シザンサス
□21,ゾロVSカク
4ページ/13ページ
「ふう……空島で散々落ちたからな。二度も同じ轍は踏まねぇ」
「…ぞろ、そらじまで、2かい、おちてる。にどめの、てつ、ふんでる」
「っ……るっせぇなぁ! さっきまで青い顔してたくせに何ケロっとしてんだよ」
ティオはゾロの頬を左右に引っ張った。
「…めの、さっかく。……わすれ、ろ」
「いででででっ、放へっ!」
束の間の平穏でジャレている間に、周囲の土煙が晴れていった。
すると…
「ぅえっ!? ゾロにティオ!?」
ちょっと間の抜けた声が聞こえてくる。
「ん、何だ。いたのか、そげキング」
「……そげ、きん、ぐ?」
ティオは首をかしげ、ゾロとウソップを交互に見る。
ルフィとウソップの大喧嘩を知らないため、ウソップが仮面を被って『そげキング』と名乗っている理由が分からないのだ。
「かぁ〜っ、しまったぁ! 人獣化で止めるはずが、間違ってキリンになってしもうた! まだ細かいコントロールが出来んのう…」
カクが何やら呟きながら身を起こす。
その姿は完全なキリンになっていた。
「おい何やってんだカク! 俺のテリトリーに踏み込んできやがって!」
そう言って突っかかるのは、狼人間と化したジャブラ。
2人を見て、ゾロは半目でまばたきを繰り返した。
「何だココは。動物園か? あのハト野郎といい、CP9ってのはそういう集まりなのか?」
「…ちがう。どうぶつ、なるの、3にん、だけ」
「ふーん。……おい、そげキング、コイツ見てろ」
「へ?」
ゾロはウソップ目掛けてティオを投げた。
「ひぁ…っ」
「うぇえぇえっ!? ちょちょちょい!」
パシっと、ウソップは何とかティオを抱きとめる。
「あっぶねぇだろゾロ! 万一にも落としたらどーすn…って血だらけじゃねぇか!」
ツッコミの要領で目まで飛び出させるウソップ。
「あーあー骨まで折れちまってるし…。あのキリンにやられたのか?」
「(コクン)」
「そっかぁ。…痛そうだなぁ」
ウソップはティオをそっとその場に下ろし、鞄の中を探った。
適当に見つけた2本の棒らしきものを、布の切れ端でティオの折れた足に固定していく。
「とりあえず固定だけな。悪りぃが包帯は持ってねぇんだ。あとでチョッパーに診てもらおうぜ?」
「(コクン)…ありが、と。……ところで、うそっぷ、その、かめん、なに?」
「へ? ……ぅぉおっとぉっ!」
ウソップはそげキングとして演じ忘れていたことを思い出した。
「おっほん、初めましてティオ君。私は狙撃の島からやって来た無敵のヒーロー、そげキングだ。ウソップ君の親友なのだよ」
わざとらしくそう言って、握手を求めてティオに手を差し伸べる。
ティオは半目で首をかしげながらも、その握手に応じ、触れた手から記憶を読み取った。
「!」
何があったのかを知り、目を見開く。
…メリーを賭けた、ルフィとの決闘。
イースト・ブルーから連れ添った仲間たちとの、決別。
苦しくて、悔しくて、悲しくて…
ボロボロになった体よりも、心の方が何万倍も痛かったこと…
…そんな辛い記憶が、一瞬でティオの頭の中を駆け巡る。
ティオはいつもの無表情を作って、そげキングを見上げた。
そげキングは、記憶を読まれたことには気づいていないようだ。
「…よろし、く、そげきんぐ」
ここに来るまで、仲間たちは気を遣って、ウソップと分かっていながらそげキングとして接していたらしい。
…ルフィとチョッパーは、本気でウソップの親友だと思っていたようだが。
ならば、自分もそれに乗るしかない。
…乗らなければ、ウソップが何だか可哀想で見ていられない気がした。
「あのガキ奪られてんじゃねぇか! 何やってんだカク!」
「奪られてはおらん。少しばかり、奪い返せる希望でも見せてやろうと思ってのう」
