シザンサス

□22,バスターコール
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「はぁ……はぁ……あ"〜〜づがれだっ」

ゾロとカクの勝負が決する頃、そげキングはちょうど司法の塔の屋上に辿り着いていた。

ナミは別行動を取っている。

一階に、チムニーが書いたと思しき道案内があり、それに従って先に正義の門へと向かったのだ。

「おっと、急がねぇとロビンが門をくぐっちまう!」

そげキングは巨大パチンコを構えた。

狙う先には、正義の門へと伸びる長い橋。

これが、サンジの言っていた"橋"だ。

今まさに、スパンダムがロビンを引きずるようにして門の入り口へ向かっている…




「ぬぁっはっはっはっ! もう邪魔するものは何もない!」

意気揚々と歩くスパンダムと、ロープを括りつけられ、引きずられていくロビン。

ロビンは能力が使えないどころか両手すら使えず、成す術が無いのだ。

刻々と迫る門への入り口。

その両サイドには海兵が整列し、スパンダムを待っていた。

入り口をくぐってしまえば終わりだ。

(どうすればいいの……)

打開策が何も浮かばない。

思い浮かぶのはただ、必ず助けると言ってくれた仲間たちの顔だけ。

「……っ」

コツコツと響くスパンダムの足音からは、この上ない達成感が伝わってくる。

それが悔しくて堪らない。

故郷を、考古学者としての誇りを穢した目の前の下衆に、何も仕返しが出来ないなんて…

「はっはっはっ! よーく見ておけ? ニコ・ロビン!」

眼前に迫った、門の入り口。

本当に、ここが最後の境界線だ。

ロビンの思考は一度真っ白になった。


…そして、無意識から一番の望みを心に思い描く。





(助けて…っ……みんな…っ)






「この一歩こそ、世界政府の歴史に刻まれる英雄の、第一p"ズドォンッ!"

「ふがぁぁっ!?」


「!?」


突然の爆発音。

一体、何が起きたのか。

ロビンはキョロキョロと辺りを見回し、恐る恐る門への入り口を見上げた。

「……越えて、ない」

入り口まで残り数センチ。

傍には、頭から煙を上げて倒れているスパンダム。

「なっ、長官殿!」

「大丈夫ですか!」

整列していた海兵たちが走り寄ってくる。

すると…


"ヒュゥ――――ズドォンッ"


「ぐわぁぁっ」

海兵の1人の頭が爆発した。

…否、爆撃を受けたのだ。

「なっ、何だ!」

「何者だ! どこから攻撃してる!」

「橋には誰もいないぞ!」


"ヒュヒュッ、ドォンッ、ズドォンッ"


「うわあ!」

「ひぃぃっ!」

海兵が1人、また1人と爆撃の餌食になっていく。

しかし、どこから狙撃されているのか分からず立ち往生。

「おいっテメェら! 何してる!」

頭から煙を立ち昇らせて、スパンダムが立ち上がった。

「し、しかし長官、敵が確認できません!」

「何を馬鹿なことを! その辺に隠れてるに決まってんだろ!」

海兵たちがバタバタと騒ぐ中、ロビンは真っ直ぐにある一点を見つめ、涙を流して頬を緩めた。

「長鼻君…っ」

望遠鏡を手に辺りを見回していた海兵が、ようやく敵を見つけて青ざめる。

「いっ、いましたーっ! 司法の塔の、てっぺんです!」

「ぬぁにっ!? 司法の塔だと!? こっからどんだけ離れてると思ってんだ!」

「これだけ風の吹く中、あんな位置から寸分たがわず俺たちを狙って…」

司法の塔の屋上には、妙な仮面をつけ、ピシっと天に向け人差し指を伸ばす男…




「見ろ! スゲェだろ! ウチの狙撃手の力! はっはっはっはっ!」

望遠鏡を覗いていたサンジが、作戦成功と言わんばかりの顔で誇らしげに笑った。

隣にはゾロとティオ。

先程カクと戦っていた部屋から、3人で様子を窺っていたのだ。


「そげきぃのぉしまぁでぇ、うまれぇたぁおれぇは〜」


小さく、歌が聞こえてくる。

ゾロとティオは冷めた目でそげキングを見上げた。

「…歌う必要ねぇだろ」

「(コクン)」







「〜〜っおのれぇぇっ!」

"ヒュッ……ドォンッ!"

