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□逃避
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韓国に着いて電源を入れると、恋人から着信とメールの嵐。
あぁ、可愛いなぁ。なんで俺の事そんなに好きなんだろう。
頬が緩むのを必死に堪えながら、帰ってきたよとメールを打つ。

空港を出てバンに乗ろうとすると、誰かが背中を押す。

「はーい、チャンジョ一番後ろの席に行ってー!」

よく通る特徴的な声、ニエルヒョンだ。
素直に一番後ろへ行くとニエルヒョンは隣に腰を下ろした。

「あー、疲れた」

「はやく帰って韓国のご飯食べたい〜」

疲れた様子で口々に言いたいことを言いながらメンバーがバンに乗り込む。一番後ろに来ようとする人は誰もいない。

何も気にせず彼女とメールのやりとりをしていると、いつの間にかバンは発車していた。

はやく会いたい、なんて笑ってしまうような安っぽい言葉を打っていると、ニエルヒョンがこてんと頭を俺の肩にのせる

身体がビクリと反応する

気付かれてなければいいけれど
と内心ヒヤヒヤする

気にしないフリをして携帯をいじる
けれどもう内容は頭の中に入ってこなかった
ただひたすら右肩に意識が集中する

あぁ、この人は分かってないな

苦い想いを噛み締めながらも必死に携帯の画面を見て指を動かす。
すると右腕にヒョンの両手が組まれた。

「……ヒョン」

「日本寒かったね〜」

「ヒョン、やめ……」

「やめないよ?」

ヒョンは体勢を変えるでもなく腕を組んだまま動かない
ここからじゃ表情が分からない
けれど携帯の画面は、ヒョンの位置からじゃ見えてるはずだ

じゃあ分かるでしょ
俺、彼女がいるんだよ
なんでこういうことするかな

ただのメンバーとしか、
ただの弟としか思ってないならやめてよ

なんでいつもそう俺を舞い上がらせるようなことばかりするの
どうせなんとも思ってないくせに
いつまでも弄ぶなよ


「だってジョンヒョナ、最近つめたいもん」


そう言ってヒョンは頬を膨らませる
そんな可愛いことして、
俺が本気で好きだと言ったら突き放す癖に

歯痒い思いで彼女とのトーク画面を閉じる

つめたい?
それはメンバーとして、弟としての態度だよ。
前までの俺の態度は、ヒョンのことを好きな一人の男としての態度だったんだよ

気付いてよ

俺が何か言えば変わってた?
告白したらよかった?
どうせ、ヒョンは本気にしない
からかって終わりだろ?
それで俺が傷ついてることになんか、気付かずに。

分かってない、分かってないよ。

ヒョンは俺のことなんて、全然分かってない

猫みたいに自分の頭を俺の首に擦り付けて、ヒョンはまた独特の甘い声を出す。


「だからぁ、ジョンヒョナがどうして最近俺に冷たいか言ってくれるまでこうしてるの」


ニエルヒョンの吐息が手にかかる
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