「嘘つけ! テメェがンな回りくどいことするタマか! ……まぁいい。ここは俺のテリトリーだ。ここに落ちてきたからには、2人とも俺が仕留めて、あのガキも俺が取り返す。テメェは消えろ!」
「フン、どうせ寝とったくせに。あの子供の面倒はわしが任されておるんじゃ。2人共わしが片付けてやる。お前はその辺で二度寝しておれ!」
…落ちてきてから、カクとジャブラは喧嘩していた。
どうやら元々、仲があまり良くないらしい。
終わらない言い合いにイラつき、ゾロは刀を構えた。
「おい、キリン」
「「?」」
カクだけでなくジャブラも振り向く。
「いつまで言い合ってんだ。俺には時間がねぇと言ったはずだぞ。そのままでいいなら、そのまま斬らせてもらう」
「…フン、愚かな。キリンが持つ底知れぬ破壊力を、甘く見るな?」
「ぁあ?」
「変形…人獣型」
カクの体が縮み始める。
完全にキリンだった姿が、だんだん人間に近づいていった。
「見せてやろう、生まれ変わったわしの姿」
そうして、カクは人獣型へ変貌を遂げた…
「な…っ」
ゾロは予想外の見た目に目を見開く。
そして無意識に一言、感想を述べていた。
「カッコわるっ!!」
「ガビーン!? 貴様っ、今…っ」
カクは何故か、全身四角いキリン人間になっていた。
(しまった……なんて浅い台詞を吐くんだ俺はっ……あまりの衝撃につい口をついて出ちまったっ…。…心を乱すなっ、剣が鈍るっ)
「ぶふっ、ぎゃははははっ! おいカク! 何だそのフザけたカッコは!」
ジャブラが腹を抱えて笑い出す。
「んなっ、わしはコレけっこう気に入っとるんじゃ!」
「マジかよ! お前どーいう神経してんだ!! ぎゃははははははっ!」
「いつまで笑ろうとるんじゃジャブラ!」
「はははっ、ははっ、わ、悪りぃっ」
ジャブラは懸命に笑いを押さえこんだ。
…しかし。
"ピクピク"
大きなキリンの耳が動くと…
「ぶっ、ぎゃははっ、やっぱダメだ!」
その笑い声に、ゾロもどうしても心を乱されてしまう。
(しっかし面白れぇ……何故ああも四角が反映されてんだ?)
と、そのとき。
"ヒュルルル……カシャン!"
「なにっ!?」
ゾロの右手首に分厚い手錠がはめられた。
「のぉぉっしまったぁ! すまないゾロ君!」
「おい! 何の真似だテメェ!」
「い、いやっ、さっきそこで開けっ放しの金庫を見つけてだね! 中にロビン君がつけていたのと似た手錠があったから、ティオ君に確認を取ったところ、やはりそれは海楼石の手錠らしい!」
ゾロがティオを見れば、部屋の壁に背を預けて座り、頬を膨らませてプルプルしている。
目は無表情だが、頬が紅潮し、口元が歪みかけているところを見ると、笑いをこらえているようだ。
…周囲に何故か小鳥やニワトリが大集合しているが、この際、無視だ。
ゾロはそげキングに視線を戻す。
「その海楼石の手錠とやらを何で俺にはめてんだ馬鹿野郎!」
「い、いやっ、あの2人が能力者だからはめてやろうと思ったんだが、つい手元が狂って…ぶふっ、なははははっ、あのキリンの顔が面白すぎて! 四角尽くしのキリンなんて見たことねぇよ! あははははははっ!」
ジャブラが同意してさらに笑った。
「ちげぇねぇ! だぁーっはっはっはっ!」
「ぐぬっ……おのれっ、どいつもこいつも! 能力者の戦闘力、味わうがいい!」
怒りに満ちたカクは、左手一本を地面について、体を回し始めた。
体の回転が、嵐のような竜巻を生み出す。
"ズオオオオォォォォッ…"
「嵐脚・周断!」
「こりゃヤバイ…っ」
ジャブラは危険を感じて、剃と月歩の連用で空中へ逃げた。
ゾロも危険を感じ、ティオに叫ぶ。
「おい! 伏せとけ!」
ティオは即座に反応して、コテっと横に倒れた。
ゾロはボケっと立っているそげキングに突っ込み、無理矢理伏せさせる。
次の瞬間―――
"ズドォォンッ!"