シザンサス

□5,スカイピア
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「チョッパー、コイツ診てやってくれ」

「?」

パガヤたちの家まで上ってきたゾロは、チョッパーに声をかけた。

キョトンとした目が振り返る。

「ティオ!? どうしたんだ!?」

「知らねぇよ。ちょっと前から真っ青な顔してたぜ?」

「あら、大変! こちらへ!」

コニスに従い、ゾロはティオをソファにそっと寝かせた。

「ん? どしたんだ〜?」

「ティオのやつ、具合悪いのか?」

「さっきまで普通だったけど」

ティオは焦点の合わない目で、どこかを朧気に見たまま動かない。

「……これはたぶん、高山病だよ」

チョッパーはリュックを引き寄せ、開ける。

「そういえばここ、上空10000mだったわね。病気になる方が普通なのかもしれないわ」

「……良かった。まだ命の危険はない。このまま安静にして症状が収まれば、大事には至らないよ」

「ふ〜ん」

ゾロはティオの頭側に座って、眠そうにあくびをした。

「とりあえず薬を飲ませてみよう。良くなるかもしれない」

チョッパーはリュックから錠剤を取り出す。

「あの、大丈夫ですか?」

コニスが心配そうな表情で、コップ一杯の水を持ってきた。

「あぁ。今のところは大丈夫。水、ありがとな!」

「いえ、何かあったら言ってくださいね? できる限り力になりますから」

それなら、と、ロビンがコニスに微笑みを向ける。

「ティオを休ませてる間に、ダイヤルのことを教えてもらえるかしら?」

「あ、はい。……そうですね、どう説明しましょうか」

コニスは部屋をぐるりと見渡し、部屋の一角にあった貝殻をルフィに渡した。

「ん? 何だ? ただの貝殻じゃねぇか」

「はい。それに向かって、何か喋ってみて下さい」

「よしっ、ん〜……ウソップの、アホ〜!」

「いや何でオレだよ!」

「ふふっ、じゃぁ、その貝の殻長を押してみてください」

「な、なに? カクチョウってなんだ?」

「殻のテッペンだろっ」

ウソップが代わりに殻長を押す。

すると……


『ウソップのアホ〜! いや何でオレだよ!』


「うわっ! ウソップが貝に馬鹿にされた!」

「いやいやお前の声だよ! なんか俺の声も入ってるし!」

「へぇ、すげぇな。音を記憶したのか」

「それがダイヤル?」

「はい。これはトーンダイヤル。音を録音・再生する習性のある貝です」

「だがよ、この海には海底がねぇんだろ? 貝なんかどこに住んでんだ?」

「……あさせ、に、いる。……そらじま、も、すこし、かいてい、ある、から……」

途切れがちの小さな声。

少し落ち着いたのか、ティオは呼吸に乱れがなくなっていた。

それでもまだ、顔は青白いが。

「起きてたのか。……しばらく寝てろ。治んねぇぞ」

ゾロはティオの頭をポンポンと軽く叩き、少し荒っぽく撫でた。

それが心地いいのか、ティオはゆっくりと目を閉じる。

「ふふっ。ティオさんの言うとおり、貝たちは浅瀬の漁礁にいるんです」

「でも、それであのウェイバーが動くとは思えないけど?」

「えぇ、それはこっちです。ちょっと小さめですが、原理はトーンダイヤルと同じです」

コニスはダイヤルを風鈴に向け、殻頂を押した。

貝から風が吹き出し、風鈴がチリンチリンと心地いい音を鳴らす。

「おぉ〜、こっちは風が出るのか!」

「貸してくれ!」

コニスにダイヤルを貸してもらうと、ルフィはそれを持って腕を回した。

「これはブレスダイヤル。風を蓄え、自由に排出できるんです」


"カチッ……ブシュゥゥーッ!"


「フベバハビブベ!」

ルフィは顔面に風を受けていた。

「大きさによって違いますけど、これを船尾につけると、軽い船なら動かせます」

「なるほど、それがウェイバーなのね」

「なるほどな〜。風を吹き出して走ってたってわけだ」

「いいな〜ウェイバー」

「本当は色々あるんですよ? スケートタイプのものやボードタイプのもの。私はウェイバーの操縦が精一杯ですけどね」

「いいなぁ〜! 乗りてぇな〜! ナミの奴、いいよな〜! せっかく1個持ってんのに!」

「お持ちなんですか? ウェイバー」

「あぁ、拾ったんだ!」

「けど200年も経っててボロボロなんだよ。さすがに動くわけねぇって」

「それは分かりませんよ? 元々ダイヤルは貝の死骸を使いますから、貝殻が壊れていなければ、半永久的に使えるんです」

「ほら見ろ!」

「でもルフィ、乗れねぇだろ?」

「う〜……」

「他にもまだ種類がありそうね。これもそうなのかしら」

ロビンがテーブルに置いてある貝殻を指す。

「えぇ、ランプダイヤルです」

チョッパーが殻頂を押してみた。

"カチッ"

「おっ、貝が光ったぞ!」

「他にも、炎を溜めるフレイムダイヤル、香りを溜めるフレイバーダイヤル、映像を残せるビジョンダイヤルなど、色々あります」

「面白いなぁ!」

「これらは、空の生活とは切り離せないものなんです。ですから空の文化は、ダイヤルエネルギーと共にあると言えますね」

「……すか〜……」

「「「?」」」

何の音かと思えば、いつの間にかゾロが寝ていた。

……まぁ、いつものことである。

「さぁできたぞ。空島特製スカイシーフド満腹コースだ」

「「「?」」」

聞こえた声に振り返れば、サンジとパガヤが皿を幾つも持ってやってきた。

「うまそ〜っ!」

ルフィが手を伸ばして皿を受け取る。

「ルフィ、独り占めすんなよ? ……って、えっ、ティオちゃん!? どうしたんだよ、こんなにぐったりしちゃって…」

青ざめるサンジに、ウソップが他人事のように説明した。

「あぁ〜、高山病だとよぉ。チョッパーの話じゃ、しばらく寝てりゃ治るってさ。ったくひ弱な奴だぜ〜」

「あぁ……そんなかよわいティオちゃんもイイ!」


"バリバリ…マグマグ、ゴクンッ! ガリッ!"


「お〜、うんめぇなぁこれ〜」

掃除機のように動くルフィの両手。

皿の半数は、既にカラになっていた。

「あっ、俺たちの分まで食うなよお前!」

「俺のもだぞ!」

慌ててウソップやチョッパーも参戦する。

「いっぱい作ってあるから慌てんな」

サンジはそう言い残して、一服しにバルコニーへ出ていく。

ロビンは小皿を取りつつティオに訊いた。

「ティオはどう? 食べられそうかしら」

「(コクン)…たべる。そらじま、りょうり、きに、なる」

ティオは、半ば意地で起き上がった。

「ま、食うならさっさと食えよ? なくなっちまうからな」

いつの間に起きたのか、ゾロも食事に手を伸ばしていた。

ロビンがティオの皿に、柔らかくて食べやすそうなものを取ってくれる。

「……ありが、とう」

「どういたしまして」

ティオは手始めに、ぷりぷりの大きなエビを頬張った。

(……おい、しい)

自然と目が見開かれる。


―――みんなで食べる、美味しいご飯。

ティオは、今までにないくらい楽しいと感じていた。


このあと、"神"とやらが、麦わらの一味に影を落とすとも知らないで―――。





6,犯罪者
 
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