saiyuki novel

□独占欲(35)
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照り付ける太陽の熱に、じりじりと肌を焦がす。さらに内側からも熱が上がってきて、悟浄は額に流れる汗を服の袖で拭いながら、大きく息を吐き出した。
「あちぃ…もう無理」
「なら脱げばいいじゃないですか、その上着」
項垂れる悟浄の隣から、ごく普通の事をさらりと言ってのける八戒に目をやると、長袖にも関わらず汗一つない涼しい笑顔を浮かべていた。
「お前、暑くねえの?」
「暑いですよ?」
そうは見えねぇけど、と言う言葉を飲み込み、悟浄は引き攣った笑みを浮かべた。視線を前に戻すと、冷たくて気持ち良さそうな川の中に半裸の猿、もとい悟空が楽しそうに水浴びをしている。
「悟空と水浴びでもしてきたらどうです?」
「本当性格わりぃのな、お前」
傍から見れば噛み合っていないような会話ではあるが、悟浄はどうしても悟空と一緒に水浴びを出来ない理由があるのだ。そして、その理由を八戒はなんとなく気付いている。
「ありがとうございます」
「ドウイタシマシテ」
八戒は、悟浄の皮肉を涼しい笑顔でさらりと流した。
額から流れる汗を拭いながら、悟浄は川に入れない原因を作った男をちらりと横目で見た。何時も纏っている法衣はジープの上に脱ぎ捨て、眉間に皺を寄せながら煙草をふかしている様はどうみても坊主に見えない。この鬼畜生臭坊主が、と心の中で悪態を零す。そして、早く夜になってくれと祈るように思った。



三人分の寝息が聞こえる事を確認すると、悟浄は物音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。そして、三人が目を閉じている事を確認すると、そろり、そろりとその場を離れる。少し歩くと川のせせらぎが聞こえ、口元を緩ませた。川辺にジャケットを脱ぎ捨ててしゃがみ込み、両手で水を掬って汗ばんだ顔を洗う。
「あー、冷てえ」
幸せそうな表情を浮かべながらジャケット同様タンクトップとブルゾンを脱ぎ捨てて、川に足を踏み入れた。川の水は悟浄の膝までしかないため、悟浄はゆっくりそこに腰を下ろす。冷たい水が身体に籠った熱をみるみる逃がしていく気持ち良さに、悟浄はうっとりと目を細めた。
「この時期だけは、ご遠慮願おう。うん」
「何を遠慮するんだ?」
「うおっ」
ただの独り言に思わぬ返事が返ってきたので、悟浄は思わず全身をびくりと震わせ後ろを振り返った。
「三蔵…ビックリさせんなよ」
「てめえの警戒心がなさすぎるだけだ」
「うっせえ。つーか、お前の所為で日中死にそうなんだけど」
悟浄は真紅の髪を掻き上げ、訝そうな表情を浮かべた。首筋、胸元、至る所に散らばる赤い印。薄くはなってきているが、それでもまだ目立つ。
「知るか」
「知るかじゃねえ!っておま、うわっ」
三蔵は、喚く悟浄の腕を掴み、川から無理矢理引っ張り上げた。川に浸かっていたものだから悟浄は今、全身に何も身に纏っていない状態である。
「……見んなよ」
いざ凝視されると、同性であっても恥じらってしまうものなのだろうか、悟浄は頬を赤く染めて視線を逸らし、まるで女性のように身体を両手で隠した。
「消えそうだな」
「ああ、消えてくれねえと暑くて死ぬぜ、俺」
「…チッ、また付けるか」
「はあ?え、ちょっ」
空耳であってほしい、心の中で切実な願いを叫ぶ悟浄の願いは叶う事なく、次の日もまた次の日も、彼は長袖で暑い季節を過ごすのであった。
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