ブラキカム

□11,枷
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それから、約一カ月後。

「ほら、追加だよ、月雲」

「ぶぅ〜」

遊楽は九番隊舎で、仕事をさせられていた。

今日は第五席の東仙要が、遊楽の監視としてついている。

「何で要君なのさ〜」

「ははは。さぁなぁ。隊長の判断だから、俺には何とも。同期のよしみでってことじゃないのか?」

「これじゃ逃げらんないよぉ……」

「逃がさないために俺が居るんだろ?」

「……見逃してくれない?」

「駄目だ」

「んぇ〜っ」

遊楽は書類の溜まった机に項垂れた。

「こ〜んなに書いたら腱鞘炎になっちゃうよぉ〜……」

「治せばいいだろ? 月雲、回道は得意じゃないか」

「治した先からまた炎症起こすっての……」

「ほら、話している間に、月雲なら何枚か終わらせられるだろ?」

「はぁ……」

遊楽は渋々、書類に手を付けていった。




約一時間後。

「東仙、いるか?」

拳西がやって来た。

「はい。何でしょう」

「ちょっとお前に頼みたいことが……って、書類、こんなに少なかったか?」

拳西はきょとんと瞬きを繰り返した。

遊楽が溜めに溜めた書類仕事を積み上げたはずだが、高さが半分以下に減っている。

遊楽は手を動かしながら、ほっぺたを膨らませた。

「終わらせたに決まってるじゃないですか」

すると、その頭に大きな手が乗る。

「なぁんだ、やっぱりやりゃぁ出来るんじゃねぇか!」

拳西は笑顔で、遊楽の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

「いだっ、ちょっ、首ちぎれるっ」

「よし! この調子で頑張れ! これ終わらせたら、今日はどこへ行ってもいいぞ」

「マジですか!」

「東仙はちょっと借りてくが、サボんなよ? 俺が帰って来た時に書類残ってたら、次は倍に増やすからな」

「……隊長、流魂街、行くんですか?」

「あ? あぁ、そうだが?」

「……」

「何だよその顔は」

ここ一カ月、尸魂界では、流魂街の住人が消える事件が続発している。

蒸発するわけではなく、衣服だけを残して消えるのだ。

昨日、その事件の調査のため、九番隊で編成された先遣隊が、現場へ向かった。

それが、一日経っても帰らない。

連絡の一つもない。

「心配すんな」

拳西は遊楽の頭に手を乗せた。

「夜には戻る。それまでに、ちゃんとこれ全部終わらせとけよ?」

ニカっと満面の笑みで、ガシガシと遊楽の頭を撫でる。

「ちょぉっ、だから首ちぎれますって!」

「はははっ」

拳西は笑いながら、東仙を連れて、部屋を出ていった。

「……」

遊楽は髪を整えながら、二人を見送る。

(……何で、あんなに強いんだろ)

流魂街で、住人が謎の消失を遂げていることを初めて聞いたとき、背筋がひやりとした。

同時に6つの可能性が頭をよぎり、3つの最悪の事態が頭に浮かんだ。

その日の夜は眠れなかった。

けれど、翌日になって、同僚たちが皆いつも通りなのを見て、みんな強いなぁと思った。

そして、自分はなんて臆病なんだろうと、自己嫌悪に陥った。


"カタ…カタタタ……"


(また震え出した……)

腰に差した斬魄刀が、小刻みに震え始めた。

流魂街の事件を聞いた日から、時折、斬蔓(きりかずら)はこうして震える。

(あたしの斬魄刀、だからかな……)

主の恐怖を体現しているのだろうか。

遊楽は机に戻り、書類仕事を再開した。

頭の中は事件のことで一杯だが、考え事をしながらでも、遊楽の手はよどみなく動く。

それから一時間もしないうちに書類仕事をすべて終え、遊楽は九番隊舎を出ていった。






「こーんにーちは〜」

昼時。

遊楽がやって来たのは、八番隊舎。

……の、屋根の上。

「お、いらっしゃ〜い、遊楽ちゃん」

仕事をサボって寝そべっていた京楽が、手を振る。

「てっきり、遊楽ちゃんも流魂街に出るのかと思ってたよ」

「あぁ、変死事件の件ですか? 情報早いですね」

遊楽は京楽の隣に座った。

「六車隊長、上位席官み〜んな連れてったんだって?」

「えぇ、六席まで全員。あたしは仕事溜めてましたからね。連れてくわけにいかなかったんでしょう」

「それだけじゃないと思うけどねぇ」

「……」

京楽は、どこか遠くを見つめている遊楽を、チラリと見た。

「君の感性の鋭さを危惧したんだよ。君は人より多くのものを感じるから、普通は見つけられないものを見つけられるけど、同じくらい、不安や恐怖が大きくなりやすい」

「……臆病者ですもんね」

「そうじゃないさ。君はまだ幼いだけだよ。年月を経ていけば、その力を上手く活かせるようになる」

「そうですかねぇ……」

「子供のうちは子供らしくしてればいいさ」

「ん、それって、今のあたしは子供らしくないってことですか?」

「んー……まぁ、同じ年頃の子よりは、色々と見えてるんじゃないかな」

「……よーするに可愛げないってことじゃないですか」

「そんなこと言ってないよ。……あ、花札でもやる?」

「……やります」

 
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