孤高の歌姫

□歌姫の真髄〜シンドリア編〜
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「実は女性でね。
正確に言うとお前に、というよりもお前たちに、だ。
シャルルカン、スパルトス。連れてきてくれ」

女性!...ジャーファルは額からいっそう脂汗を出す。
シンドバッドの女性絡みの話は悪いことしか想像できない。
ジャーファルが脂汗をかいていることは露知らずシンドバッドはニコニコとして船を見ている。


船からシャルルカンとスパルトス、それと女性というよりも少女と思える人が降りてきた。
その少女は赤茶の長い髪をしていた。長い三つ編みが歩く度にゆらゆらと揺れている。
シャルルカンやスパルトスの後ろに隠れるように歩いていて心なしか挙動不審のような...

シンドバッドは3人の方に歩いていった。
少女の肩がビクンッと揺れる。


シンドバッドは少女の右側に立つと
「彼女だよ。会わせたい人は。実は彼女は...お...?」
シンドバッドが少女の肩に手を置こうとしたとき...


 サッ...


避けられた。
もう一度負けじと手を伸ばす。


サッ......


少女は三つ編みを揺らし先程よりも距離を取る。

暫く手を置く、避けるの攻防が続き、終いには少女はシャルルカンの後ろに隠れてしまった。


誰がどう見てもシンドバッドを嫌っているとしか思えなかった。



今までに女性に嫌われたことが無かった...というよりも逆に女性が寄ってくらいだったシンドバッドにとっては初めての事だ。
何故だ...と不審に思っていると後ろから途轍もない殺気を感じた。



ビクッとして振り返ると笑顔のジャーファルがいた。

...全く目が笑っていない。

確かに笑ってはいるのだが目だけ笑っていない。
心なしか後ろに般若のような...何か禍々しい物がいるような感じがする。



「ヒッ...じ...ジャーファル君...どどっ...どうしたんだ。目が...目が怖いぞ...」

部下の強烈な威圧感に押されながらもオズオズと声を出す。

「シン...」
「はっ...はい!」
「何を...何をしたんですか。」
「は?」

シンドバッドは惚けた声を出す。何をした...?だと。

ジャーファルは一層笑顔を深めるとゆっくりと...しかし強い威圧感を持った声で話す。


「酒ですか。酔った勢いでやってしまったんですか」
「なっ...!!ちがッ...違うぞジャーファル君ッ俺は何もしていないぞ!!」

ジャーファルの言葉で全てを理解する。とんでもない勘違いをしていると思い必死で否定しようとする。
その刹那、ジャーファルが一変した。



「嘘おっしゃい!!ならば彼女の反応は何ですか!!明らかに怯えているじゃないですか!あれで何もなかった、と言う方がおかしいですよ!!」
「ちょ...待て待てジャーファル君!!違うんだ!!その...君が考えていることはやっていない!!...ま...まて...まず武器を下ろせ...!!」
「煩い。あれ程注意せよと言ったのに...公務で煌へ行ったのにあんたは何を...。酒には注意しろと言ったのに...挙句の果てにこんな少女にまで手を出して...」

ジャーファルの顔からはもはや笑顔は消え、恐ろしい形相をしている。両手には赤い紐の着いた暗器である縄 双鏢を構えている。

「待て...話せば分かる!俺は本当に何もやっていない!!」
「問答無用!! 双蛇鏢(バララーク・セイ)」
「うわーッジャーファルさん待って待って!!」
傍観していたシャルルカン達が流石にマズイと思い止めに入る。


暫くの間シンドリアの港は騒がしかった。






「...あ...」
「どうしたモルジアナ」
「シンドバッドさんが帰ってきた様です。でも何か...揉め事が起きたようで...」
「...いつものことだ」
遠く離れたシンドリアの森林の中で稽古をしていたファナリスの二人も何かを感じ取っていたようだった。
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