シザンサス

□25,バウンティ・ハンター
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青い空、白い雲、穏やかな波。

ウォーターセブンを出港したサウザンド・サニー号は、初めての航海に難なく乗り出していた。

真新しい木の香りに包まれて、麦わら一味は船の設備を堪能する。


"チャポン…"


「はぁ〜……波に揺られて大浴場での〜んびりなんて、もうさぁいこ〜ぉ!」

ナミは真昼間から入浴を楽しんでいた。

一方、医務室の方では…

「俺の部屋だぁここはっ! 早く患者ぁ、来ねぇかな〜!」

聴診器を首から提げたチョッパーが、椅子に座ってクルクル回っている。

それを、隣のキッチンへと続く扉の窓から、サンジが料理の片手間、柔らかい笑みを浮かべて見ていた。


ところ変わって甲板では…

"ザパァ!"

「よ〜っし、でっかいサメ釣ったぞ!」

「入れろ入れろ〜! 生け簀に入れろ〜!」

ルフィとウソップが次々に魚を釣り、備え付けの生け簀に放り込んでいた。

「おらぁ! 入れ! サメ〜!」

"バキッ!"

ルフィは、釣ったばかりの凶暴なサメを、殴って生け簀に放り込む。

その生け簀を、水族館のように眺められるアクアリウムバーでは、ロビンが紅茶片手に微笑んだ。

「あら、また入ってきた」

そこに、ロビンのおやつを持ったサンジと、船の調整を終えたフランキーがやってくる。

「ア〜ォ、いいだろ? この部屋」

「部屋はいいが、サメって……あのバカ共」

言って、サンジが舌打ちすると同時、部屋の扉が開いた。

"ガチャ!"

ルフィとウソップが駆け込んでくる。

「お〜いっ、サメ入ってきたか〜!?」

「すっげ〜ぇツノ生えた奴!」

ロビンが笑って答えた。

「えぇ、入ってきたけど。今まで釣ったお魚は、みんな食べられちゃったわよ?」

「「?」」

水槽を見れば、数十匹いたはずの魚は一匹もおらず、満足げな顔のサメが、ヒレで膨れた腹をさすっている。

「「ああああああっ!!」」

サンジが噛みつくように言った。

「共生ってものを考えろ! 当たり前のことだろうが!」

ルフィは拳を構えてサメを睨みつける。

「チキショー! コイツ、今日の晩飯にしてやる! サンジ! 丸焼きだ! こんなアホザメ!」

「待て、素人が。せっかく新鮮な魚だ。寿司か、さっと湯ざらしして、辛い酢味噌でいくのもいい。天ぷらも乙だな」

「ンマほ〜ぉ! 腹減ってきた〜!」


…そして、マストのてっぺん。

見張り台も兼ねた、ゾロのトレーニングルームでは…

「ふあ〜ぁ」

ゾロが備え付けのベンチに腰掛け、窓枠に頬杖をついて大あくびをしていた。

その膝には、ティオの頭が乗っている。

「…すぅ……すぅ……」

穏やかな日の光が差し込む室内は暖かく、誰でも眠気を誘われそうだ。


…しかし。

「ん、雪か?」

さすがはグランドライン。

日はすぐに陰り、瞬時に分厚い雲が空を覆い尽くした。

一気に気温が下がる。

「…すぅ……すぅ……。…ぷしっ」

小さくくしゃみをしたティオは、ぶるっと体を震わせて、丸まった。

それを眠そうな目で見下ろしたゾロは、近場に畳んで置かれていた薄い毛布を引き寄せ、大雑把にティオに被せる。

どうせここで昼寝するだろうからと、ロビンが用意してくれた毛布だ。

「……ん…ぅ…」

ティオは眠ったまま、毛布を体に巻きつけ、芋虫のように丸くなる。


「うっほほ〜い! 雪だぁ〜!」

「いやっほ〜い!」



下の方が騒がしくなってきた。

声からして、ルフィとウソップが甲板で騒いでいるのだろう。

「おいゾロ! 景気悪りぃぞ! 雪が降ったら普通こーだろうが!」

「野郎共ォ! 雪ぃだぞ〜ぉ!」

「オメェまだ分かってねぇんだな! このアホ〜ぉ!」

「アホ〜ぉ!」


ゾロは雪空を見上げながら、眉間にしわを寄せる。

「…くそっ、アイツらに理不尽に罵られることほど腹立たしいことは()ぇな」

「…ぞろ」

「あ? 起きたのか」

ティオが目をこすりながら、のっそり身を起こす。

「ふね、くる。10にん、のってる」

「ぁん?」

言われて、窓から前方を見下ろせば、確かに船が見えた。

…しかし、何だか変な船だ。

ゾロは、甲板に向けて取りつけられたスピーカーのスイッチを入れる。

『おい、前から変な船が来るぞ』

知らせが聞こえて、クルーが全員甲板に出てくる。

風呂上がりのナミが尋ねた。

「変って、何が変なの?」

ウソップが望遠ゴーグルを覗く。

「ん〜? 確かに変だな…。帆も無けりゃ旗も掲げてねぇぞ?」

「帆も無いって、それじゃただ漂ってるだけじゃない」

「難破船か、それとも…」

フランキーが顎に手を当てた。

「そういや、海賊の間にゃ、デービーバックファイトとかいう、えげつねぇゲームがあるって聞いたが?」

「「「「「「うん、知ってる」」」」」」」

フォクシー相手に散々な目に遭った…

「人は乗ってるのかしら…」

ロビンが呟くと、背後からゾロが答える。

「ティオの話じゃ、10人乗ってるらしい」

そのティオは、毛布で身を包んだままゾロの隣に立ち、ゾロの服の端を掴んでウトウトしている。

「ん、おい、誰か出てきたぞ!?」

望遠ゴーグルを覗いていたウソップが、船の甲板を指さした。

「男が3人……釣りを始めたぞ? やっぱ遭難者なのか? 酷く疲れてるように見える」

サンジがタバコの煙を吹き、ルフィに問う。

「んで、どーすんだ? キャプテン」

ルフィはニカっと笑った。

「まぁとりあえず行ってみよう! 敵ならぶっ飛ばすだけだ、にっしっしっ!」

船長の決定を受け、サニー号は10時の方角へ舵を切った。

 
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