シザンサス
□21,ゾロVSカク
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そうして、麦わら一味がフクロウと対峙していた頃。
塔のとある一室、カクの個室では…
「ほれ、プルトンの設計図を描け」
テーブルを前に正座させられたティオが、目の前に紙とペンを置かれていた。
海楼石の首輪から伸びる鎖の先は、カクが持っている。
「……」
ティオはどうすれば逃げられるかと、頭をフル回転させていた。
椅子に腰掛け足を組んだカクは、眉をひそめて訊いてくる。
「何してる。…まさか、まだ逃げようなどと思ってはおるまいな?」
「……」
「無駄じゃ。たとえ奴らがここまで来ようとも、わしには勝てん。他のCP9の元に行ったところで同じじゃ。…分かったら描け」
鋭い瞳に見下ろされ、ティオは本能的に恐怖を感じる。
…しかし。
「……かか、ないっ」
きっぱり言い切り、鎖の長さが許す分だけ、カクから距離を取った。
カクは表情を変えずに立ち上がる。
「時間稼ぎでもしとるつもりか?」
"ジャララ…"
カクは鎖を片手にくるくる巻き取りながら、ティオに一歩一歩近づいていった。
伸びている鎖の長さがどんどん短くなる。
ティオは自分側に鎖を引っ張って逃げようとするも、カクの力には敵わなかった。
海楼石のせいで、いつも以上に力が出ていないのだ。
…やがて、目の前まで来たカクに、顔を片手で鷲掴みにされ、持ち上げられる。
「……っ」
軽いティオの体は簡単に浮いた。
ティオは小さな手で、顔を掴むカクの手を掴み、足をばたつかせ、力の限りもがく。
「お前を殺すわけにはいかん。じゃが、わしら殺し屋にとって、殺さず従わすことは難しくてのう。…大人しく描いてくれんか?」
「……や、だっ」
「…強情な子供じゃ。…それもいつまで続くか」
"パシュッ"
「…っ」
右足首に感じた、鋭い痛み。
目だけ動かして下を見れば、パックリと皮膚が裂けて血が流れている。
「設計図を描くのに、手は必要じゃが、脚は必要ないからのう」
ティオはゾクっとした。
"シュシュシュシュシュシュシュッ"
「ひ……ぅ…っ」
一瞬で脚に刻まれた、無数の赤い線。
傷の一つ一つが痛みと熱を持つ。
耐え難い痛みに、ティオはカクの手を掴む両手に力を籠める。
「わしゃいたぶる趣味は持っとらん。設計図さえ描けば、これ以上は何もせん」
カクはティオを掴み上げたまま、テーブルまで戻ってきた。
紙とペンの前にドサッと降ろす。
その衝撃で、傷という傷から血が吹き出し、激しく痛んだ。
「ぁ、ぐ…っ」
「描け」
カクは床に垂れ下がった鎖を踏み、必要以上にティオが首を上げられないようにする。
もちろん立つことなど出来ない。
…それでもティオは、痛みで朦朧とし始める意識の中、首を横に振った。
「…ぜ、たいっ……かか、な、いっ」
「……」
カクは無表情ながらも鋭い瞳で見下ろす。
そして…
"バキッ"
「ああああああっ!!」
ティオの左足の骨を踏み砕いた。
「はっ……はぁっ……ぁ…………っ」
想像を絶する痛みに、自然と涙が滲む。
「…あと1回拒めば、二度と歩けんようにするぞ?」
カクは椅子に立てかけてあった二本の刀のうち、一本を手に取る。
スラリと抜かれた刀身は、照明の光を反射した。
…脚を切り落とすつもりのようだ。
確かに、万一ここで奴隷のように生活するようになれば、歩けなくともどうにかなる。
脚は要らないのだ。
「…はっ、はぁっ、はぁっ」
ティオは目を見開き、冷や汗をかきながら、恐怖と意思の間で揺れていた。
…脚を切り落とされるなんて嫌だ。
けれど、設計図も描きたくない。
…どうする、どうすればいいっ
無意識に早まっていく頭の回転。
頭が真っ白になるほど早まった挙句、ある人物の後ろ姿が脳裏に映し出された。
特徴的な、緑の髪―――
(……たす、けてっ)
その人物を無意識に探して、見聞色の覇気が広がる。
「!」
ティオは目を見開いて部屋の扉を見た。
次の瞬間―――
"スパッ……ドゴォッ"
爆発音と共に、扉が飛んできた。
砂の混じった爆風が、長い金髪を揺らす。
「はぁ…ったく、迷路かここは。分かりづれぇ建物だな」
たった2日しか離れていなかったのに。
何だかずっと離れていたような気がして、低い声がいつも以上に耳の奥まで響いた。
「……っ」
よく分からない感情がいくつもこみ上げて、少し呼吸がし辛くなる。
そんな感情を全て乗せて、たった一言、ティオは零した。
「……ぞろっ」