ブラキカム
□11,枷
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「なーんて思ってたのにさ、目ぇ逸らすってことは、そのことを意識することと同じだから、結局なんにも無くならなくて」
修兵の膝の上で、遊楽は手の甲で目元を覆ったまま、笑った。
そして、ごろんと寝返りを打つ。
修兵の腹部に、額を寄せた。
「……その頃のあたしの恐いとか哀しいとかも、人より大きいものだと思う?」
修兵は、遊楽の頭に手を乗せる。
「あぁ。一人で責任全部背負いこむのと同じだからな。相当デカい」
「あはは。……そう言われると、救われた気分になるなぁ」
「救われていいだろ。100年もよく耐えられたモンだ」
「けどさ、結局逃げることじゃん? どっかで自分を許せない自分が居るよ……」
「ンなの、誰だって同じだ。みんな、逃げながら生きてんだよ」
「?」
「俺も、席官になりたての頃は弱い自分がどうしても許せなかった」
修兵は、顔の傷に触れる。
「この傷を受けた時のトラウマで、刀を抜くたび、敵に向かうたび、必ず気持ちが半歩下がってた」
「……」
「そんな臆病者、席官に居るべきじゃねぇと思って、東仙隊長に進言したんだよ。……そしたら、戦士にとって最も大切なのは、力ではなく、戦いを恐れる心だって、言ってくれた。戦いを恐れるからこそ、同じく戦いを恐れる者たちのために、剣を握って戦えるんだ、ってな」
「要君らしいね」
「あぁ。……つまりさ、逃げるっつーのは、ある意味受け入れることで、何かを得ることでもあると思うんだ。俺は臆病な自分を受け入れてから、剣を持つ手が震えなくなった。だから、お前もさ、臆病な自分認めて、全部話しちまえばいいんだよ。思ったこと、考えついたこと、全部。そしたら、誰かの命が救われる」
「……」
遊楽はじっと修兵を見上げると、ふと、身を起こした。
(……何でかな。修兵は、いつもあたしの見つけられない答えを見つけてくる)
遊楽は向き合うように、修兵の膝に座り、頬の傷を撫でた。
「な、何だよ急に……」
「これ、治さなくて本当に良かった?」
「ん、あぁ……そういや、これ治してくれたの、お前だったな」