしのとこに運んで来て。散開」

「「「はっ!」」」

死神たちは方々へ散っていった。

女は、三人の一回生を見渡す。

「キミたちは、怪我はない?」

「あ、はいっ」

「大丈夫です……」

「そっか。何より何より」

と、そこへ……


"ビュオッ"


虚が迫ってきた。

ギョッとする四人。

しかし女は慌てることなく、空いた手を一振りする。

雷縄(らいじょう)


"ヒュッ、ズバンッ!"


縛道の四・這縄と思しき縄が、ムチのように宙を舞い、虚の巨体を断ち切った。

虚は瞬く間に消えていく。

女はため息をつき、背後に声を張った。

「ギーン、討ち漏らすな」

ギンはお道化た顔で、頬を掻く。

「え〜? キミなら何とかしてくれるし、別にえぇかなて」

「サボんな」

「ハイハイ」

女はもう一度ため息をついた。

雛森が、訊く。

「あの、今の鬼道は……」

「うん?」

「這縄のように見えましたけど、這縄に攻撃力はないはずじゃ……。それに、"雷縄"なんて名前の鬼道、聞いたことないですし……」

「ありゃま、一回生なのに鬼道全部覚えてんの? 優秀だねぇ」

「え、いえっ、そんな……」

「今のはね、這縄と白雷を組み合わせたんだよ。這縄に、白雷の貫通力を付加して、斬れる縄を作ったってわけ」

「組み合わせる?」

「二重詠唱の応用だよ。番号の小さい弱い鬼道でも、組み合わせれば強力な武器になる。少ない霊力でも戦えるから重宝するんだ〜。鬼道が得意なら、今度やってごらん?」

(鬼道を組み合わせる……そんな方法が……)

「は、はい!」

雛森は胸の前でグッと拳を握り、後ろを振り返った。

そこには、一撃で巨大虚を倒していく藍染の姿。

(いつか、あの人の後ろに……)

雛森の目に、覚悟の炎が宿った。

それをチラリと見た修兵は、何やら考えて、右目の治療を続けてくれている女を、真っ直ぐに見据える。

「あの」

「うん?」

「傷、残してくれませんか」

「へ?」

「今後のために、残しておきたいんです」

「……。まぁ、別にいいけど。そんじゃ、目は元通りに治して、傷だけ痕が残るようにするよ?」

「はい。お願いします」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