シザンサス

□21,ゾロVSカク
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少し遡って、数分前。

「…くそっ、ここはどこなんだっ、誰もいねぇじゃねぇか!」

仲間たちと別れたゾロは、カクの元を目指して走っていた。

…が、桁外れの方向音痴である彼が辿り着けるわけがなく、塔の中を走り回っていた。

「また行き止まりかっ」

何度も目の前に現れる壁。

ゾロはもと来た道を戻ろうと後ろを向いた。

そのとき…



「ああああああっ!!」



…小さな、しかし尋常ではない叫び声が聞こえた。

「……」

ゾロは眉間のしわを1つ増やして、駆け出した。

声のした方へ、ただまっすぐに進む。

10秒も走れば、一際(ひときわ)大きな扉の前に辿り着いた。

本能が、ここだと教えている。

ゾロは迷うことなく扉を切り崩した。


"スパッ……ドゴォッ"


「はぁ…ったく、迷路かここは。分かりづれぇ建物だな」

吹き飛んだ扉が、落ちた先。

見覚えのある四角っ鼻と、よく見知った金髪のチビッ子。

「…ぞろっ」

青ざめて、様々な感情が入り混じった顔が、名前を呼んだ。

…傷だらけで血にまみれた、真っ赤な細足。

左足に至っては、本来は曲がらない部分が、変な方向に曲がっている。

「ほう…お前さんが来たか」

カクがニヤリと口角を上げた。

ゾロは眉間にしわを寄せたまま、表情を変えない。

「そこのチビと、チビの首輪の鍵、ロビンの手錠の鍵……やられる前に渡すか?」

「愚問じゃ。…分かっておろう?」

"ジャラ…"

「……っ」

カクは鎖を引っ張り、ティオを立たせた。

ティオはかろうじて無事な右足で立つ。

血が噴き出し、床に染みを作った。

「隅へ行っとれ。巻き添えで死なれてはかなわん」

鎖が手放される。

…本当なら、すぐさまゾロの元へ駆け寄りたかった。

けれど、それは許されないだろう。

きっと走り出そうとした瞬間に足を切り落とされてしまう。

「……」

ちらりとゾロを見ると、まっすぐに目を合わせ、小さく頷いてくれた。

助けてやるから無理するな、と言われた気がする。

ティオは左足を引きずり、部屋の隅まで行くと、角にハマるように座った。

「さて…」

カクは椅子に立てかけていたもう一本の刀を手に取り、ゾロの真正面に立つ。

口元には笑みが浮かんでおり、楽しそうだ。

「ガレーラの屋敷ではお前の真の実力を見られず、残念に思うとった。まさかここまで海賊がやってくるとは、思いもよらんしのう」

「…あの時より数段強ぇんで、気をつけろ」

「…じゃろうなぁ。気が満ちとる。…魔獣のような気がなぁ」

刻々と刺すような鋭さを帯びる部屋の空気。

「恐ろしい男じゃ。…が、わしの剣術もCP9随一の実力。甘く見るなよ?」

「……二刀流か」

「いいや?」

カッと二本の刀を床につき、体を支え、両足を振り抜く。


"シュォ…ッ"


繰り出された二撃の斬撃を、ゾロは両手の刀でそれぞれ弾いた。


"ガキィンッ…ドゴッ"


弾かれた斬撃は部屋の壁を崩す。

「悪いがわしは、四刀流じゃ」

ゾロは三本目の刀を口にくわえ、嬉々とした表情で身構えた。

「問題ねぇよ。全身武器だもんなぁ、そういや…」

"シュダッ"

力強く踏み込み駆け出したゾロ。

2人の距離が20cmほどになったとき、カクの姿が消えた。

常人なら見失うその姿を、ゾロはしっかり目と感覚で追って、背後からの攻撃を受ける。

"ガキィンッ"

ギリギリと鳴る刀。

2人は膠着状態に入った。

「……」

「……」

互いの隙を探るように睨み合う。

そしてどちらからともなく斬りかかった。


"ガッ、キィンッ、ガッ、ガッ"


一撃ごとに余波で空気が震える。

嵐脚(ランキャク)白雷(ハクライ)!」

「七十二煩悩鳳(ポンドホウ)!」


"ズガァンッ!"


