シザンサス
□22,バスターコール
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もはやエニエス・ロビーに残っているのは、司法の塔、正義の門へ続く橋、ルフィとルッチが戦っている第一支柱の、3つだけだ。
「…さっきまで俺たちがいた島とは思えねぇな」
「な、何なんだよこの攻撃はっ! もう既に火の海じゃねぇか!」
「それが、ばすたーこーる。むさべつ、こうげき」
フランキーも橋へ上がってきた。
「この攻撃はニコ・ロビンを死なせねぇように命令が下ってるようだ」
「それで今、この橋は狙われてねぇのか…」
「死なせねぇってことは、まだ奪い返すつもりだってことか」
「あぁ。エニエス・ロビー本島を焼失させたら、白兵戦で仕掛けてくるだろう」
「おいおいヤベェんじゃねぇのか? こっちはみんなボロボロな上に、軍艦にはスゲェ奴らがいっぱいいるんだろ?」
ティオは覇気で、相手方の人数とおおよその強さを推し量った。
海軍本部の海兵なら、会ったことのある者が多い。
誰が来ているかなど一目瞭然だ。
「…かぞえ、きれない。1000にんいじょう、いる。じつりょくしゃ、だけでも、300にん、こえてる」
「ヤバすぎだろ! こりゃ早いとこ逃げた方がいい。ルフィはまだ戦ってんのか?」
「(コクン)…もうすこし、かかる」
橋の先で、第一支柱から煙が上がっている。
「近いじゃねぇか! 手を貸してやればすぐにでも…」
「やめとけ。…あのハト野郎はただモンじゃねぇ。また巻き込まれて、せっかく集まった俺たちがバラバラになってどうする」
「それは…」
「軍艦がいつ、こっちを向いて攻めてくるか分かんねぇんだ。逃げ道を失わねぇよう、俺たちはここでルフィを待つ」
「…分かった」
そこへ、サンジもやって来た。
「なぁ、フランキー」
「ぁあ?」
「オメェの仲間たちは…」
「フン、アイツらなら大丈夫さぁ。逃げ足だけは速ぇからな」
言いつつも、脚はそわそわと貧乏ゆすりを繰り返している。
心配しているのがバレバレだ。
サンジはタバコの煙を吹き、ゾロの肩に目を向けた。
「ティオちゃん、分かるかい?」
ティオは燃え盛る本島を見つめ、頷いた。
「ふらんきー、いっか、11にんしか、みたことない。だから、ぜんいん、ぶじか、わからない、けど、その11にん、ぶじ。まわりに、なんじゅうにんも、かたまって、いっしょ、にげてる、ひとたち、いる」
「ならきっと、その一緒に動いてる奴らが仲間だ。…よかったな、フランキー」
「な、何でそんなことが…」
「ティオちゃんはすげぇのさ」
「説明になってねぇよ」
「詳しい説明は後だ。とにかく信じろ」
「今は一刻も早く出港することが最優先だ」
フランキーは眉をひそめていたが、第一支柱の方を向いた。
…橋の上を、潮風が撫でていく。
サンジが新しいタバコに火を灯した。
「…今のところ、軍艦の数と俺たちの頭数はほぼ同じ……いくら出港できても、ここを抜けるのは至難の業だな…」
もし戦わざるを得なくなれば、海軍の精鋭たちを、1人につき100人近く倒さなくてはならない。
みんなボロボロの現状では、ほぼ不可能だ。
…と、そのとき。
『北西正門より報告。海兵および役人たちの収容完了。ついで、巨人を含む海賊、約50名を正門に確認』
スピーカーを通して、海軍の報告が聞こえてきた。
フランキーがパァっと表情を明るくする。
「アイツらだ! ちゃんと生きてやがったんだな!」
「言っただろ? ティオちゃんを信じろって」
「そうだなァ、はっはっはっはっ!」
『一斉砲火による、抹消完了。全員死亡』
「「「!?」」」
…全員、もれなく固まった。
『現状、本島での生存は不可能と思われ、エニエス・ロビーにおける生存者、ゼロ』
「なっ……どういうことだ…」
開いた口が塞がらないフランキー。
しかし…
「だいじょぶ」
ティオの一言でハッとした。
「大丈夫って、オメェ……だって、今…」
「いきてる、よ。みんな」
ティオは僅かに目を細める。
「みんな、じめんより、ちょっと、したに、いる、みたい。だから、きっと、ぐんかんから、みえなかった」
「地下通路でもあるってのかい?」
「それは、ない。……どういう、じょうきょうか、よく、わからない」
…分からなくて当然だ。
砲撃を受けて島から落ちた後、まさかパウリ―のロープで崖にへばりついて助かっていたなんて、分かるはずもない。
「とにかく、いきてる。だいじょぶ」
「そうか…。ま、まぁ、心配なんざしてねぇけどよ! ハナっから!」
「素直じゃねぇなァ」
そげキングがティオの方を向く。
「残るはルフィだけだな…。まだかかりそうか?」
「(コクン)」
「そっか…」
"ドゴォッ!"
