シザンサス

□17,ウォーターセブン
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言われた通り、メリー号は水路を抜けて、街はずれの岬へやってきた。

「うわー……なんもねぇな」

「だからいいんだろ?」

ゾロが慣れた手つきで碇を降ろす。

続いて帆を畳むためにロープを引っ張った。


"ズルッ、ズルッ、ズッ、バキッ!"


「「「!?」」」


嫌な音がして、全員が振り返った。

すると、ゾロの両手が、ポッキリ折れたマストを何とか支えている。

「ななな、何やってんだオメェェェ!」

ウソップがこれでもかと目を飛び出させた。

「ちがっ……俺はただロープを引いただけで」


"ギギギギ…ッ"


ゾロは驚異的な腕力で、何とかマストを押し戻した。

「驚いた……ここまでガタが来てたのか、メリー号」

みんながアワアワと折れたマストを見つめるなか、ティオはメリーの顔を見つめた。

「……」

いつもの無表情にさらなる影が落ちる。

「ところで、島の人たちは何で海賊を恐れないのかしら」

ナミが誰にということもなく尋ねた。

「海賊だって客だからだろ? 造船所の」

「海賊に暴れられても構わないくらい、強い用心棒がいるのかもしれないわよ?」

「いるだろうなそれぐらい。これだけの都市だ」

「いるだろうな、っておいサンジ! ヤベェじゃねぇか! 俺たちを襲ってきたらっ……」

「ヤバくねぇだろ、俺たちは客なんだから」

メリーを見つめていたティオがみんなの方へ振り返る。

「うぉーたーせぶん、いま、ぞうせんがいしゃ、1つだけ。まえに、7つあったけど、いまのしゃちょうが、1つにした。そこには、たたかえる、だいく、なんにんも、いる。だから、まちのひと、かいぞく、おそれない。そして、わるさ、しなければ、だいく、かいぞく、おそわない」

「そうなんだ。相変わらずよく知ってるわね。助かるわ」

「はぁ、よかった。静かにしてりゃ何も問題はねぇってことか。……そんじゃ、ルフィ?」

「おう! 行くか、ウソップ!」

ルフィとウソップが我先にと船から降りる。

「「行ってきま〜す!」」

早速街へ駆け出していった。

しかし……

「待って、ルフィ、ウソップ」

ナミに声を掛けられると、急ブレーキで止まる。

「ん、どした?」

「何だよナミ」

「アンタたち、あたしについてきて」

「どこ行くんだ?」

「まずはココロさんの紹介状を持って、アイスバーグさんって人のところへ。その人を頼って、船の修理の手配と、あと、どこか黄金を換金してくれるところを探さなきゃ」

「あ〜、そっか!」

ナミはティオの方へ振り返った。

「ねぇティオ、アイスバーグさんって……」

知ってるかと訊きかけて、目を見開いた。

ティオはいつの間にか紙を持ってきて、簡易的な地図を描いてくれていた。

その絶妙なタイミングに、ナミは思わず頬を緩めてティオに抱きつく。

「んも〜っ、大好き!」

「うぐ……」

ティオはナミの豊満な胸に潰されかけた。

「あいすばーぐ、さっきいった、ぞうせんがいしゃの、しゃちょう」

「えっ、確か造船会社って、この島に1つしかないのよね?」

「(コクン)」

「ってことは、7つの造船会社をまとめ上げた敏腕経営者ってこと!?」

「(コクン)…あいすばーぐ、げんざい、せかいいちと、いわれてる、ふなだいく。そして、うぉーたーせぶんの、しちょう」

「市長も兼任って……どんだけ凄いのよ」

「だれからも、そんけいされる、すごい、ひと。……ちょっと、わがまま、だけど……。あえば、わかる」

ティオは描いた地図を渡した。

そして岬から街への入り口を指さす。

「まちの、いりぐち、かしぶるや、ある」

「カシブル?」

「ぶる、かして、くれる」

「ブルって?」

「うぉーたーせぶん、みずのうえ、いどうするほうが、りく、いくより、はやい」

「そういえばそうね。水浸しだし」

「ぶる、は、やがら、という、さかなが、みずのうえ、ひと、もの、はこんでくれる、のりもの。ばしゃ、だと、おもって」

「馬車……水の上でいろいろ乗っけて運んでくれるのね?」

「(コクン)…かしぶるやで、ぶる、かりて、かんきんして、ぞうせんじょ、いくといい」

ティオは描いた地図を、下の方から順に指さした。

造船所はウォーターセブンの中でも上の方にあるようで、そこまで登る途中に換金できるところがあるらしい。

「かしぶるや、ちず、くれる。それと、このちず、かさねて、みて。ぴったり、なるよう、かいてある」

「へぇ〜すごいわね。そんな正確な地図が描けるなんて」

「いちど、みたもの、わすれない」


キラーン。


ティオのドヤ顔が炸裂した。

「とにかくありがと! 行ってくるわ」

「ん。いって、らっしゃい」

ナミはルフィとウソップに黄金を持たせ、貸しブル屋へと歩いていく。

ティオは3人の背中に手を振った。

一方、遠ざかっていく3人の背中を見つめるチョッパーは、項垂れている。

「なんか、行きそびれちまった……」

隣へロビンがやってきた。

「なら、一緒に出掛けましょうか」

「え、いいのか!?」

「えぇ、もちろん。ティオはどう? 一緒に行く?」

「ねむい、から、ふねで、ねてる……ふぁ」

「そう、分かったわ」

「なぁティオ! 本屋はあるか!?」

「(コクン)…いっぱい、ある。ろびん、と、ちょっぱーには、ちょっと、まにあっくなとこ、ちょうど、いい」

そう言って、ティオは眠たそうな目で地図をもう一枚描く。

「この3つ、おおきい、ほんや。この4つ、ちょっと、まにあっく。まち、みながら、いろいろ、まわると、いい」

「まぁ、本当に上手な地図ね。ありがとう」

「すげぇ、ルフィ並みだったあの地図とは大違いだ……」

「くわしい、ちず、どこでも、もらえる。なみちゃん、たち、みたいに、かしぶるやで、もらっても、いい」

「ふふっ、分かったわ、ありがとう」

「それじゃ、行ってくるぞ!」

「ん、いってらっしゃい」

ティオは再び、手を振って送り出した。

「……」

ゆらゆらと振れていた手は、やがて失速してダラリと落ちる。

それでもまだ、ティオは2人を、主にロビンを見つめていた。


(……なにも、ないと、いいな)


限りなく低い確率だけれど……

 
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