「ぶぐぁっ!」


「「長官殿!」」

「げほっ……貴様ら、何してる! 早くアレ撃ち落とせ!」

「そんなっ、銃弾なんて届きませんよ!」

「まして当てるなんて…」

「あの狙撃手、もの凄い腕です!」

海兵はてんやわんや。

ロビンは隙を見て走り出した。

「あっ、ニコ・ロビンが逃げます!」

「なにっ!? おいテメェら! 絶対ぇ逃がすんじゃねぇぞ! 発砲を許可する!」

「「「はっ!」」」

「殺さねぇ程度に打ち殺せぇ!」

「「「…え?」」」

スパンダムの矛盾した指令をどう受け止めたものか…

海兵たちは戸惑いながらも、走るロビンの背に銃を向け、銃口を足の方へとずらした。

「はぁっ…はぁっ…」

ロビンは、海楼石のせいで力の入らない体で懸命に走りながら、後ろを振り返る。

(このままじゃ…っ)

ルフィのように銃弾が効かない体であれば…

そうでなくとも、せめて能力が使えれば…

「全員、撃てぇぇ!」


"パンッ、パンパンッ"


火薬の破裂音。

「……っ」

ロビンはぎゅっと目を閉じた。




"カキンッ、カンッ、パキンッ"




---数秒して。


「……?」


体のどこにも痛みがないのを不思議に思い、ロビンは恐る恐る目を開けた。

すると…

「ふう、危ねぇ危ねぇ」

見覚えのある背中が目の前にあった。

「あなた…」

海兵たちは目を見開く。

「「「何だアイツはぁぁ!!」」」

先ほど彼らが放った銃弾は、全てその人物の足元に落ちていた。

しかも、全てひしゃげている。

スパンダムが驚きと怒りの混じった顔で叫んだ。


「カティ・フラム!」


鋼鉄の体を持つサイボーグ、フランキー。

「よぉ、スパンダ。また会ったな」

「テメェ…っ」

『あー、フランキー君、フランキー君、こちらそげキング。聞こえるかね?』

「ぁあ?」

どこからか声が聞こえ、フランキーは懐を探り、子電伝虫を取り出した。

先程ナミと会ったとき、通信用に持たされたものだ。

「長っ鼻? こりゃオレンジ髪の姉ちゃんとの通信用じゃなかったのか? 何でオメェが」

『先程ナミから私が受け取った。それより、近辺に赤い布の包みが落ちていないかね?』

「赤い布? ……ん、あぁ、あれか」

フランキーは辺りを見回し、落ちていた赤い布の包みを拾った。

『鍵が2本入っている。君に渡しておいた3本と合わせ、全て揃うはずだ』

スパンダムが目を見開く。

「んなっ、鍵全部ぅぅ!?」

フランキーは5本の鍵を一つ一つ試していった。

「1番…3番…4番、違うっ……5番!」

"ガチャッ"

「おっ、外れたぞ!」

"ガシャァンッ"

分厚く重い手錠が、ロビンの手首から滑り落ちた。

ロビンは自分の両手を見つめ、しばらく呆気にとられる。

スパンダムは頭を抱え、青ざめていた。

「馬鹿なっ、本物の鍵だと!? …ってこたァオメェら! まさか司法の塔のCP9全員、倒したってのか!? まさかティオも…」

『あぁ。ティオ君も無事、救出されている』

「ぬぁにぃぃぃ!?」

…有り得ない、有り得ない。

スパンダムは頭を振った。

「ンなはずはねぇ! テメェら上手く鍵とティオだけ盗んで逃げたな! チクショーッ!」

「おい、長っ鼻、ニコ・ロビンの手錠の鍵は外したぞ!」

「ありがとう、長鼻君」

『礼なら、全てが済んでから、必死に鍵を集めた者たちに言い給え。君は紛れも無く、ルフィ君たちの仲間だ! もう思うままに動けば良い!』

「えぇ」

ロビンは溢れていた嬉し涙を拭い、スパンダムに向き直った。

六輪咲き(セイスフルール)!」

スパンダムの体に6本の腕が咲く。

「なっ、何だ!?」

「スラップ!」

"シュババババババババババババッ!!"

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」

連続する往復ビンタで、スパンダムの顔が腫れ上がっていく。

「すげぇ…」

ロビンの実力も能力も知らないフランキーは唖然としていた。

「今までの分、存分にやらせてもらうわ」

"バシッ"

「あぐっ」

"ドサッ"

「「「長官殿!」」」

フランキーはニヤリと口角を上げ、子電伝虫に言った。

「こっちは大丈夫だ。オメェらも早くこっちへ来い! 脱出の準備は整えておく!」

事前に打ち合わせた通り、護送船を奪って逃げるのだ。

『了解した! あとで落ち合おう、ロビン君、フランキー君!』

"ガチャ"

再会の約束を結んで、子電伝虫は切れた。

 
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