シザンサス

□3,ノックアップストリーム
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モックタウンを出たメリー号は、島を回り込んで東に向かった。

……が。

行く手を塞ぐ船に、ルフィが顔をしかめる。

「さっそく変なのに出くわしちまったな〜。でも、あん時の奴らじゃねぇみてぇだぞ? ウソップ」

「あ、あぁ……」

現在、メリー号の前には巨大な船が立ちはだかっている。

「あんときの、やつら?」

後ろから鈴を転がすような声が聞こえて、ルフィとサンジが振り返った。

「ん、ティオ。おめぇ着替えたのか」

「うおおっ! ミルクのような白い肌、深海の奥底のように神秘的な青い瞳、太陽にきらめくしなやかな金髪、そして清楚な白いワンピース!」

ティオの横にロビンが立つ。

「ふふ、いつまでも海軍の服じゃ目立つでしょう?」

ティオはじっと前方を見つめた。

目の前には巨大な船があり、猿のような容姿の大柄な男が乗っている。

「かいぞく、しょうじょう。かいていたんさく、とくいとしてる」

ティオの言葉にルフィが首をかしげる。

「ショウジョウ? 知ってんのか?」

「(コクン)…このあたり、なわばり、してる、おおざる、きょうだいの、かたわれ」

「へぇ〜、何でも知ってんだな〜。……ん? 大猿? それってよ、もう片っぽはマシラって奴か?」

「(コクン)…しってる、の?」

「あぁ。あの猿なら、蹴り飛ばした」

聞こえたのか、ショウジョウが激昂する。

「ぁあっ!? マシラを蹴り飛ばしただと!? 兄弟をよくもっ……マシラのカタキだぁ!」

「へ? おいおい、蹴ったけどよ、あいつまだ生きてるぞ?」

ルフィが弁解しても、ショウジョウは聞く耳を持たない。

「音波! ハボックソナー!」

ショウジョウは、手に持ったマイクに向かって、大声を出し始める。

声はスピーカーで増幅され、辺り一帯に響き渡った。


"バキッ…バキバキッ"


板が割れる音が聞こえてくる。

「船が!」

驚くルフィに対し、ティオは冷めた目でため息をついた。

サンジもため息混じりに、新しいタバコに火をつける。

「……で? 何やってんだアイツら」

「さぁ。でもスゲェな〜。声で船が壊れてくぞ」

ショウジョウは、音波でメリー号を攻撃しているつもりだろうが、自分の船の方が近いため、どんどん壊れていく。

「ほらみんな! ぼーっと見てないで、今のうちに先へ進むのよ!」

「は〜いナミさん!」

「お! ナミがもう鬼じゃねぇ!」

「ホントか!?」

「そりゃあんだけ発散すりゃぁな」


"バキッ……"


「?」

背後で嫌な音がして、ウソップが振り返った。

「うわっ、ちょっと待て!」

ようやく声が届いてきたらしく、メリー号も板が剥がれ始めていた。

「マズイ! 修理箇所から見る見る崩れてってるぞ!」

「うそっぷ、しゅうり、へただから?」

「あ〜そっか〜……ってそういう問題じゃねぇだろ!」

「全速前進! この声が届かないとこへ行くのよ!」

ナミの指示で、メリー号は急いで方向を変える。

何とか倒壊する前に、ショウジョウの声の領域を抜け出すことができた。







"カンカンカンカンカン……"


難を逃れた後、麦わら一味の男たちは、メリー号の修繕に取り掛かっていた。

ウソップ、ルフィ、ゾロが金槌を持ってトンカンする中、チョッパーが釘を渡して歩く。

「ったく、オランウータンめ、さらに船を破壊してくれやがって……」

ウソップが頬を膨らませると、ゾロがため息をついた。

「気がつきゃこの船もボロボロだな。替え時か?」

「なに勝手なこと言ってんだテメェまで! この船がどういう経緯で手に入ったのか、テメェが知らねぇわけねぇだろうが!」

ルフィがいい顔で振り返る。

「分かってるよウソップ。文句言っても仕方ねぇ。ゴーイングメリー号も俺たちの大切な仲間なんだ。頑張って俺たちの手でよ、直してやろうぜ」

ウソップは思わず涙ぐんだ。

「ルフィ、オメェって奴ぁ……」

だが……


"カン、カン、バキッ!"


「あ」

ルフィの力強いひと振りで、メリー号の側面が大きく破壊された。

「てめええぇぇ!! 直してんのか壊してんのかどっちだああぁぁ!!」

「いや、直す気満々なんだけどよ」

"バキッ!"

「あ、また壊れた!」

「ルフィィィィィ!!」

ウソップが嘆くのは当然だが、メリーも密かに嘆いていると知っているのは、ティオだけだった。

ティオは苦笑い気味な眼差しで、メリーの頭を撫でる。

「メリーの奴は、何か言ってるか?」

「?」

板を持ったゾロが、ティオの近くでトンカンし始めた。

「お前、物と話せんだろ? ウソップから聞いた」

「……」

ティオは、ピークヘッドに目を向ける。

「めりー、いっぱい、みせてくれた」


"カンカンカンカンカンカンカン……"


「いーすとぶるー、みんなと、はじめて、あった、ひ。なかま、ふえるたび、わらいごえ、ふえた。ぐらんどらいんへの、みち、りばーすまうんてん……めりー、しあわせそう」

「んじゃ、今日からお前の記憶も入ったわけだ」

「?」


"カンカンカンカン……"


「仲間が増えた日、全部覚えてんだろ? だったら、今日お前のことも記憶されたはずだって言ってんだ」

「……」

「……よっ、と。ウソップ、次どこだ?」

「ん? あぁ! 船尾の方を頼む!」

ゾロは木材を担いで、船尾の方へ歩いていった。

「……」

ティオは黙ってその背中を見つめる。

(……なか、ま)

何を言っているのだろう。

自分は海兵だ。

ほんの少し、腕が治るまでの間だけ、居させてもらうだけなのに。

「……」

胸の辺りがむず痒くなった。

しかしその正体は分からない。

分からないまま、ティオは、メリーの顔をじっと見つめていた。

 
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