シザンサス

□25,バウンティ・ハンター
4ページ/11ページ



数時間後。

雪は止まないまま、日が沈んだ。

サニー号は慎重に夜の海を進んでいく。


……が。


「くか〜……くか〜……」

「すこ〜……すこ〜……」

船のいたる所で、麦わら一味は眠っていた。

舵の前ではサンジ、フランキー、ロビンが。

ダイニングでは、ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップが。

…それを見て、フェニックス海賊団のクルーたちは、甲板でひそひそと話し合う。

「…な、なぁ、どうする?」

「決まってんじゃねぇか。やるしかねぇ」

「俺ァ、気が乗らねぇなァ…。あんなに気のいい奴らだったじゃねぇか…」

「まったくだ…。姉ちゃんたちも可愛かったし…」

「何言ってやがる! 背に腹は代えられねぇだろうが! こんだけすげぇ船が手に入りゃ、きっとアイツらだって「ダメだ」

クルーたちの話し合いを、スタンセンが遮った。

「この船はアイツらに引き渡す。俺たちは課せられた任務を遂行するだけだ」

すると、クルーのうち1人が立ち上がった。

「何が任務だ! 俺たちは御免だぞ。この船を奪って反撃に出る。このままじゃビガロさんだって浮かばれねぇよ!」

そこへ…

「おいおい、揉めんのは勝手だが、物騒な話は御免被るぜ?」

「んなっ、海パンの兄ちゃん!」

「寝てたはずじゃ…っ」

「薬の匂いが強すぎて、眠れないわ」

「げっ、黒髪の姉ちゃん!」

「睡眠薬なんかで人の料理を台無しにしやがって。覚悟は出来てんだろうな?」

「眉毛の兄ちゃんまで…っ」

クルーたちの前に立ちはだかる、3人。

…それを、ダイニングからゾロが横目で覗いた。

(3人もいりゃ十分か……ふあ〜ぁ。寝よ)


"カチッ、シュボッ…"

サンジはフェニックス海賊団の面々を前に、新しいタバコに火をつけた。

膨れ上がる敵意に、スタンセンが弁解を始める。

「まっ、まぁ待ってくれアンタたち! 俺たちは別に怪しいモンじゃ…」

「海賊って時点でンなの信用出来るわけねぇだろ。しかもこっちは、今しがた薬盛られたばっかだぞ」

フランキーが指を鳴らす。

「さ〜ァ聞かせてもらおうじゃねぇの。一体オメェら、何の目的でこんなことしやがったんだ?」

「ぼ、暴力は待ってくれ! お、お互い腹を割って話し合えば分かるっ……ような、そうでないような…」

「「どっちだ!」」

「みっともねぇぞスタンセン!」

3人のクルーが、腰に差していた剣を構えて前に出た。

「もうアイツらの言いなりなんざ我慢ならねぇ!」

「この船奪って、反撃に出ようぜ!」


殺気立つ3人を、残りのクルーたちがなだめる。

「け、けどよ、散々世話になったのに…」

「せ、せめて姉ちゃんには手ぇ出すなよ!」

「…オメェらは下がってろ。俺たちがこの船奪ってやるよ! オラアァ!!」

3人は、サンジたち目掛けて突っ込んだ。


…しかし。


「…やめろって言ってんだろ!」


"ドゴォッ!"


スタンセンが飛び出し、3人を押さえ込む。

そしてサンジたちに作り笑いを見せた。

「い、いや〜悪い悪い。どうにもコイツらは気が短くてな! け、けど、コイツらだって悪気があってしたわけじゃ…あは、あははは」

「"あはは"じゃねぇよ、何誤魔化してんだ」

「思いっきり殺す勢いで来てただろうが。悪気以外の何物でもねぇよ」

そこへ…

"ガチャ"

「い"〜っ、寒っ」

防寒着を着込んだゾロが、ダイニングから出てきた。

「ぁん? 何だ、まだ片付いてなかったのか」

その後ろから、ナミが何かを引きずりながら出てくる。

「何か怪しいと思ってたのよね。バレバレ」

ドサッ、と、ナミは引きずってきたものをその場に降ろした。

「「ふが〜…すか〜…」」

絶賛爆睡中の、ルフィとウソップだ。

「こんな程度で騙されるほど、あたしたちは甘くないわよ? ……若干2名を除いてね」

スタンセンは一瞬の隙をついて、欄干へ駆け寄る。

「逃げるぞお前ら!」

「「「ぇえっ!?」」」

突然の命令に出遅れながらも、クルーたちはスタンセンを追った。


"ザバァンッ!"


