シザンサス

□25,バウンティ・ハンター
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その頃。

「サンジ〜! おかわり〜!」

「あ、俺もおかわりイイっすか! 眉毛の兄ちゃん!」

チョッパーとティオの奮闘など知る由もないサニー号では、食事が続いていた。

「ところでアンタたち、これからどこへ向かう気なんだ?」

ルフィはきょとんとして答えた。

「どこって、魚人島しかねぇだろ?」

すると、休みなく皿と口を往復していたスプーンが止まる。

「…ってことは、新世界へ?」

「あぁ。そだぞ? にっしっしっしっ!」

「わ、悪いことは言わねぇ! 今すぐ引き返した方がいい! あそこは地獄だ!」

「んぁ? オメェら行ったことあんのか?」

「へっ? あぁ、いやっ、その、噂でよく聞くからよぉ、あはは…」

「ボソッ(バカっ、なに喋ってんだよ!)」

男たちの焦り顔に、誰もが眉を潜めた。

…ルフィとウソップを除いて。

「噂なんてどーでもいいよ! 行ってみりゃ分かるしさ! あははっ」

「い、いやいやルフィ、そういう情報収集は大事だぞ!」

「だァいじょうぶだって。本気でヤベェことはティオが教えてくれるしよ、なっ?」

「だぁから、そのティオ任せなとこいい加減直せって前から―――」

水掛け論のように言い合う2人。


"ドカッ"


突然、甲板の方から大きな音が聞こえた。

「なんだ?」

麦わら一味は揃ってダイニングを出る。

すると、甲板にはガタイのいい男がいて、大きな樽を肩から降ろしたところだった。

「いや〜、うちのモンがすっかり世話ンなっちまったようで、是非礼をさしてくれ。俺はそいつらの(かしら)で、スタンセンってんだ」

スタンセンと名乗る男は、一味目掛けて樽を投げる。

反射的に、ゾロが片手で受け取った。

そこそこ重い。

「特別に仕込んだ自慢のヤツだ。飲んでくれよ」

つまり、酒が樽いっぱいに詰まっている。

「ほう、ありがてぇ」

酒好きのゾロには堪らないお返しだった。

一味はダイニングに戻り、スタンセンも加えて、食事を再開する。

ゾロが早速、樽の酒をジョッキで仰いだ。

「ん、こりゃ面白れぇ味がするなァ」

ウソップが笑う。

「オメェら、食いモンはねぇのに飲みモンはあったんだな!」

「ははっ、まぁな!」

底抜けに明るい笑顔を浮かべながら、サンジの料理を頬張るスタンセン。

…対してクルーたちは、先程とは一変、何だか申し訳なさそうな顔をしていた。

「いや〜、こりゃぁもっと礼をしなきゃならねぇな! この近くに島があるんだが、そこで一杯おごるよ!」

キッチンで皿を拭きながら、サンジがため息をつく。

「要するに、その島まで乗せてけってことだろ? 抜け目ねぇな」

「ははっ、バレたか、コックさん鋭いねぇ」

ルフィが笑った。

「あっはっはっはっはっ、面白れぇおっさんだなぁ! よしっ、いいぞ!」

途端、ナミが血相を変える。

「ちょっ、ルフィ! 魚人島はどうすんのよ! 別の島なんか寄ってたら、ログが書き変えられちゃうわよ!?」

「コイツら降ろしてすぐ出りゃ大丈夫だろ? まぁいいじゃねぇか。困ってんだし、な?」

「話の分かる船長さんで助かった! それじゃまぁ、よろしく頼む!」

「おう! 任しとけ!」




…というわけで、サニー号とフェニックス海賊団の船は、ロープで繋がれた。

スタンセンの言う方角に向けて、動き出す。


…同じ頃。

フェニックス海賊団の船内では、ちょうどパズールの手術が終わったところだった。

チョッパーが額を拭う傍ら、ティオが後片付けを始める。

「ど、どうなの? 先生…」

「とりあえず、やれるだけのことはやった」

「そ、そっか、ありがとう!」

「喜ぶのはまだ早いぞ」

「えっ…」

「山はまだ越えちゃいない。意識が戻るまでは安心できないよ」

「…そうなんだ」

少年の表情に影が落ちる。

3人はパズールが目を覚ますまで、その場で看病することにした。

「そういえば、お前の名前、聞いてなかったな」

「あ、そっか…。俺はジローっていうんだ。先生、パズールさんを治療してくれて、本当にありがとう! ティオさんも!」

「んなっ、礼なんか言われても、嬉しかねぇぞこのヤロがっ」

「かお、にやにや、してる」

「うっ……ンなことねぇよっ」

ティオはチョッパーの背後から、チョッパーの両頬を掴み、左右にグニ〜っと引っ張ったり緩めたりして、変顔を作った。

「にや〜ぁ、にや〜ぁ」

「うぇぶっ、やめひょ、てぃお…っ」

チョッパーの変顔に、ジローはお腹を抱えて笑う。

「ぷっ、あはははははっ!」

…まだパズールは峠を越えていないが、ずっと暗い雰囲気でいるのも忍びない。

これはティオからジローへの、些細な気遣いだった。

 
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