シザンサス

□21,ゾロVSカク
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「ふう……空島で散々落ちたからな。二度も同じ(てつ)は踏まねぇ」

「…ぞろ、そらじまで、2かい、おちてる。にどめの、てつ、ふんでる」

「っ……るっせぇなぁ! さっきまで青い顔してたくせに何ケロっとしてんだよ」

ティオはゾロの頬を左右に引っ張った。

「…めの、さっかく。……わすれ、ろ」

「いででででっ、放へっ!」

(つか)の間の平穏でジャレている間に、周囲の土煙が晴れていった。

すると…

「ぅえっ!? ゾロにティオ!?」

ちょっと間の抜けた声が聞こえてくる。

「ん、何だ。いたのか、そげキング」

「……そげ、きん、ぐ?」

ティオは首をかしげ、ゾロとウソップを交互に見る。

ルフィとウソップの大喧嘩を知らないため、ウソップが仮面を被って『そげキング』と名乗っている理由が分からないのだ。

「かぁ〜っ、しまったぁ! 人獣化で止めるはずが、間違ってキリンになってしもうた! まだ細かいコントロールが出来んのう…」

カクが何やら呟きながら身を起こす。

その姿は完全なキリンになっていた。

「おい何やってんだカク! 俺のテリトリーに踏み込んできやがって!」

そう言って突っかかるのは、狼人間と化したジャブラ。

2人を見て、ゾロは半目でまばたきを繰り返した。

「何だココは。動物園か? あのハト野郎といい、CP9ってのはそういう集まりなのか?」

「…ちがう。どうぶつ、なるの、3にん、だけ」

「ふーん。……おい、そげキング、コイツ見てろ」

「へ?」

ゾロはウソップ目掛けてティオを投げた。

「ひぁ…っ」

「うぇえぇえっ!? ちょちょちょい!」

パシっと、ウソップは何とかティオを抱きとめる。

「あっぶねぇだろゾロ! 万一にも落としたらどーすn…って血だらけじゃねぇか!」

ツッコミの要領で目まで飛び出させるウソップ。

「あーあー骨まで折れちまってるし…。あのキリンにやられたのか?」

「(コクン)」

「そっかぁ。…痛そうだなぁ」

ウソップはティオをそっとその場に下ろし、鞄の中を探った。

適当に見つけた2本の棒らしきものを、布の切れ端でティオの折れた足に固定していく。

「とりあえず固定だけな。悪りぃが包帯は持ってねぇんだ。あとでチョッパーに診てもらおうぜ?」

「(コクン)…ありが、と。……ところで、うそっぷ、その、かめん、なに?」

「へ? ……ぅぉおっとぉっ!」

ウソップはそげキングとして演じ忘れていたことを思い出した。

「おっほん、初めましてティオ君。私は狙撃の島からやって来た無敵のヒーロー、そげキングだ。ウソップ君の親友なのだよ」

わざとらしくそう言って、握手を求めてティオに手を差し伸べる。

ティオは半目で首をかしげながらも、その握手に応じ、触れた手から記憶を読み取った。

「!」

何があったのかを知り、目を見開く。


…メリーを賭けた、ルフィとの決闘。

イースト・ブルーから連れ添った仲間たちとの、決別。

苦しくて、悔しくて、悲しくて…

ボロボロになった体よりも、心の方が何万倍も痛かったこと…


…そんな辛い記憶が、一瞬でティオの頭の中を駆け巡る。

ティオはいつもの無表情を作って、そげキングを見上げた。

そげキングは、記憶を読まれたことには気づいていないようだ。

「…よろし、く、そげきんぐ」

ここに来るまで、仲間たちは気を遣って、ウソップと分かっていながらそげキングとして接していたらしい。

…ルフィとチョッパーは、本気でウソップの親友だと思っていたようだが。

ならば、自分もそれに乗るしかない。

…乗らなければ、ウソップが何だか可哀想で見ていられない気がした。




「あのガキ()られてんじゃねぇか! 何やってんだカク!」

()られてはおらん。少しばかり、奪い返せる希望でも見せてやろうと思ってのう」

「嘘つけ! テメェがンな回りくどいことするタマか! ……まぁいい。ここは俺のテリトリーだ。ここに落ちてきたからには、2人とも俺が仕留めて、あのガキも俺が取り返す。テメェは消えろ!」

