孤高の歌姫

□歌姫の真髄〜シンドリア編〜
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数週間後...


場所は変わってシンドリア王国の宮廷。


そこの廊下を世話しなく小走りで走る人影があった。
クリーム色の服に緑の格子状の袖と襟、両手いっぱいに持った資料から彼が文官であることが見受けられた。
彼が走る度に頭に被ったクーフィーヤがパタパタと揺れる。

大き過ぎる資料を持ちやすいように持ち替えているとすれ違った部下から声をかけられる。


「ジャーファル様、先程シンドバッド様の船がもうすぐ到着すると連絡が入りました」
「シンが...?わかりました。すぐに準備して向かいましょう。
ならば申し訳ありませんがこの資料を財務室に持って行って頂けますか?私は色々準備があるので」


大きな資料を渡すと相手は分かりました、と言って財務室へと駆けていった。

ああやって仕事を押し付けるのは気が進まないが今回に限っては致し方ない。
数ヶ月前に煌に旅立っていた自国の王が帰ってくるのだ。こうしてはいられない。
先程の部下はあと少しで帰ってくる、と言った。ということはあと数刻ばかり。

時間は無い


「...ふぅ...よしっ!!」


ジャーファルは一旦目を閉じてひと息つくと気合をいれ、もと来た道を引き返したのだった。













数刻後





シンドリアの入江から一隻の船が来航した。



シンドバッドの船だ__




船から桟橋が下ろされ、シンドバッドが降りてくる。カツカツと靴を鳴らし王の威厳を醸し出しながらジャーファルのいる方へと歩み寄る。



「王よ。煌へのご政務お疲れ様でした。嘸かしお疲れのことでしょう」
シンドリア特有の胸の前で両手を組むポーズでジャーファルはシンドバッドを迎える。



流石は凄腕政務官。



僅か数刻の間にシンドバッドが帰ってくるのに必要な手続きをすべてこなしたのだ。


「ジャーファル、俺がいない間シンドリアをしっかりと治めてくれて感謝する」
「有り難きお言葉」
「それとアリババ君達の事だがどうだろうか。バルバッドを出たあと俺はすぐに煌へ向かったからよく分からないんだ。元気に...とまではいかなくても少しは精神的に落ち着いたかい」

シンドバッドがそう言うとジャーファルは組んでいた手をおろして
「ええまぁ。アリババ君は初めこそは全く食事に手をつけませんでしたが最近はしっかりと食べているから問題はありませんよ」
「そうか...なら良かった。そう言えばジャーファル君、君に合わせたい人がいるんだ」
「わっ...私にですか...??」

突拍子にそんなことを言われたためジャーファルは困惑した。

私に会わせたい人...?また何か厄介事でも持ってきたのでは...とジャーファルが脂汗をかいているとシンドバッドはニコニコとしながらこう続けた。
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