シザンサス

□25,バウンティ・ハンター
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「だぁ〜っ、くそ〜ぉ…」

サニー号の船首で、ウソップは項垂れた。

「いったい何だってんだここはぁ…」

「ティオが言っていたわ。賞金稼ぎ、アッチーノファミリーのテリトリーかもしれないって」

「んなっ、何でそれを早く言わねぇんだよロビン!」

「ルフィたち、無事かしら」

「無視かよ! …つーか、ティオ、結局氷山を動かしてる奴は分かったのか?」

欄干から海を見下ろしていたティオは、首を横に振る。

「うじゃうじゃ、いること、しか、わから、ない」

「はぁ〜〜…まずはそれを調べねぇと、ここから抜け出せねぇってわけか…」

そこに、船内でコーラの補充をしていたフランキーが戻ってきた。

「ンな面倒くせぇことしなくても、抜け出すだけならいつでも出来るだろうが」

「「?」」

フランキーはサングラスを上げてニヤリと笑う。

「そのために、コーラ入れてきたんだぜ?」

一味は、あぁ、と掌をポンと打った。

ならば早速と、その方法で逃げようとした、そのとき。


"ドゴォッ!"


サニー号を、両サイドから氷塊が挟み込んできた。

「うおぁっ」

「きゃあっ」

大きな揺れに、一味は体勢を崩す。

それを狙っていたかのように…

「ふ〜ぅ、やっと見つけたッケ」

「あんたたち、この氷街道へ迷い込んだからには、もう外海へは出られないわよ?」

「ボクもそう思うよ、アルベル〜ぅ!」

「……」

現れたのは、4つの人影。

皆、アッチーノファミリーのメンバーだ。

アイスホッケー選手のような格好をした男、三男のホッケラ。

フィギュアスケートのカップル、長女のアルベルと、その婿養子・サルコー。

そして、次女で末っ子のリル。

「サルコー、あたしたち、どこまでも気が合うのね?」

「そうだねっ、マイハニ〜!」

目をハートにし、熱い眼差しで見つめ合った2人は、敵前だというのに唇を重ねる。

「……」

「……」

麦わら一味はドン引きした。

「ぅ、ろびん? まえ、みえない」

ティオはいつの間にか、ロビンにそっと目を塞がれていた。

「見なくていいのよ、あんな暑苦しいもの。綺麗な瞳が濁ってしまうわ」

大きなため息をついたナミが、毅然として言う。

「お生憎さま。アンタたちと遊んでる暇はないの。そろそろ失礼させて頂くわ」

言いつつ、フランキーに目で合図を送った。

察したフランキーは、舵を握る。

アルベルが眉を潜めた。

「はあ? アンタ聞いてなかったの? ここから出ることは不可能だって言ったの。つまり、インポッシブ〜ル!」

「イイ! スゲくイイよその表現!」

「うふふっ、でしょでしょ〜? やっぱり気が合うのね私たち」

バカップルの2人は再び見つめ合い、口づけを交わした。

麦わら一味(目を塞がれているティオを除く)はドン引きを通り越して、具合が悪そうなほど青ざめる。

「…フランキー、お願い」

「あいよ。しっかり掴まっとけ?」

ガチャンガチャンと機械の音がして、船尾にコーラエネルギーが溜まる。


風来(クー・ド)・バーストォ!!」


"ボヒュンッ!"


サニー号は空へと舞い上がった。

4人は顎が外れそうなほど、あんぐりと口を開ける。

「「「「なにぃいっ!?」」」」

まさか船が飛んで逃げるなんて、思いもよらなかったのだろう。





"ヒュォッ、ザバァンッ!"


サニー号は無事、氷山の海域を抜けて、外海に着水した。

ロビンは、ティオの目を塞いでいた手を離してやる。

ウソップは緊張が解けたのか、甲板の芝生に寝転がった。

「あ"〜っ、変なもの見た…。や〜っと一息つけるぜ〜。やっぱ外海はいいなぁ〜。青い空に白い雲、煌めく太陽に、はためく海賊旗……が無ーい!」

慌てて跳び起きるウソップ。

ナミやサンジも慌ててマストのてっぺんを見上げた。

「うそでしょ!?」

「1枚なくなってやがる!」

そこでふと、ウソップは辺りを見回した。

何気(なにげ)に、ゾロもいないね」





…当のゾロはどこに居たかというと、

「ったくアイツら、また迷子になりやがって……バカか」

広大な氷山の上を、一人歩いていた…。





「しっかし、どこいったんだ? 海賊旗は」

ロビンが顎に手を当てる。

「…そういえば、空中を飛んでいたとき、魚のような鳥が1羽、近づいて来ていたわ」

「魚のような鳥ぃ?」

「あれ、じゃ、ない?」

「「「?」」」

ティオが、3時の方向の空を指さす。

ウソップが望遠ゴーグルを覗いた。

「ん〜? ……あーっ! いたーっ!! 間違いねぇ! 旗くわえて飛んでやがる!」

「きっと、すえっこ、りる、の、しわざ」

「リル?」

「あっちーの、ふぁみりー、の、すえっこ。どうぶつ、や、しょくぶつ、あやつる」

「んじゃ、あの魚みてぇな鳥は、アイツらのところへ戻るってことか!」

「たぶん。…どん・あっちーの、しゅみで、かいぞくき、あつめてる、うわさ、きいた」

「俺たちの海賊旗もコレクションしようってのか!」

「くそぉっ」

サンジが一目散に船首へ戻った。

舵を切り、元来た方へ180度旋回する。

「オイ! どこ行く気だよ!」

「決まってんだろうが! 引き返すんだよ!」

「ぁあん!? フザけんな! せっかく脱出できたんだぞ!」

「落ち着いてサンジ君! ルフィもチョッパーもいないんだから!」

「あとゾロもな?」

「こういうときは下手(へた)に動かない方がいいわよ!」

「…動かないわけにはいかねぇ」

「「「?」」」

「海賊にとって海賊旗は命だ。1枚とて奪われちゃならねぇ」

「そりゃ分かってるが、まずはルフィたちと合流して「理由はもう1つある」

「「?」」

「…オメェら、こんなミスしてあの船長に叱られてぇか!」

「「……。……はっ」」

ウソップとナミは想像した。


『まぁ〜ったくオメェらはホントに〜ぃ』


きっと、鼻でもほじりながらアホ(づら)で説教されるのだろう…


「いやああぁぁっ!!」

「それだけはーっ!!」

「「アホに説教されるなんてプライドが許さーん!」」



おかしなヤル気の炎に包まれる2人を、フランキーは呆れ顔で見つめた。

「コイツら、船長を何だと思ってやがる…」

ロビンは笑った。

「ふふふっ」

ナミがティオの方を向く。

「ティオ、あの迷子バカの迎え、お願いしていい?」

今も氷山の上を歩き続けているのであろう、三刀流のマリモ剣士のお迎えを。

「(コクン)」

ボンッ、と音をさせて、ティオは鳥に変わった。

そのまま空に舞い上がる。

「頼んだわよ〜! あたしたちは海賊旗を取り返してくるから〜!」

ナミの声を背に受けながら、覇気を広げてゾロの居場所をつき止め、一直線に飛んでいった。

 
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