「フン、どうせ寝とったくせに。あの子供の面倒はわしが任されておるんじゃ。2人共わしが片付けてやる。お前はその辺で二度寝しておれ!」

…落ちてきてから、カクとジャブラは喧嘩していた。

どうやら元々、仲があまり良くないらしい。

終わらない言い合いにイラつき、ゾロは刀を構えた。

「おい、キリン」

「「?」」

カクだけでなくジャブラも振り向く。

「いつまで言い合ってんだ。俺には時間がねぇと言ったはずだぞ。そのままでいいなら、そのまま斬らせてもらう」

「…フン、愚かな。キリンが持つ底知れぬ破壊力を、甘く見るな?」

「ぁあ?」

「変形…人獣型」

カクの体が縮み始める。

完全にキリンだった姿が、だんだん人間に近づいていった。

「見せてやろう、生まれ変わったわしの姿」

そうして、カクは人獣型へ変貌を遂げた…

「な…っ」

ゾロは予想外の見た目に目を見開く。

そして無意識に一言、感想を述べていた。






「カッコわるっ!!」






「ガビーン!? 貴様っ、今…っ」


カクは何故か、全身四角いキリン人間になっていた。

(しまった……なんて浅い台詞を吐くんだ俺はっ……あまりの衝撃につい口をついて出ちまったっ…。…心を乱すなっ、剣が鈍るっ)

「ぶふっ、ぎゃははははっ! おいカク! 何だそのフザけたカッコは!」

ジャブラが腹を抱えて笑い出す。

「んなっ、わしはコレけっこう気に入っとるんじゃ!」

「マジかよ! お前どーいう神経してんだ!! ぎゃははははははっ!」

「いつまで笑ろうとるんじゃジャブラ!」

「はははっ、
ははっ、わ、悪りぃっ」

ジャブラは懸命に笑いを押さえこんだ。

…しかし。


"ピクピク"


大きなキリンの耳が動くと…

「ぶっ、ぎゃははっ、やっぱダメだ!」

その笑い声に、ゾロもどうしても心を乱されてしまう。

(しっかし面白れぇ……何故ああも四角が反映されてんだ?)

と、そのとき。


"ヒュルルル……カシャン!"


「なにっ!?」

ゾロの右手首に分厚い手錠がはめられた。

「のぉぉっしまったぁ! すまないゾロ君!」

「おい! 何の真似だテメェ!」

「い、いやっ、さっきそこで開けっ放しの金庫を見つけてだね! 中にロビン君がつけていたのと似た手錠があったから、ティオ君に確認を取ったところ、やはりそれは海楼石の手錠らしい!」

ゾロがティオを見れば、部屋の壁に背を預けて座り、頬を膨らませてプルプルしている。

目は無表情だが、頬が紅潮し、口元が歪みかけているところを見ると、笑いをこらえているようだ。

…周囲に何故か小鳥やニワトリが大集合しているが、この際、無視だ。

ゾロはそげキングに視線を戻す。

「その海楼石の手錠とやらを何で俺にはめてんだ馬鹿野郎!」

「い、いやっ、あの2人が能力者だからはめてやろうと思ったんだが、つい手元が狂って…ぶふっ、なははははっ、あのキリンの顔が面白すぎて! 四角尽くしのキリンなんて見たことねぇよ! あははははははっ!」

ジャブラが同意してさらに笑った。

「ちげぇねぇ! だぁーっはっはっはっ!」

「ぐぬっ……おのれっ、どいつもこいつも! 能力者の戦闘力、味わうがいい!」

怒りに満ちたカクは、左手一本を地面について、体を回し始めた。

体の回転が、嵐のような竜巻を生み出す。


"ズオオオオォォォォッ…"


嵐脚(ランキャク)周断(アマネダチ)!」


「こりゃヤバイ…っ」

ジャブラは危険を感じて、(ソル)月歩(ゲッポウ)の連用で空中へ逃げた。

ゾロも危険を感じ、ティオに叫ぶ。

「おい! 伏せとけ!」

ティオは即座に反応して、コテっと横に倒れた。

ゾロはボケっと立っているそげキングに突っ込み、無理矢理伏せさせる。

次の瞬間―――




"ズドォォンッ!"




 
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