ブラキカム

□11,枷
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やってきたのは、八番隊舎。

緊急警報が鳴ったからか、夜勤ではない隊員も、隊舎内を動き回っていた。

遊楽は京楽に連れられて、桜の木がある縁側にやって来る。

「何だか大変なことになってきたねぇ」

「……はい」

二人は縁側に腰掛け、月を見上げた。


"カタ…カタタ……"


「ん、何の音?」

「あぁ、あたしの斬魄刀です。どうも、あたしが不安定になると、こうなるんです、あはは……」

遊楽は、斬魄刀を京楽に見せた。

カタカタと小刻みに震えている。

「もしかしたら、何かを伝えたいんじゃないかな。一度話しておいで」

「え、あ、はい……」

そんなこともあるのか。

遊楽は斬魄刀を膝に置いた。

目を閉じ、刀に意識を集中する。





やがて、潜り込んだ精神世界。

鬱蒼と茂るジャングルの中で、遊楽は目を開いた。

「あれ? なんか大きくなってる……」

以前、始解習得時に訪れた時より、草木が大きくなっている気がした。

「おーい……」

呼んでも出てこないことは分かっているが、一応呼んでみる。

斬蔓(きりかずら)は、非常に臆病で引っ込み思案だ。

いつも、この鬱蒼と茂ったジャングルの中で隠れている。

「ねぇ、どうして震えるの?」

少し声を張った。

すると、強い風が吹き、木々がざわざわと揺れる。

遊楽はそれをじっと見つめた。

「……怖いんだね」

頬を撫でる風が伝えるのは、大きな恐怖。

「やっぱり、あたしの恐怖がそのまま……」




―――はじまる


―――これからずっと


―――きみの、かせ




「え……?」

風に乗って小さく聞こえた、斬蔓の声。

「どういう……」





答えを聞く前に、遊楽は現実世界へ帰されてしまった。

「……」

目を開いた遊楽は、斬魄刀を見下ろす。

それを横目に見て、京楽が訊いた。

「どうだった?」

遊楽はゆっくり首を傾げる。

「分かんないです。何かを怖がっている感情を雨霰のように浴びせてきて、一言二言、言葉を投げてきました」

「怖がる、ねぇ……」

「あたしの恐怖を感じて、そのまま打ち返してきてるのかもしれないです」

遊楽は引きつったような笑みを浮かべた。

……このとき、斬蔓が投げてきた言葉が、遊楽の未来を示していたと知るのは、もっとずっと後のことになる。

「少し、散歩でもしようか。このままこうしてても、何だか落ち着かないしねぇ」

「はい……」






二人は八番隊舎を出た。

三日月の照らす夜道を、並んでゆったりと歩く。

「ねぇ、遊楽ちゃん」

「はい?」

「何か、考えてることがあるんじゃない?」

「……無いですよ」

「そう?」

「無いです」

本当は、恐怖と不安で、少しでも気を抜けば手が震えそうだ。

けれど、みんな同じ恐怖を抱えながら、平然としているのだ。

自分だけがそれを晒すわけにはいかない……

京楽は、横目に遊楽をチラリと見下ろし、仕方のない子だと、小さくため息をついた。

と、そのとき。

「きょ、京楽隊長!?」

驚く声が聞こえた。

どうやら、いつの間にか五番隊の管轄まで歩いて来てしまったようで、五番隊の隊員たちを驚かせてしまったらしい。

こんな夜更けに他隊の隊長が歩いていたら、当然の反応だ。

「やぁ。見廻りご苦労さん」

「あ、いえ……」

「しかし、どうされたのですか? このような時間に……」

「それに、その子は九番隊の……」

「ん〜? いやあ、ちょっと寝つきが悪くてねぇ、遊楽ちゃんに散歩につき合ってもらってるんだ」

ふと、視界の端で人影が揺れた。

見れば、五番隊舎の廊下を、藍染が歩いているのが見える。

視線の先が気になったのか、遊楽も目を向けた。

「……」

藍染はこちらに気づくと、立ち止まって会釈をした。

京楽も笠をつまんで少し頭を下げる。

遊楽も頭を下げた。

「……考え過ぎだったかな」

隊員二人は、唖然とまばたきを繰り返すばかり。

「どうかなさいましたか?」

「ん、いや? 藍染副隊長も、寝付けないみたいだねぇ」

「え、あっ」

藍染の姿を見つけた二人は、慌てて頭を下げた。

「「おやすみなさいませ! 藍染副隊長!」」

京楽は身を翻し、遊楽の背をポンと押して、歩き出す。

「キミらも程々にして休みなさいよ?」

「あ、はい!」

「おやすみなさいませ! 京楽隊長!」

「はぁ〜い」

遊楽は歩きながら、隣の京楽をチラリと見上げた。

「ん? どうかしたかい?」

「……いえ」

(京楽隊長も気づいたのかな。藍染副隊長の違和感……)

先程、五番隊舎の廊下を歩いていた藍染は、またしても、動きの癖がいつもと違った。

(でも、前、誰ですかって訊いたときは……)

思い出す、とてつもない威圧感。

あれは確実に本人のものだった。

(元から、癖が変わりやすい人なのかな……。そんで、あたし以外にも、誰かに癖のことを指摘されて、そうやって指摘されるのがイヤで、怒ったとか?)

遊楽は三日月を見上げ、眉をひそめて考えていた。

 
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