シザンサス

□17,ウォーターセブン
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そんなことを思っていると。

「お前は行かねぇのか?」

隣にゾロが立った。

ティオは半目で小さなあくびをする。

「……ねむい、から、いい」

「ふーん」

ゾロは船首の欄干に歩み寄った。

その後ろを、ティオが当然のようについていく。

やがて、いつもの昼寝スタイルが完成した。

何だかんだ、ティオが眠いと言うとゾロは昼寝する。

まるで、ティオに寝る場所を提供するように。



「……あれ? ロビンちゃんもいなくなっちゃったのか」

微睡むティオの意識の隅に、サンジの呟きが引っ掛かった。

甲板から船首へ、階段を昇る足音も聞こえてくる。

「おい、ゾロ」

相手がゾロのためか、不機嫌そうなサンジ。

「ん……ぁあ?」

「ロビンちゃんは?」

「チョッパーと出掛けたぞ」

「何っ!? じゃあ船にいるのはこの3人なのか! ……ティオちゃんと一緒なのは嬉しいが、寝ちまってるし……」

「いーや、起きてるぞ。なぁ?」

「……ん」

半分眠りかけの小さな返事。

「おっと、起こしちまったか。ごめんな、ティオちゃん」

「んーん……だいじょ、ぶ…」

「ついでに悪いんだけどさ、食材買いに行くのにオススメの店とか分かるかな」

「……わかる、よ」

ティオはうっすら目を開けて、むっくり体を起こした。

ゾロの膝の間から抜け出て、床板の上で本日3枚目の地図を描く。

「やさいと、くだもの、このへん……にく、ここと、ここ……さかな、はんい、ひろい。このへん、ぜんぶ、さかな……ちょうみりょう、いちばん、しゅるい、あるの、ここ」

「お〜、助かるよ」

「まち、はいったら……」

「地図を貰って重ねて見るといいんだよな? ナミさんと話してたことは聞こえてたから大丈夫だ。ありがとな」

「おいしい、の、かってきて、ね?」

「あぁ、任せときな」

サンジはしゃがんでティオの頭を撫でた。

ティオは心地よさそうに目を閉じる。

「それじゃ、行ってくる」

ゆらりと立ち上がったサンジは、そのまま船を降りていった。

「いって、らっしゃい……。……ふぁ」

ティオはもう一度ゾロの膝の間に滑り込み、定位置に頭を預ける。

「アホコックは行ったのか?」

「……ん」

「ふーん」

「……」

「……」


……それから、メリー号は静けさに包まれた。


ほんの5分だけだったが。

「……おい」

「?」

突然ゾロに声を掛けられ、ティオは片目を薄く開けた。

「寝ねぇのか?」

「……」

どうやらゾロは、ティオが寝ていないのを気配で感じ取ったらしい。

いつもならティオは1分とかからず眠りに落ちる。

5分も寝ないでいるなんて初めてだ。

「寝ねぇっつーより、寝れねぇ、か」

「……」

「あの青キジとかいう海軍大将と会ってから、変だからな、お前」

「……」

「……何とか言えよ」

ティオは、おもむろにゾロの手を引き寄せ、自分の頭に乗せた。

「……なで、て」

「はぁ?」

「いいから……なで、て」

何なんだよ。

ゾロは眉をひそめて、少し荒っぽくティオの頭を撫でる。

ティオは目を閉じて、しばし撫でられる心地よさを味わった。

やがて、ポツリと物騒な言葉を漏らす。

「……きっと、あらし、くるよ」

「あ? ……晴れてんじゃねぇか」

「……きを、つけて」

「だから、どこが嵐になる天気なんだよ」

「………すぅ……すぅ……」

「……ンの野郎、今度はいきなり寝やがって」

狸寝入りかと疑ったが、起きている気配は感じられない。

ゾロは不服そうな顔で、頭を撫でていた手を止めた。

「……」

水平線の向こうまで見やっても、嵐が来そうな天気ではない。

何より、そんなことが分かればナミが飛んで帰ってくるはず。

……ということは、"嵐"という言葉に別の意味がある。

「……めんどくせぇ」

ゾロは頭を掻いてあくびをした。

もともと考えることは得意じゃないのだ。

そのうちに、まぁいいかと思えてきて、意識は暗闇へと沈んでいった。

 
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