シザンサス

□23,涙の別れと海軍の英雄
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「どういうつもりなんだ…」

「砲撃で死ぬより、海で死ぬことを選んだのか?」


海へ飛びこんだ麦わら一味を見つめる海兵たちは、動揺を隠せないでいた。

双眼鏡を手にしていた海兵が叫ぶ。

「あ、あれはっ、船です! 海賊旗から察するに、麦わらの一味の船かと思われます!」

「何だと!? この軍艦の犇めく中を、一体どこから潜り込んだというんだ!」

海兵たちの視線が集まるメリー号。

その傍で…


"ザバァッ!"


最初に海から顔を出したのはサンジだった。

"フォン…ッ"

縄梯子(なわばしご)が降りてくる。

「?」

サンジは首を傾げながらも、それを登った。

「ふう、誰だか知らねぇが助か……あれ?」

船に上がってみるも、そこには誰もいない。

続いてナミが上がってくる。

「よいしょ、っと…」

さらに後ろから、ゾロがチムニーとゴンベを担いで上がってきた。

「おら、着いたぞ」

「わーい! ありがとー!」

「ニャァ!」

2人は降ろされるなり、甲板を走り始める。

それを苦笑いで見つつ、ナミはサンジを見て首をかしげた。

「どうしたのサンジ君。何か探しもの?」

「ん、あぁ……それがナミさん。確かに縄ばしごが降りてきたんだが、誰も乗ってねぇんだ」

「え…?」


"ザバァッ"


「ったく、能力者じゃあるめーし、ちゃんと泳げよ長鼻のにぃちゃん?」

「ぷへぇ〜…」

フランキーが、担いでいたウソップをメリー号に投げ込む。

そのすぐ後ろで、ココロが大きめの布を翻した。

「ホラ、乗んな、能力者ども!」

ルフィ、ロビン、チョッパー、ティオが宙を舞う。

サンジが目をハートにして両腕を伸ばした。

「あはっ、ロビンちゅわ〜ん! ティオちゅわ〜ん! 俺の胸に飛び込んでおいで〜!」

…しかし、ロビンが飛んでいった先にはフランキーが、ティオの飛んでいった先にはゾロがいる。

「よっ、と」

フランキーがロビンを見事キャッチした。

「…あら…ありがとう」

「いいってことよ」

ゾロも慣れたようにティオを受け止める。

「お前、鳥になりゃ良かったじゃねぇか」

「…みんなと、うみ、とびこみ、たかった」

「はぁ? ……気持ちは分からなくもねぇが、時と場所は選べよ?」

「(コクン)」


…結局、サンジの胸には誰も飛び込まずに終わった。


「メリー号だ…っ」

甲板に大の字になり、呟くチョッパーの目から涙が溢れる。

「うわぁんっ、メリー号だぁっ! 俺やっぱりメリー号大好きだああぁぁぁっ!」

その傍で、ウソップもメリーのマストに抱きついて号泣していた。

「俺のメリーが生ぎでだぁぁぁっ!」

…そう、メリー号はCP9の手で、フランキー一家のもう一つのアジトから、荒れ狂う海へと流されてしまったのだ。

あの嵐の中、無事であるはずはない。

まさに奇跡だ。

「…いったい、誰がここまで乗ってきたのかしら…」

ナミの思考を、ゾロが遮る。

「ンな話は後だ。指示を出せ!」

「あっ、そうだったわ!」

「ここを抜けるぞ!」

「ほらサンジ君、いつまで凹んでんの!」

「は〜いっ、んナミすゎ〜ん!」

動けるクルーたちは、それぞれの持ち場につき始めた。

それを見渡しながら、まだ体が動かないルフィはため息をつく。

「はぁ…危なかったぁ……軍艦に殺されるかと思ったぞ。あぁそうだ、ティオ、ロビン、ありがt"パシッ"ムグッ?」

ロビンは手を咲かせ、ルフィの口を塞いだ。

ゆらりと立ち上がり、仲間たちをぐるりと見渡す。


「ルフィ…それにみんな、ありがとう」


ふわりと、笑みが浮かんだ。

いつもの妖艶な笑みではなく、心のままに浮かべられたような、柔らかい笑み。

「てぃお、も」

ロビンの手を、そっと握る小さな手。

いつの間にか、ロビンの隣にティオが立っていた。


「ありが、とう」


そう言って、わずかに口角を上げる。

釣られるように、仲間たちも照れるような笑みを浮かべた。

ルフィに至っては満面の笑み。

「にっしっしっ、気にすんな」

…しかし、1人だけ空気の読めない奴が…

「ンなくだらねぇこと言うのは、ここを逃げ切ってからにしろよ」

ゾロだった…

サンジとチョッパーが飛びかかる。

「くだらねぇとは何じゃマリモォォ!」

「何じゃマリモーっ!」


「るっせぇな! ここで死んだら元も子もねぇだろーが!」

「ロビンちゃんとティオちゃんに謝れこのクソ剣士ぃ!」

「そうだぞゾロォ!」

「放せこのヤロっ……ん? チョッパー、お前動けんのか?」

「へっ? あ、そういえば……ぐすっ、俺動けるようになったんだっ、ゾロォ〜」

べそをかき始めたため、そのまま号泣するかと思いきや…

「早く2人に謝れぇ!」

人型になってゾロに技を決めた。

「いでででででっ」

サンジがふざけ半分に訊く。

「ははっ、ギブアップ?」

「の、のおおおぉぉぉぉっ!」

そのやりとりに、ロビンとティオは目を見合わせて微笑んだ。

…やっと、麦わら一味の空気が戻ってきた。

 
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