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□先輩@
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前のデスクの先輩が珍しく遅刻をした。
普段から真面目で熱心…というわけではなさそうだけれど、寡黙で人を寄せ付けない彼はいつも静かに仕事をこなしているイメージがあった。
「なんでミンスさん、今日いないんすか?」
「知らん、有休じゃないのか」
隣のデスクの先輩はどうでもよさそうにあくびをしている。
「あ、それか、あれだな。」
思い出したように指を鳴らすと得意げな表情で顔を近づけてきた
「ベイビーだ!」
間違いない!というように満足気に笑うと酒臭い顔を引っ込めて小便、小便と言いながらトイレへ消えていった。
…ベイビー?赤ん坊?
たしかあの先輩は、俺と年が変わらなくないか?結婚して子供がいるなんてかなり意外だな、とても家庭を持ってる男には見えないし、ましてや父親だなんて似合わなさすぎる。
しかしなんで赤ん坊なら母親が面倒をみないんだ?
プルルルルル……
もくもくと膨らんでいった興味が、業務電話によってかき消されていった。
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「ということなので、チャンヒさんは欠だけとってもらえませんか?」
「あ、はい」
交代制で飲み会の幹事が回ってきたから皆に参加するかどうかを聞いて回っていると、いつものように先輩は不参加だった。
その時、先輩が遅刻したときの隣のデスクの先輩との会話が蘇った
魔が差した俺はいつもは仕事のことしか話しかけない先輩に一歩歩み寄った
「ミンスさんって、いつも飲み会不参加ですよね。なにか用事があるとか?」
「そんなかんじです」
無愛想に答えるとにこりともせず仕事を再開する
可愛くない人だな
「あ、もしかして!お子さんをお風呂に入れなきゃいけないとか!奥さん、鬼嫁だったりして?」
冗談っぽく笑いながらからかってみると、想像通りギロリと睨まれた
あぁやっぱりこうなるよな
子供のことでデレたりする意外な一面とか求めてみたのが間違いだったな
失敗、と思ってそそくさと仕事にもどる