シザンサス

□22,バスターコール
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「さて、俺たちも行くか」

「あぁ」

「(コクン)」

サンジがタバコに火をつけながら、そげキングを見上げる。

「おーい、早く降りて来いそげキング」

「ん、あぁ」

そげキングは元来た道を戻ろうとする。

…そのとき。




"――――――"




「?」


誰かに呼ばれた気がした。

声のようだが、耳で聞こえるというよりは、頭の中に直接響くような…

それはティオにも聞こえていたようで…

「……この、こえ…」

呟いて、耳を澄ますように目を閉じる。

「どうしたんだい? ティオちゃん」

「声って何だよ」

どうやらゾロとサンジには聞こえなかったようだ。

ティオは閉じていた目をゆっくり開いた。

「……」

この声は知っている。

けれど、こんなところで聞こえるはずは…

「!」

突然、見聞色の覇気が最悪の情報を拾った。

バスターコールが掛けられてからずっと、範囲を最大限に広げ、レーダーのように辺りを探っていたのだ。

…声のことが頭からすっぽりと抜ける。

「…きた」

「さっきからどうした。妙なことばっか口走りやがって」

「来たって何がだい?」

ティオはゆっくり腕を上げ、完全に開いた巨大な正義の門を指さす。

ゾロとサンジはその指の先を見た。

「…あれは」

門の扉の向こう。

目を凝らせば、ゴマ粒ほどの黒い点が幾つか見えた。



"ヒュゥゥゥ――――ドゴォッ!"



エニエス・ロビーを取り囲む防御柵が爆発する。

「…砲撃か」

「ちっ、やべぇな……正義の門が全開になって、あれだけ渦を巻いてた海流が消えてる」

「あの渦は、正義の門で海流が阻まれて出来てたってことか。…それがねぇってことは」

「あぁ。軍艦も易々と入って来れる」

2人は再度そげキングを見上げた。

「おい、そげキング!」

「一刻を争う。今すぐそっから飛び降りろ」

「んなっ、無茶言うんじゃねぇよ! 俺にそんな度胸はな"ズドォンッ!"


「「ウソップ!」」


…それは突然だった。

砲撃を受けた屋上が崩れ、塔のズレた部分から上が全て海へと落ちていく。

「あの野郎っ、まさか…」

「おいっ、ウソップーっ!」

「だいじょぶ」

「「?」」

ティオは至極落ち着いた顔で空を見上げた。

つられて2人も見上げてみれば…

「ぅゎぁああああっ! 呼んだかねーぇ!?」


"ドゴォッ"


落ちてきたウソップが、頭から地面に突っ込んだ。

「「ンだよ生きてんじゃねぇか!」」

「んなっ、屋上から決死のダイブをした私を受け止める優しさはないのか!」

「…まぁいい。とにかく急ごう。ティオちゃん、道案内頼めるかい?」

「(コクン)」

ティオは左足を引きずりながら歩き出した。

それを見たゾロはため息をつく。

「おい」

「?」

足を止め、振り向くティオ。

「いつもみてーに動物ンなれ。運んでやっから」

「……」

「そんなんじゃ日が暮れちまうだろ」

「…ぞろ」

「あ?」

「ここ、ふやじま。よる、ない。ひ、くれない」

「っ……るっせぇな! どうでもいいだろ!」

"ボンッ"

ティオは(イタチ)に変身した。

器用に3本の足でゾロの頭までよじ登る。

「ティオちゃん落とすなよ? アホマリモ」

「テメェじゃねぇんだ。ンなヘマするかアホコック」

「ンだとぉ!?」

2人は喧嘩しながら走り出した。

…その背中に、

「おーい、誰か1人忘れてないかね〜…」

そげキングの虚しい声が掛かる。

ゾロとサンジは足を止め、振り向いた。

「ぁあ? 何でまだ埋まってんだよ」

「早く来い。置いてくぞ」

「いや、それがですね…」

「「?」」

「体が動かないんです、あはは…」

2人の額に、血管が浮き出る。

「……ちっ」

「……ったく」

ゾロとサンジは戻ってそげキングを引っ張り出し、大きな布に乗せ、担架のように両端を片方ずつ持って走り出した。

「オメェもティオちゃんみたく変身できりゃぁな」

「…お手数お掛けします」

「ま、今に始まったことじゃねぇが」

「みぎの、かいだん、したへ」

「「おう」」

ロビンたちが居る橋に出るため、ティオの道案内に従い、地下通路へと向かう。

しかし…

"グイッ"

「のぁぁぁ!?」

"ビタンッ"

突然、そげキングの乗せられていた布がピンと張られ、反動でそげキングが放り出されてしまった。

サンジがイライラを募らせる。

「…おいクソ剣士、テメェ今どっち行こうとした」

「ぁあ? 右っつったから右に行っただけだろうが」

「そっちは左だ! こんなときくらいマトモに走れねぇのか迷子マリモ!」

「誰が迷子だクルリン眉毛!」

「テメェだっつってんだよ!」


「…君たち、少しは私の心配を……ガクッ」

喧嘩する2人と、床でピクピクしているそげキング。

ティオはゾロの頭の上でため息をついた。

そして…

「……あ」

そげキングを見ていたら、1つ、いいことを思いついた。

「ぞろ、さんじくん、すすんで」

「けどティオちゃん、コイツが…」

「だいじょぶ。いいこと、かんがえた」

「「いいこと?」」

…半信半疑ながら、2人はそげキングを再び布に乗せて、走り出す。

「つきあたり、ひだり」

「「おう」」

サンジは思った。

迷子マリモのことだ、きっと右に行こうとするに違いない、と。

しかし…

「?」

綺麗に左に曲がることが出来た。

その後も…

「つぎ、みぎ。……あの、じゅうじろ、まっすぐ」

分岐点が続くものの、先ほどのようにゾロだけ別方向へ行くことがない。

奇跡だ。

「ティオちゃん、一体コイツに何を…」

「そげきんぐ、に、みちあんない、したの、と、おなじ、ほうほう」

「俺に?」

そげキングは記憶を辿った。

司法の塔の屋上への道を、映像で流し込まれた時のことを思い出す。

「あぁ、あれか〜」

「あれより、もっと、つよい。ぞろの、ほうこう、いしき、てぃおが、ぬりかえてる」

つまり、ゾロの方向決定の思考回路に、ティオの思考回路を上書きするという、部分的な洗脳を施しているのだ。

運ばれながら、そげキングが首をかしげる。

「ん? でもそれってよ、頭ン中に2つの思考が同時に存在するってことだろ? 混乱しねぇのか?」

「そうなるの、しこう、ふくざつな、ひと」

サンジがふっと笑った。

「なるほどな。単純バカが催眠術にかかりやすいのと一緒だ」

「あ〜、なるほど。ルフィとチョッパーにも出来そうだな」

「(コクン)…たぶん、できる」

ゾロが頬をひくつかせる。

「…おい、さっきから聞いてりゃ人のこと馬鹿にしやがって」

「あり? ゾロお前、意識あるのか?」

「ぁあ? 何言ってやがる」

「これ、さいみんじゅつじゃ、ない。ほうこう、けっていする、いしきだけ、てぃおが、のっとってる。だから、ほかのいしき、えいきょう、ない」

「へぇ〜便利なもんだなぁ」

「ティオちゃんがいれば、これから先コイツが迷子になる心配はなくなるわけか。手間が一つ省けそうだ」

「(コクン)」

…何だか簡単そうに見えるが、全てはティオの持つ並外れた見聞色の才と、そのコントロールを身につけるための修練の賜物。

誰にでも出来るわけではない。

 
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