シザンサス

□25,バウンティ・ハンター
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「はぁ……やっぱ、餌のついてねぇ針にかかる魚はいねぇか」

「それを言うなって」

「ま、どうせ暇なんだし、気長に待とうぜ」

謎の船の甲板で釣りをする3人。

表情には生気が無く、体もやつれて見える。


"ギギギギギィィ…"


「ん?」

「何の音だ?」

突然聞こえてきた音の方に視線をやると、麦わら帽子を被ったドクロが見えた。

「んなっ」

「海賊船!?」

「お〜〜〜い、大丈夫か〜?」

船首で、麦わら帽子を被った男が手を振っている。

「「うわあああああっ!!」」

「海賊だぁぁぁ!」

「逃げろぉぉぉ!」

「舵利かねぇよ!」

「帆も無いしーっ!」




…甲板で騒ぎ始めた、謎の船のクルーたち。

サニー号はゆっくり近づき、謎の船の隣に船体を寄せた。

ルフィ、ゾロ、ティオ、ロビン、フランキーが、その船に渡る。

ルフィが真っ先に尋ねた。

「んで、オメェら何者なんだ?」

「「「え……」」」

謎の船のクルーたちは、互いに目を見合わせてから、ぎこちなく答えた。

「お、おっ、俺たちは、ただのしがない漁師でさぁ」

フランキーが眉を潜めた。

「漁師ぃ?」

「あ、あぁそうさ!」

「…うそつき」

「「「!?」」」

クルーたちはギョっとして、ウソつきと言った少女を見る。

「ふぇにっくす、かいぞくだん、でしょ?」

「んなにっ!?」

「何で分かった!」

「旗も帆も無ぇのに…っ」

「せんしゅ、みれば、わかる」

ティオが指さす船首には、赤い鳥の頭を模したピークヘッドがついていた。

フランキーが指をパキポキ鳴らす。

「ほ〜ぉ? つまり俺たちを騙そうとしたわけか?」

「いっ、いやっ、それは、その…っ」

「あっ、当たり前だろ! こんな状態で、また同業者に狙われちゃ、今度こそ船を沈められちまう!」

「見ての通り、この船にゃナンもねぇ。だから、暴れるだけ損だぞ? 腹減るだけだぞ?」

船を一通り見回してきたゾロが訊いた。

「確かにボロボロだが、何があったんだ?」

「えっと……どっ、同業者にやられたのさ! 旗も帆も奪われて、舵も壊され身動き取れねぇのよ…っ」

クルーの1人が、わざとらしく泣き真似をする。

また嘘をついたな、と、ティオでなくても分かった。

…ただ1人を除いては。

「まぁとにかくだ! オメェら、要するに腹ぁ減ってんだろ? 俺たちもこれからメシだからよ、一緒に食ってけよ」

ルフィが満面の笑みで言うと、クルーたちは表情を輝かせた。

「いっ、いいのか!?」

「俺たち本来、敵同士なんだぜ!?」

「にっしっしっ、気にすんな! それに、ウチのコックは、オメェらみてぇなのほっとけねぇから」

ルフィはサニー号の方を振り返る。

「サンジ〜! メシ出来たか〜?」

キッチンの扉が開いた。

「あぁ。もう出来る。…っとその前に、チョッパー、お待ちかねの患者だ。診てやれ」

「へ? ……おっ、そうか! よし! 怪我してる奴は俺のとこに来てくれ!」

「なっ、ペットが喋ったぁ!?」

「ペットじゃねぇよ! 俺だって立派な海賊だあぁ!!
…なのにっ、50ベリー…」




…サニー号へ渡ってきたフェニックス海賊団のクルーたちは、最初にチョッパーの診察と治療を受け、順次ダイニングへ向かった。

目の前に作りたての料理を出されると、夢中でがっついていく。

「うんめええええぇぇぇぇっ!!」

「生き返る〜!」

「地獄に仏たぁ、まさにこのことだぁ!」

頬袋いっぱいに食べ物を詰めたルフィが、満面の笑みで言った。

「だろぉ〜? いっぱい食えよ!」

「うわああああぁぁぁぁん!!」

「ありがとおおおぉぉぉぉ!!」






…その頃。

「……」

ティオは独り、フェニックス海賊団の船内を歩いていた。