第一支柱の壁が、一部垂直に切れた。
ルッチの嵐脚によるものだろう。
その威力は他のCP9とは比べ物にならない。
フランキーが腕を組んで言った。
「…ルッチは強ぇ。…もし、麦わらがあの場所でずっとアイツを押さえてなかったら、正直俺たちは、何人死んでたか分からねぇ」
「えにえす・ろびー、800ねん、なんこうふらく。そのなかでも、るっち、れきだい、さいきょう。…なのに、るふぃ、ごかくに、たたかってる。ほんとに、すごいこと」
…やはり、ただのルーキーではない。
ティオの頭に浮かぶのは、ルフィの家族構成や人間関係。
そして、ルフィと同じくタダ者ではないと判断された、多数のルーキーたち。
…もしかするとこの先、歴史を覆し、世界を揺るがすような、とんでもないことが…
「何つーかルフィって、必ず一番強ぇ奴と当たってるよな。…まるでそいつと戦うことが初めから分かってたみてぇに…」
そう言うそげキングの傍らで、ゾロは腕を組んだまま第一支柱を見据えている。
「…勘がいいんだろ」
「…アイツ、死なねぇよな」
「ばーか」
「なっ、馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!」
そのとき、ティオの耳がピクっと動いた。
「ぐんかん、うごいてる」
「「?」」
「動いてるって、どこにだい?」
「ここ」
「「ここォ!?」」
つまり、橋の周りへ集まっているのだ。
『第一支柱・第二支柱間、ためらいの橋、砲撃開始!』
"ヒュゥゥ…ドォンッ、ズドォンッ!"
橋が半分壊されてしまった。
…これで、橋を渡って第一支柱へ行くことは出来ない。
「んなっ、何で橋に攻撃を…」
「…そろそろシビレを切らし始めたか」
「ニコ・ロビンを狙って白兵戦仕掛けてくる気だな、こりゃぁ」
『全艦、ためらいの橋の周囲に布陣! 橋の上と護送船には、海賊狩りのゾロ、ニコ・ロビンを含む、海賊9人を確認! 司法の塔にてCP9を破った主力と思われます!』
"チャキ…"
ゾロは刀を構え、軍艦を睨み据えた。
「ん? おい、あれ!」
突然、そげキングが第一支柱を指さす。
見れば、砲撃で壁に穴が開いたのか、ルフィとルッチが見えていた。
どちらも荒い呼吸で肩を上下させている。
「ルフィ君〜!」
そげキングが呼べば、ルフィもルッチもこちらを向いた。
「こっちの心配はいらないぞ、ルフィ君!」
「俺たちなら大丈夫だ!」
「ロビンちゃんもティオちゃんも助けた!」
ルフィはゾロの肩に、鼬姿のティオを見つける。
「ルフィ! あとはお前がそいつに勝つだけだ!」
「そしたら生きてみんなで!」
「ここを出るんだぁぁ!!」
仲間たちの力強い叫び。
ルフィはニッと口角を上げ、頷いた。
それを見届け、一味は軍艦の方へ振り返る。
チャキっと、ゾロが刀を構え直した。
「…あとはこっちの耐久力勝負だ。…おい、お前は船に戻っとけ。…その足じゃ戦えねぇだろ」
「……(コクン)」
ティオはボンッと音をさせて人に戻り、船の方へと歩き出した。
…すると。
「なぁ、ティオちゃん」
サンジに呼び止められた。
「?」
振り返り見上げれば、何かを企むような顔が見下ろしている。
「ちょっと道案内、頼まれてくれるかい?」
「…どこ、へ?」
「んー、まぁちょっとね」
「……」
…サンジのことだ。
きっと何か考えあるのだろう。
"ボンッ"
ティオは再び鼬に変わった。
サンジがしゃがんで手を差し伸べてくれたため、その手に乗る。
手はそのまま、エレベーターのように肩へと動いた。
肩に移ると、指先が顎を撫でてくる。
その心地よさに、思わず目をつぶった。
「…さて、行くか」
ティオを肩に乗せたまま、サンジはポケットに両手を突っ込み、歩き出した。