アゲラタム
□第一巻
7ページ/15ページ
4、白澤
あの世絶景百選の一つ、桃源郷。
「誘ってくれてありがとう! 鬼灯様!」
鬼灯の足元で、シロがぴょんぴょん跳ね回った。
「ちょうど何件か用事もありましたから、ついでです」
「桃太郎元気かな〜」
「以前様子を見に伺ったときは、元気でやっていましたよ。天職だと感謝されました」
椿は辺りを見渡して満足げな顔をする。
「久々に見たけど、やっぱ綺麗なとこだな。昔からあんま変わってねーし」
「でしょうね。地獄と違い、天国は初めから完成された場所ですから。改善する場所なんてそもそもありません」
「薺の奴、元気でやってっかな。あの色魔に泣かされてなきゃいいけど」
「あの時以来会ってないんでしたっけ?」
「あぁ。ざっと800年ぶりになるな」
「ご本人は、毎日いたって楽しそうに薬を作ってますよ」
「"ご本人は"って何だよ、なんか気になる言い方だな」
……今日は、椿が休みで、鬼灯も午前のみ仕事が入っていた。
午後、鬼灯が注文した薬を取りに『極楽満月』へ行くついでに、椿は薺に、不喜処トリオは桃太郎に会うため、一緒に行くことになったのだ。
話しながら歩くうち、一行は少し小高い丘の上にやってくる。
眼下の絶景に、三匹が目を輝かせた。
「わぁ! さすが観光名所!」
「建物は中華風だな…」
「ここは日本と中国の境にあるので、双方の交易の場にもなっています」
「へぇー。じゃあ小籠包食べ放題?」
「……何で中国=小籠包食べ放題になるんですか。そんな場所に椿さんを連れていくわけないでしょう。赤字になるお店がかわいそうです」
「あ、そっか」
「おいお前ら、さらっと失礼なこと言ってんじゃねぇぞ」