極寒の海へ飛びこんだ彼らは、全員自分たちの船に戻って行く。

フランキーが額に血管を浮かべた。

「野郎っ、ハチの巣にしてやらぁ!」

と、腕の武器を構えるが…

「放っときなさい」

ナミに遮られた。

「それより、チョッパーとティオ、見なかった? さっきからどこにもいないのよ…」

ロビンが顎に手を当てる。

「もしかして、さっきの人たちに捕えられたんじゃ…」

「何だと!?」

「可能性はありそうね。2人とも能力者だから、あっちが海楼石の手錠でも持ってたら」

「それはそうと」

「?」

ゾロはナミの足元を見下ろす。

「ソイツらどうすんだ?」

ナミの足元には、未だにいびきをかいて眠るルフィとウソップ。

ナミの額に血管が浮かび上がった。

「…ったく、コイツらは……っ」

はぁ〜っと拳に息をかけるナミ。


「起ォきろオォ!!」


"ゴチィンッ!"



サニー号が僅かに揺れた。

「んがっ、あばばばばっ、お、おいっ、なんか、寒みぃぞ…っ」

「そ、それに頭も痛てぇ…っ」

「「ぶぇっくしゅん!」」

見るからに寒そうな恰好をしていた2人は、防寒着を取ってきた。

そして、チョッパーとティオが捕まっているかもしれない話を、ナミから聞く。

ウソップが叫んだ。

「何だと!? アイツら騙しやがったのか!」

ルフィは船尾から、フェニックス海賊団の船を見つめる。

…すると。

「ん?」

スタンセンが剣を片手に船首まで出てきた。

ルフィは目を剥く。

「あっ、コラっ、テメェ! チョッパーとティオどこやった!」

「麦わらの船長、散々世話になったってのにすまない。ここでお別れだ」

「なにっ!? お、おい待てよおっさん! 何する気だ!」

スタンセンは、サニー号と繋がっているロープ目掛けて、剣を振り上げる。

……しかし。


"ガシッ"


「なにっ!?」

突然4本の手が生え、スタンセンの動きを封じた。

ナミがロビンにグーサインを送る。

「さっすがロビン!」

「ふふっ」

何とか逃げられるのは阻止した。

「よーっし、待ってろよ、チョッパー、ティオ!」

ルフィが逸早く乗り込もうとする。

と…

「おい、何か聞こえねぇか?」

ゾロが突然、辺りを見回して言った。

サンジも辺りを見回す。

「何かの音楽か? どっから鳴ってやがる…」

「あっ、おい、アレ見ろ!」

望遠ゴーグルを覗いていたウソップが、3時の方向を指さした。

その方向に全員で目を向けて、麦わら一味は固まる。


「「「海軍!?」」」


夜の暗闇の中、ぼうっと姿を現したのは、カモメを掲げた帆だった。

3隻並んで、こちらを向いている。

「サンジ君! 9時の方向へ舵を!」

「アイサ〜!」

目をハートにして、サンジが舵を切る。

しかし…

「なっ、ちょい待て! そっちにもいるぞ!」

方向転換した先で、新たに3隻の軍艦がライトアップされた。

ナミが迷いながらも進路を指示する。

「〜〜〜っ、左へ切って!」

「あいよ!」

サンジが素早く舵を切る。

……が。

「んなっ、また!?」

またしても行く先では軍艦がライトアップされた。

周囲を見回していたウソップがどんどん青ざめていく。

「お、おいっ、よく見りゃ、囲まれてるじゃねぇかああぁぁ!」

サニー号をぐるりと囲む、総数30隻を超える軍艦。

「何であんなにいんだ!?」

「知るかよ!」

「どっちへ逃げりゃいい!?」

「うおっ、あそこ見ろ! ちょっと隙間があるぞ!」

「そこしかないわ…っ、サンジ君! 主舵いっぱい!」

「はぁ〜いナミすゎん!」

サニー号は大きく向きを変えた。

…しかし。


"ヒュオオオォォォ…"


「しまった、向かい風だわ…っ」

「うぉおい押し戻されてるぞ!」

「何とかしろナミ!」

「分かってるわよっるっさいわね!」

大混乱のサニー号。

そのど真ん中で仁王立ちしていたフランキーは、ため息混じりに首を振った。

「代われ、サンジ」

「ぁん?」

半ば強引に舵を奪うフランキー。

「ったく、どいつもこいつも、風が変わったぐれぇでみっともねぇ。こんな時のための、ソルジャードッグシステムだろうが」

フランキーは、舵輪についているハンドルを回した。

「チャンネル(ゼロ)!」

0番の数字に合わせ、レバーを引く。

「コーラエンジン、パドルシップ・サニー号!」


サニー号の側面が開き、水車のようなパドルが出てきた。

コーラエンジンのエネルギーを受けて、パドルが高速で回転を始める。

「行っけええぇぇっ!!」


"ザバアアァァッ!!"


サニー号は向かい風の中だというのに、海を掻き分けて高速で進み始めた。

軍艦と軍艦の間、幅20mほどの隙間を全力で通り抜ける。

ルフィとウソップがハイテンションで、少し遠くに見える軍艦を見送った。

「うほほほっ、かっけ〜!」

「海軍の奴ら何も出来ねぇみたいだぞ!」

「進め〜ぃサニー号〜! ぃやっほ〜い!」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