大技のぶつかり合いで砂煙が起こる。

「……(ソル)

「!」

"ガキンッ"

死角からの攻撃を、ゾロは左の刀を半回転して床に突き刺すことで受けた。

その体勢から右の刀を振り抜く。

"キィン…ッ"

カクは斬撃を刀で受けて後ろに跳んだ。

その一瞬を見逃さず、ゾロは刀二本を横一文字に振り抜く。

「……っ」

"フォンッ"

カクは身を反らし、ギリギリでかわした。

服の端が切れて宙を舞う。

カクにはそれが、一瞬だけスローモーションのように見えた。



…部屋の隅で2人の戦いを見るティオは、無意識に目を見開いていた。

戦いのレベルの高さに、ではない。

ゾロがカクと対等に渡り合っていることに驚いていたのだ。

CP9を相手にこれほどまで…



「…ははっ、ははははっ、楽しいのう!」

久々に実力のある敵に会えたからか、カクは興奮を押さえ切れない様子。

対してゾロは、仏頂面で刀の切っ先をカクに向けた。

「俺には楽しむ暇なんかねぇ」

「…なら、わしを仕留めることじゃ」

"シュッ、カッ、カッ"

(ソル)で消えたカクは天井に刀を刺し、それに掴まった状態で足を振り抜いた。


嵐脚(ランキャク)(ラン)!」


"シュバババババババババババッ"



「!」


繰り出される無数の斬撃が、ゾロを襲った。

「…くっ」

"ガガガガガガガガッ"

的確に、一撃一撃を刀で弾いていく。

外れた斬撃と弾かれた斬撃、全てが部屋の壁や床を崩した。

斬撃を全て防ぎ切ったゾロは、軽く息を切らせながらカクを睨みつける。

「…テメェ、俺をナめてんのか。その程度で殺れるわけねぇだろ」

「いや〜ぁさすがじゃぁ。…そんなに急ぐんなら、見せてやろう? わしの新しい力…」

「!」

ぐにゃりと、カクの影が揺らぎ、その姿が変わり始めた。


…そのとき。



"ピシッ…ピキィッ"


壁や床が小さく鳴り始めた。

そして…


"ガラッ"


カクを中心に床が崩れ始める。

どうやら体が重くなったことで、崩れかけだった壁や床が耐えられなかったようだ。

「ぬぁっ、しまった! 床が!」

カク自身、これは想定外だったらしい。

「…ヤバイっ」

小さく叫んだゾロは、左手の刀以外を鞘に収め、一直線にティオの元へ走った。

ティオは立ち上がって壁に背をぴったりつけて、どうしたものかと足元を見てそわそわしている。

刻一刻と亀裂が増え、今にも崩れそうだ。

首輪さえなければ、(ソル)で逃げることも、鳥に変身することも出来るのだが…

「ティオ!」

「?」

呼ばれた方を見れば、ゾロが走りつつ空いた右手を伸ばしていた。

「早く来い!」

「…ぞろっ」

ティオは右足だけで力の限り踏み込み、跳んだ。

ゾロは飛んできた小さな体を抱きとめ、細い腰に右腕を回す。

そして、床が崩れて出来た穴から、下の階を見下ろした。

「…しっかり掴まってろ?」

「(コクン)」

ティオはゾロの首に腕を回し、抱きつく。

…何故か、こんな状況にも関わらず、心が落ち着いた。


"ガラッ"


限界が来たのか、ゾロの足元が崩れ始める。

ゾロは表情を変えずに下の階を見つめ、崩れていく瓦礫を一つ一つ飛び移り、下へと降りていった。

「…よっ、と」

タンっ、と無事に下の階に辿り着く。

足元は、屋内なのに何故か芝生。

まるで外のようにガーデニングされたその部屋では、小鳥が飛び、ニワトリが闊歩(かっぽ)していた。

 
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