船内から感じられる人間の気配は、2つ。

1人はテキパキと動き回っているようだが、もう1人は動くどころか、今にも死んでしまいそうなほど弱っている。

ティオは迷うことなく、その死んでしまいそうな"声"の方へ歩いて行った。


…自然と船の奥へ進む羽目になり、周囲がどんどん暗くなる。

進めば進むほど、腐臭のような匂いが濃さを増していった。

この奥に居るのが誰なのかは、予想がついている。

「……」

ティオは突然立ち止まった。

目の前に、天井まで積み上げられ、不自然に通路を塞ぐ木箱たちが現れたのだ。

弱っている"声"の主はこの先だ。

「……」

ティオは、積み上げられた木箱を見渡し、小さな隙間を見つけた。

周囲の暗さも考えて、夜目の効く猫に変身する。

"ボンッ"

小さな白猫は、木箱と木箱のズレに器用に足を掛けて登り、見つけておいた抜け穴を通り抜けた。

腐臭のような匂いが一段と濃くなる。

暗闇の中、誰かが寝かされているのが目に写った。

"ボンッ"

ティオは人間に戻り、手近にあったランプに火を灯す。

途端、容姿がハッキリ見えたその人物に、目を細めた。

「……やっぱり。……けんしょうきん、1おく、べりー。ふぇにっくす、かいぞくだん、せんちょう。ふしちょう、の、ぱずーる」

億越えの海賊を、ティオが知らないわけがない。

「……うっ……ぐっ…」

どうやら、酷い怪我を負っているようだ。

意識はなく、高熱にうなされている。


このフェニックス海賊団に出くわしたとき、ティオは不思議に思っていたのだ。

あれだけクルーたちが大騒ぎしても、船長が甲板に出てこなかったから。

それで、船内で一番反応の弱い気配を辿ってみれば、ドンピシャ。

…なるほど、意識もないこの状況では、出てこられるはずもない。

「……せんい、いない、の?」

怪我の具合をみようと、掛けられていた毛布を除けてみれば、適切な治療が施されていないと分かった。

てきとうに包帯が巻かれているだけで、傷口は化膿し、悪化の一途を辿っている。

どうりで、腐臭に似た匂いが充満しているわけだ。

「この先だよ、先生」

「お、おう…」


突然、2人分の声が耳朶を打った。

片方はチョッパーで、もう片方はおそらく、子供。


"ガタッ、ガコッ"


パズールの傍に膝をついているティオの背後で、木箱が降ろされる音がした。

木箱を取り払って作った隙間を、少年とチョッパーがくぐってくる。

「!? お前っ、誰だ! ここで何してる!」

当然、少年は叫んだ。

その後ろからヒョコっと顔を出したチョッパーは、目を見開く。

「あれ、ティオ?」

「え、先生の知り合いなの?」

少年はチョッパーとティオを交互に見た。

「大丈夫だ。俺の仲間だからな。……それより、俺に診て欲しい患者ってのは…」

「…うん。…うちの、船長なんだ」

「ちょっぱー、このひと、まずい」

「「?」」

「きずぐち、かのう、してた。…このふね、せんい、いない、の?」

「それは…」

「ちょっと診せてくれ!」

チョッパーはパズールの傍に駆け寄り、てきとうに巻かれていた包帯を取り去る。

「なっ、何だこれ! どうしてこんなになるまで放っといたんだよ!」

「そんなこと言ったって…っ」

「とにかく、これじゃ動かすのは無理だ! 今すぐ手術を始めるぞ!」

「えっ、ここで!?」

手術なんて立ち会ったことのない少年は、あからさまに戸惑った。

「てつだう」

少年を押しのけるようにして、ティオがチョッパーの隣に膝をついた。

技術も経験も無いが、知識だけなら、本職の医者にも負けない。

「あぁ、頼む! …危険な状態だ。急ぐぞ!」

「(コクン)」


…開始された、緊急手術。

少年は立ち尽くすことしか出来ず、ただただ2人の手元を見つめていた。

 
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